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WEEKEND LOG LIFE

 3.木を伐る

ある程度平坦な地面ができてはきたが、これ以上広げるには立木を伐らなければならなくなった。かなり大きく育った立派な杉丸太である。できればあまり伐りたくなかったが、どう少なめに見積もっても四、五本は伐らなければならない。せめて、自分の手で伐ってやろうと思い、手引き鋸で切りはじめた。

まず、木の倒れる方向を選び、その根元に鋸を入れる。買ったばかりの鋸は思うように幹の中に入り込んでゆく。杉独特の匂いが切り口から香り立ち、木屑がほろほろとこぼれ落ちる。三分の一も切り込んだあたりから、すこし鋸が重くなった。木の重みが切り口の方にかかってきたのだ。これで限界というところまで伐り進み、鋸を抜いた。

そして、今度は反対側にまわり、さっきの切り口の少し上に鋸を入れた。木は自分の重みで反対側の方に傾いでいるのだろう。鋸は、すいすいと入ってゆく。そうはいっても直径数十センチはある丸太のことだ。半分まで伐り進むと息が切れた。一息入れ、あらためて切りはじめた。反対側の切り口近くまで鋸が入ると、木はめりめりと音を立て自分から倒れていった。

立っているときは分からなかったが、一本の木の高さというのは想像してたよりずっと高いものだ。樹冠は敷地の向こうの林道を越え、谷川にまで達していた。これも新しく買った手斧で、樹冠近くを残し、枝を切り落としていった。そうして、全体を三分割する位の長さに切り揃えた。幹の先の方は一人でも何とか運べたが、いちばん太い部分は、持ち上げるのがやっとだった。一方の端にロープを結わえ、それを引っ張ることで、何とか敷地内に運び入れることができた。

週末の一日、それも天気のよい日だけの作業である。必要な立木を伐採するだけで、秋を通り越し冬に入っていた。あと一本という最後の木を切り倒していたときのことである。いつものように反対側から切り込みを入れていくと、思っていたより早く木が倒れはじめた。倒れるとき木の根元は反動で大きく跳ね上がって危険だ。あわてて飛びのくと、切り込みの足りなかった分だけ、倒れる方向が微妙に変化していたのか、木は、思っていた位置から少し離れた所に倒れかけた。

ところが、そこには他の木が枝を伸ばしていたから、倒れることのできない木は、宙ぶらりんの格好で、枝にひっかかってしまった。斜めになった木の、どこを押そうが引こうがびくともしない。これにはまいった。どんな拍子で下に倒れてくるかもしれない。このままにしておくわけにはいかなかった。考えた末、投げ縄の要領で、ロープを投げ、樹冠近くの幹に引っかけた。そのロープに飛びついて、自分の体重をかけて揺さぶると、さすがに効いたのか、立木の枝がしない、木は支えを失って地上に倒れてきた。

問題は切り株だった。そのまま放っておくわけにもいかず、周りを掘り出したのだが、掘るそばから細い根にシャベルがあたり、何ほども掘れない。鶴嘴で、周りの土を掘っては、鋸と手斧で、根切りをしていった。やっと一つの切り株が掘り終わった頃には、もうへとへとだった。一日がかりで、やっと一株というペースである。情けないようだが、満足な道具もなく一人きりの作業ではこれが限界かも知れない。なに、急ぐ必要はないのだ。無理をせず進めていくことにした。

その日も、切り株と格闘した挙げ句、疲れ果てて、ひと休みしていたところに、猟師風の人があらわれた。その人は銃を手に、銃帯を腰に巻いた姿でやってきて、地下足袋を焚き火の火であぶりながら言った。
「切り株なんか土に埋めてしもうたらいいのや。」
「白蟻にやられませんか?」ときくと、
「ここらへんでは白蟻は見やんな。」
と、まじめな顔で言った。今までの苦労は何だったんだ。とたんに力が抜けた。

それでも、やはり気になるので、どうしても掘り起こせなかった一つは、周りから火をたいて、表面を焼いて埋めた。これで、敷地から切り株は消えた。土地が広くなった。林の真ん中にぽっかりあいた空き地からは、四角な空が見えた。青い空には刷毛で掃いたような雲が浮かんでいた。土の上に腰を下ろし、しばらく空を見ていた。

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