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WEEKEND LOG LIFE

 12.屋根作り

 破風

屋根作りは、棟木と梁を妻壁間に置いたときから始まっている。次は野地板を棟木、梁、桁の上に張り渡していくところだが、その前に幕板を張らなければならない。妻側でいえば、破風になり、側面から見れば、鼻隠しということになる。本来は、見映えをよくするための作業だから、野地板を張った後でもよさそうなものだが、仕様書によれば、幕板の上に野地板が釘止めされることになっているので、先に張ることにした。

MさんとKさんが手伝ってくれることになった。まず、正面の破風を取り付けた。Kさんが棟木に、Mさんが桁に陣取って、位置を定め、私が釘を打った。棟木のところで、斜めに切り落とし、二枚の板が隙間なく合わさったところで釘を打つと、妻側の景観が一段と引き締まって見える。これに気をよくして、山側の破風も取り付けた。三人がかりだと、やはり仕事がはかどる。

作業が新しい段階に入るところでは、必ず二人のやっかいになった。仕様書といっても簡単なもので、実際の段取りになると、現場で考えてやらなければならないことは山ほどある。経験者がいると、話が早い。二人にとっても未経験なことでも三人よれば何とやらで、何とか解決の糸口は見つかるものだ。段取りさえ分かれば、後は妻と二人でやっていくこともできる。事実、ほとんどの工程はそうしてやってきたのだ。

 野地板

野地板は、厚さ約2センチ、巾約10センチ、長さ2メートルで、両端がそれぞれ凸部と凹部に細工してある。この凸部に凹部を噛み合わせながら、屋根を張っていくのである。破風から少し出す部分は、電鋸で凹状になった部分を切り落とし、平坦な面にしておく。そうしておいて、棟木、梁、桁と接するところに釘を打っていく。その際気をつけなければならないことは、いつでも棟木や梁に対して、野地板が直角に交わるということである。切り込みの噛み合わせがどこかで甘くなると、少しずつ傾きが出て、最後のところで、合わなくなる。それは避けなければならない。

隙間を作らないよう、あて木の上から慎重に金槌で叩いて、正面の方から張っていった。ログを積んでいくのと比べると、力を使わない分、楽ではあるが、狂いを出してはいけなというプレッシャーがかかる。しかし、屋根が張れれば、雨の日でも作業ができる。床や、窓などの造作なら、天気待ちをしなくてもいいわけだ。それを思うと、少しでも早く張ってしまいたいという気持ちが先に立つ。はやる心に手元がおろそかにならぬよう、気をつけて作業を進めた。

幸い、たいした狂いもなく、片面を張り終えた。足場を移動して、反対側を張り終える頃には、日はすっかり落ちて、森は暗くなっていた。工事用の電源からフックつきのライトを取り出して、梁から下げると、もう、立派な家である。野地板と棟木や梁の接する部分にはシーリング材を入れてあるので、隙間から灯りが漏れることもない。外に出て、作業を終えた我が家を見た。暗い森の中にオレンジ色の灯りがぽっとともるその様子は、まるで絵本の世界だった。

 フェルトと水切り

屋根が張れたら雨の心配がなくなると思ったら逆だった。次の作業として野地板の上にフェルトを貼る工程が待っていた。せっかくの週末が晴れても、前日に雨が降ると、野地板が濡れていて、フェルトを貼ることができない。鬱蒼とした杉林の中、しかも谷間である。一日の日照時間が少ないこともあり、一度雨に降られると、しばらく晴天が続かないとしっかり乾いてくれないのだ。

天に祈りが通じたのか、その週は雨が降らず、週末を迎えることができた。フェルトといっても荒目の紙ヤスリのようなものだが、あらかじめ屋根の両側の長さに合わせたものを頂点から両側に垂らし、ホチキスの親玉のようなタッカーという道具で野地板に留めていく。ごわごわした紙状のフェルトをうまく抑え、空気の入った膨らみを作らないのがこつである。フェルトとフェルトが重なる部分は1寸ほどでいい。こうして、最後まで貼っていく。

屋根を張ってしまうと、足を置くところがなくなる。下の方は、足場から手を伸ばしてできるが、棟近くになると、屋根の上での作業になる。そこで、手頃な板を棟と平行に釘で仮止めして足場にした。作業中はいいのだが、下りるときには手探りならぬ足探りで、下にいる妻から指示をもらいながら下りることになる。

フェルトの上から、破風と鼻隠しに雨がかからないように水切りをつける。L字状のブリキ板でできた水切りを釘でフェルト越しに幕板に打ち込んでいった。後は屋根材(シングル)を貼るだけである。

 シングル

T社のシングルは、この国の物とは違って独特の趣を持っていた。ゴム状の板に細かく砕いた石片を貼りつけたようなそれは、見かけほど硬くなく、樹脂の幕を剥がすと接着面があらわれた。一枚のシングルは、六角形3個分ほどの長さでできている。鼻隠しのすぐ上に貼る部分と、棟木の上に貼る部分だけは、長方形になっていた。

まず、鼻隠しの上に長方形のシングルを張り詰めた。いうまでもないが、シングルは下の方から貼っていく。そうでないと、雨が隙間から入ってくるからだ。次に、鱗状になっていて、ひとつおきに出てくる完全な六角形の底辺を、鼻隠しの先端に合わせて貼っていく。2段目からは、互い違いに貼ることで奇麗な六角形のハニカム構造ができあがるというわけだ。

祖母の使っていた膏薬のような接着剤は結構強力で、それだけでもしっかりくっついていたが、仕様書通り、1枚のシングルの上の部分に釘を打って留めていった。釘を打った部分の上に次のシングルが被さるようになっていて、釘は上からは見えなくなる。両側を張り終えた後で、棟に矩形のシングルを貼り重ねてしまうと、それで作業はすべて終わりだ。

できあがった屋根を見て、子どもの頃大事にしていたクリスマスツリーのオーナメントを思い出した。雪を被った小さな家を模したその飾りは、物語に出てくるお菓子のお家のようで、いたく気に入っていたものである。暗い森を背景にして、砕石の貼りつけられたシングルは、まるで雪を被っているように見えるのだった。

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