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WEEKEND LOG LIFE

 21.罹災

穏やかな秋晴れの下で、村はいつものようにやすらっているように見えた。農家の垣根越しに金木犀の香りが漂い、枝もたわわに柿が実をつけている。けれど、水害の爪痕はそこかしこに残っていた。アスファルトには道路を埋めた泥土を掻いた跡が今も残り、路肩の弛んだ箇所には危険を示すロープが張られていた。村のあちこちに立った「給水所」の立て札のあるところでは、手にポリタンクを提げ、給水車の前に並ぶ人がいた。

小屋のある地区に近づくと、川の様子が様変わりしているのに気がついた。ふだんなら満々と水をたたえているダム湖は、堆積した土砂が川岸に段丘を作り、青灰色をした水がその中を蛇行するように流れている。倒木が岩で堰き止められ、剥きだしになった樹皮の白さが痛々しい。あと少しで小屋のある地区というところで道路は全面通行止めになっていた。しかし、迂回路があるところを見れば、道は通じているのだろう。

橋を渡り、向こう岸に出た。被害の大きかった地区だが、反対側と比べると山が迫っていないこちら側はあまり荒れていない。通行止めのせいか、道路は閑散としている。しばらく走ると、迂回路の標識が待っていた。橋の辺りは大きく山が崩れていた。倒壊した家屋の屋根が木に引っかかって宙づりになっている。おそるおそる橋を渡って、もとの道に戻った。

友人の言葉通り、小屋はどうにか無事だったが、前の渓川は川底の小石や砂利がすっかり浚われて、縞模様の岩盤が露出していた。お隣の家が、川の中に掘った井戸も流されてきた石や岩の下敷きになってしまったのか、見覚えのある筒型のコンクリートが見えない。少し下の方にあった欅の木は根こぎにされ、流されてしまっていた。

本体は無事だったが、雨ざらしで放置されていたベランダは、湿気で木が腐りかけていたらしく、一部が壊れていた。予め防腐処理が施された本体の部材とはちがって、もともとログの部材を梱包していた木を流用して作ったベランダである。日本最多雨地域の雨の前ではさすがに勝手がちがったのだろう。そのままでは踏み抜いたりすると危険なので、全部取り壊した。作るのには時間がかかったが、壊すのはあっという間である。

濡れた木が乾く暇もなしに次の雨が来るような今の環境では、もう一度作り直しても同じことである。雨はどうすることもできないが、周囲の木を切ることで日当たりはもっとよくすることができるだろう。問題は、またあの頃のように毎週末、山を訪れて孤独な作業に没頭することができるかどうかだ。思えば、今は家を離れている子どもたちが、まだ棒っきれを振り回して遊んでいた頃である。プラモで吊ってはよく連れてきたものだった。

久しぶりに汗をかいたら、体を動かすことからくるある種の快感が甦った。いつになるか分からないが、この次来たら、間伐に精を出すことにしよう。それまでに鈍った体をなんとかしなければならない。袖口で汗を拭いながら、そんなことを考えていた。

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