※この感想文の中には小説と異なる部分が多々あると思いますが、それは文中の細かい言葉遣いや、せりふの一つ一つにとらわれず、雰囲気やイメージで感想を書くために読後1週間たってからこの感想文を書いているからです。なので矛盾や大袈裟な事を書いている可能性が大です。夏休みの宿題として書き写すのは止めておきましょう。
武者小路実篤 著 「友情」 を読んで
杜川月史
日本の文学といえば大抵の人は夏目漱石や芥川龍之介などを思い浮かべる事だろう。それ以外にも川端さんや太宰さんなど沢山の小説家が頭に浮かぶはずである。しかし、それらは学生時代に教科書に載っていた人として覚えられているのであって、好きで覚えてるわけではないはずである。
漱石と言えば「坊ちゃん」、芥川といえば「蜘蛛の糸」というようにほとんど条件反射のように覚えてしまっているが、それらを読んだ事があるのか?と問えばほとんどの人が「ない」と答えるのではないだろうか。
私が子供のときから「沢山本を読むべきだ。特に文学が大事」という話を聞いたが、文学を読むべきなのは子供だけはない、大人だってエッセイや探偵ものばかりを読まずに文学を読むべきだ。子供に良いものならば大人にも良いはず、と言うか自分の読んだことの無い物をムリヤリ読ませやがってお前ら一体(以下自粛)
以上のように文学を再評価すべきと思ったので、とりあえず武者小路実篤の「友情」を読んでみた。
選んだ理由は特になし、強いて言うなら自分が友情にも愛情にも縁が無いからである。
この本の内容を手短に説明するならば
「ある男が美しい女性に惚れるが、その女性は男の親友にベタ惚れしており、親友と女性がくっついて終わり」である。
まあよくある恋愛物のパターンであるが、この本が他の恋愛物と違っているのは「男(野島)の妄想の暴走ぶり」と「親友(大宮)と女性(杉子)達による野島への追い込みっぷり」である。これらは今まで私が読んできた小説の中でも群を抜いて徹底している。
野島の妄想は杉子に会った瞬間から始まっている。いや、会う前に写真を見て一目ぼれしている。
実際に目にすれば、まるで女神にでもあったかのように讃え、他の女性達とは次元が違うと信じ込んでしまう。杉子は自分と結婚するのがまるで当然であるかのように出会いを神に感謝したりする。
しょっぱなから妄想が暴走している。会ってすぐ「結婚」の2文字が頭に浮かぶのだからすごい。一目ぼれにもかかわらず「彼女は自分にふさわしい女性だ」と上から目線なのも素晴らしい。もうこの時点で野島の印象は「素直なヤツなんだろうけど、ちょっと扱いに困るかな?」である。
しかし、杉子は野島にはとんと興味を示さない。「自分以外のつまらない男達(野島の脳内設定)」と同様に扱われているにもかかわらず、それすらも「純真な杉子らしい」とべた褒めである。ピンポンやトランプで杉子が勝とうが負けようが「やはり杉子は素晴らしい女性だ。なぜなら・・・」と超ポジティブに誉めまくる。
強く惚れていれば当然嫉妬も強い訳で、杉子が自分以外の男に話しかければ「何故あのような男に・・・」と嫉妬の嵐が風速42m/sで吹きまくってくる。またそれを洗いざらい大宮に話しちゃってんだから、読んでいるこっちが恥ずかしくなるくらいの正直ぶりである。
しかし、ほとんどの男はこの話は笑えないだろう。なぜなら、この野島君は世間の男(モテるヤツは除く)の胸の内を完璧にあらわしているからだ。
嘘だと思うなら読んでみるといい、10頁も読めば本を閉じたくなるはずである。思い当たるフシがありすぎて。
しかもこの状態が物語全体の2/3も続いているのだ。これを笑いながら読めるやつは鬼に違いない。
さて、この妄想状態を第1部とするなら、杉子にフラれて大宮に追い込まれるのが第2部である。
第2部は第1部に比べてびっくりするくらいに短い。ほとんどダイジェストと言ってもいいくらいである。
第1部の最後に杉子が自分ではなく大宮に惚れている事に気付いた野島は、杉子をあきらめる。
あきらめると言ってもあっさり「そうですか」と引き下がるわけではない。杉子の兄に「妹さんは僕と結婚する運命です」と世迷い事をぬかし、断られると「この事を杉子さんにも伝えてください。そうすれば・・・」と食い下がる。とにかく諦めが悪い。直接杉子にふられて可能性が0になって始めて野島は杉子をあきらめる。
と言うか諦めざるを得ないね、こうなってしまっては。これ以上進んだら犯罪者になるしかないし。
で、杉子を諦めて何とか仕事で成功しつつある野島(実は彼は劇作家だった、というかこの本には劇作家と小説家と学生しか出てこない。まともな労働者は皆無である。昔の小説はこういうのが多かなり多い、こういう所が文学が現代で受け入れられない理由だと思う)にある日、遠く(ヨーロッパ)に行った親友の大宮からお手紙が来る。
手紙の内容は「ゴメン」から始まり、大宮と杉子がくっつくまでの往復書簡だった。
書簡の内容は「杉子のアタック」「大宮の拒否、野島を見直せと諭す」「杉子の猛烈アタック」「大宮、心が揺れる『やっぱ好き』」「杉子のラブラブレター」「大宮のラブラブ返し」となっている。
その手紙の内容はすさまじいの一言である。衝撃的に手のひらを返されるのだから、第一部のなるい雰囲気は消え去ってしまう。
最初の衝撃は杉子の激白「私は野島さんとは一緒にいたくありませんでした」である。野島から見て杉子は「自分に興味を示さないまでもいつも純真に振舞っていた」ように見ていたのに、実は毛嫌いしていたのである。女は生まれながらに女優だとは言うがこれはまさに魔物だ。
第2の衝撃は大宮の「自分の本当は杉子に惚れていた。でも野島の為にガマンしていた」である。
第一部では野島の独りよがりな妄想に「うんうん、わかるわかる」と親友として付き合っていたのに、しかも単身でヨーロッパに行った理由が「杉子が自分を忘れて野島とくっつけばいいなと思って」では野島君の立つ瀬がないと言うもの。これは告白と言うより嫌味としか言いようが無い。
話は少しそれるが、この書簡を読み進んでいくと急に「?」と思う所が出てくる。大宮が「やっぱり杉子が好き」と杉子に返事をした直後の杉子からの手紙である。
それまで杉子からの手紙では語尾は「〜です。」「〜でしょう。」というかたちだったのが、ココに来て急に「〜ですの。」「〜なのよ。」と大きく変化する。当時(1919年)の女性の言葉遣いがどの程度なのかは分からないが、この語尾の変化はあまりにも露骨過ぎる。急に杉子がアホっぽく見えてしまう。これが何を意味するのかは分からないが、大宮も野島もこの事に全く違和感を覚えていないのは不思議でしょうがない。自分だったらどっちの立場にしても冷めるだろう。
あー、でも好きなら許すかな〜
最後に来るのが「追い込み」である。杉子への手紙で大宮は野島に悪いと言いつつも「彼(野島)ならこの状況も乗り越えて、立派な作家になるに違いない。これも神が与えた試練だよ」と締める。
ひどい話である。この一言のおかげで野島君は大宮を悪く言う事も自棄になる事も出来なくなるのだ。そこら辺の小説なら自殺又は殺人事件になる状況に追い込みながら「耐えて仕事しろ」と命令しているのだ。しかも、この告白には「正直に言ったんだから、自分(大宮)と杉子の罪はチャラにしてね」との圧力も感じられる。
恐るべし大宮、きっと大宮の心には何の罪悪感も残っていないだろう。この往復書簡で救われるのは大宮と杉子のみなのだから。
とっくに杉子を諦めていた野島にとっては再び地獄に蹴落とされたようなものである。こんな男を「親友」と思い「友情」を信じてきた野島君がかわいそうでならない。
結局、プライドをくすぐられた野島君は大宮の思う壺「友情パワーで頑張るよ」ってな感じの返事を書いて、一人泣き伏す。全く持って後味の悪いラストである。
しかし、この結末は本当に作者の狙いなのだろうか?
フラれた野島は容姿も社会的地位も運動神経もイマイチでお金もない、それに比べて大宮は全くその逆のキャラクターである、「ヨーロッパに行きたい」と言えばさっさと渡航できてしまうのだから相当のお金持ちである。
杉子は自分にベタぼれしているとりえの無い野島よりも、自分に冷たくても「色々と持っている」大宮について行ってしまったのだ。「これが現実だ」とでも言いたいのだろうか?
現在片思いをしている人、特に男はこの小説は読まないほうがいいだろう。読めば自分を野島と重ねて顔から火が出るほど恥ずかしくなり、今後の展開を思えば鬱になる事間違いなしである。しかもお題の「友情」すら信じられなくなってしまう。
色々な意味で読まなければ良かった・・・
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