つい先だってのことである。仕事中に職場に電話がかかってきた。M町役場からだという。いったい何の用だろうと、いぶかしく思いながらも電話に出た。
「仕事中にすみません。M町役場の税務課の者ですが、あなたはM町にログハウスを持っておられますか。」丁寧な物言いだった。
「はい。持っていますが、それが何か。」
「そうですか。実は、山の中のことで、私どもも気づかずにいたので今になってしまったのですが、税額を定めるために、お家を見せてほしいのです。近々こちらに来られることはありませんか。」
税金については、小屋を建てるときに、聞いたことがある。その時の話では、税の対象になるほど大きな建物ではない、と笑われてしまったのだ。建ててからもどこからも何も言ってこないので、やはり対象外だったのだと思っていたのだったが。そのことを言うと、
「いえいえ。三方に壁があり、屋根がついていたら、どんな小さな小屋でも税はかかります。」
とのことだった。こちらの不明を詫び、双方に都合のいい翌週の週末に現地で会うことにした。
当日、昼までの仕事を終え、コンビニでおにぎりだけを買うと、急いで車を走らせた。山に着くと、見慣れぬ車が止まっていた。中から出てきたのは40代の男女二人組みであった。
「わざわざお呼び立てして、どうもすみません。外側からの測量はもう済ませてしまいました。中を拝見させてください。」
男の人の方が言う。女性の方は、何か書類に書き留めている。
「今開けます。でも、ログハウスですから、中も外もないですよ。」と言いながら鍵を開けた。しばらく来ていなかったので、中はひんやりと湿っていた。
「ええ。よく分かります。ログハウスもよく伺うんですよ。二階部分の広さを見たいんです。算定基準に入りますので。」と言いながら、ざっと見て、書類に書き込む、その間5分くらいだろうか。あっけないものである。
あとは、いつ頃建てたかということなどを聞かれ、必要事項を書類に書き込んで終わった。
「でもどうして、今頃。」と気になっていたことを聞いた。
「いえね。みなさん。税はあまり出したくないらしくて、うちばかり取りに来てるが、あのログハウスはどうなんだ、という声が出てきまして、それでこちらも分かったということなんですよ。」
聞いてみれば他愛もない。こんな小さな小屋にかかる税などしれたものだが、それを言い募ったところで自分の税額がいくらかでも下がるわけでもあるまいに、お節介な人もいたものだ。おかげで、脱税の罪からは免れたのだから礼を言わねばならないところだが、少し興がさめた。徒然草ではないが、「この小屋なからましかば」と覚えたのだった。
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