基礎工事は本職にと考えていたが、全くのよそ者で誰に頼んでいいかさっぱり見当もつかなかった。こういうときは人に聞くのがいちばんである。この土地で知人はたった一人中野さんだけだった。案ずるより産むが安しとはよくいったものだ。近くに住む大西さんという左官屋さんを教えてくれた。大西さんに電話を入れると「犬の散歩で前をよく通るから、そこならよく知っている。」ということだった。
会ってみると何のことはない。大西さんのお宅は、道一つを隔てた筋向かいにあった。まあ、筋向かいとは言っても、こちら側には田圃と林しかないのだけれど。土地を見てもらい、T社から送られてきた図面を見せた。大西さんは、素人仕事を笑いながらも土地の出来具合を確かめて、何とか大丈夫だろうと言ってくれた。
今やっている仕事の手が空いたら取りかかるということだったので、今か今かと待ちわびていたら、7月の半ばに電話があり、完成したという。楽しみにしながら現地に向かった。着いてみて驚いた。まるで、自分の土地のようでなかったからだ。小さいながらも、住宅の工事現場のように整然としていた。
「大西さん。あれは」と、言いかけると、
「ああ。少しユンボで崖を削らせてもらったよ。あれだけ離しとけば、湿気も大丈夫だろう。」
大西さんの仕事だった。南側の崖が、きれいな断面を見せていた。それまで置いた土で崖のようになっていた北側の部分もユンボを入れるためになだらかな坂になっていた。この坂なら、丸太を運ぶにも具合がいいだろう。心配りがありがたかった。真新しい土の色が、夏の日差しに照らされてそこだけ明るく光っていた。
小屋の本体の部分の基礎は図面では独立基礎でもいいと書いてあったのだが、布基礎にしてもらった。小動物が入り込むかもしれないというので、空気抜きのところには丁寧なことに目の細かな網まで入っていた。ベランダの部分は独立基礎である。アンカーボルトを埋め込んでもらってあるのを確かめ、受け渡しを終えた。代金は23万5千円であった。安心料と考えている。町に近い人なら、ミキサー車を頼んで、自分で作ることも可能だろう。そうすれば、費用はもっと安くなるはずだ。
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