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ENGLAND

 2006/8/27 ロンドン 1

六時半に起きて、シャワーを使った。時差にも慣れてきたからか目覚めは爽快。この日のロンドンは上天気である。買ったばかりの麻のジャケットに合わせて、下も麻のトラウザースで決めた。外に出て、気温を確かめることにした。上着を着たら暑過ぎはしないかと思ったのだが、陽の差すところでちょうどいい。日陰だと寒いくらいだ。

ホテルは地下鉄オルドゲートイースト駅のすぐ近くだった。階段を下りると自動券売機があった。ロンドンには前に来たことがあるが、地下鉄とバスの両方が乗り降り自由という一日乗車券がある。これを買っておけば、いちいち切符を買う必要がない。クレジット・カードが使えたので気が大きくなったわけでもないが、ゾーンで区分されている全区域に乗れるチケットを買った。これで市内ならどこまででも行けるわけだ。

 国会議事堂・ウェストミンスター寺院

ホテルのある位置はロンドンの地図を開くと右の端あたり。シティよりまだ東だから古いロンドンだと中心地近くだが、現在では町外れになる。テムズ川には歩いて数分、ロンドン塔やタワーブリッジの近くだ。ロンドン塔は後でゆっくり見学するとして、ロンドンに来たのだから、まずは国会議事堂のビッグベンとウェストミンスター寺院に挨拶することにした。

クリストファー・レンが建てたセント・ポール寺院を右に見ながら、ブラックフライヤーズ駅付近でテムズ川に出、川沿いを走る。映画『哀愁』の舞台になったウォータールー・ブリッジが見えてくる。その向こうに大きなゴンドラをぶら下げた観覧車はB.A.ロンドン・アイ。一回転するのに三十分で市内が一望できるのが人気だそうだ。

朝の光が真東から差してくるので、国会議事堂は逆光になっていた。写真等で見なれた風景を見るためには橋を渡って対岸から眺めなければならないことに気づいた。以前だったら、迷わず対岸まで歩いていって写真に収めただろうが、歩いていくにはちょっと遠い。ウェストミンスター寺院は王家の冠婚葬祭の場として知られている。ダイアナ妃の結婚式の中継は記憶に新しい。しかし、この日は信者のためのミサが開かれていて見学は許されなかった。いずれにしても時間があればまた来ればいいことだ。

 大英博物館

十時の開館を待って大英博物館を訪れた。マルクスや南方熊楠が勉強した大英図書館が移転したのにともなって図書館のあった場所がガラスドームで覆われた現代的なスペースに生まれ変わっていた。ルーブル美術館のピラミッドを意識したのだろうか、明るく開放的な空間はいかにも当世風で、一応中央に図書館はあるのだが、中の本は現代の本ばかりで、閲覧用の机には最新式のコンピュータが並んでいた。昔のままの図書館は永遠に失われたわけだ。早く来ておかなかったことが悔やまれた。

全部見るなら一日がかりでも足りない。有名なロゼッタストーンの前には列ができていた。カイロ博物館で見たのがレプリカで、こちらが本物だが素人目には区別がつかない。なぜか日本人に人気があるのがミイラだという。自然にできたミイラがガラスケースで展示されていた。カイロ博物館のミイラの部屋はカメラや荷物をいちいち預けなければならないほど厳重なチェックがあったが、ここでは何もなし。死後の世界観のちがいだろうか。

古代アッシリアの会戦の様子を描いたレリーフは、壁一面をおおう見事なもので、動物の四肢の筋肉の様子までつぶさに見ることができる。エルギン伯爵のコレクションも広い展示室でゆっくり眺めることができる。パルテノン神殿にあったものを剥ぎ取ってきたことから、女優のメリナ・メルクーリがギリシァの文化相時代、返還を要求して話題になったあれだ。個人的には返却されてしかるべきとも思うが、すべての国が同調したら、大英博物館にはイギリス関係の所蔵品しか残らないわけで、存続が危ぶまれることにもなろう。ここにあったからこそ守られたのだという言い訳で返却を渋るのも分からないでもない。

バッキンガム宮殿で衛兵交代を見る時間が来たので博物館を出た。イギリスではこうした公立の美術館や博物館は基本的に無料である(寺院等の観光施設は見学料をとっている)。厖大な展示を一度に見るのは大変だ。無料なら毎日通ってもいいわけで、よく考えられている。世界的な財産だからということもあるだろう。もとあった国に返却したが最後見られなくなることもあることを考えると、大英博物館の存在理由がでてくるわけだ。

 ナショナル・ギャラリー

どこの国で見ても衛兵交代は同じようなもので、どうしてこんなものに人が集まってくるのかよく分からないが、国籍、人種のちがう世界中から来た人々が、宮殿前の広場にひしめき合っている様は壮観だった。時間になると軍楽隊の奏でる行進曲に乗って、赤と黒の軍服を纏った衛兵の列が角を曲がって現れた。さすがに大人数で、他の国の衛兵交代とはスケールがちがう。衛兵の列をバックに妻の写真を撮ると、そうそうに引き上げた。

時間のあるうちに土産も買っておこうと近くにあるピカデリー・サーカス近くにあるロンドン三越を訪れた。キャンペーン中ということで、記念品をもらえる券を空港でもらったからだ。三越と言うからどんなところかと思ったら意外に狭いので拍子抜けしてしまった。熊のキイホルダーその他の細々した物をだけ買って、記念品をもらって外に出た。

そこからトラファルガー広場まで歩いた。例のライオン像がある広場だが、もちろんライオンを見たいわけではない。その前がナショナル・ギャラリーだからだ。以前来たときもほとんど一日中いたのを覚えている。レオナルドの『岩窟の聖母』をはじめ、この絵もここにあったのかと眩暈を覚えるほどのコレクションだ。もちろん全部見て回ることは不可能で、好きな物にしぼって鑑賞することになる。

ホルバインが騙し絵の技法を駆使して描いた『フランス大使たち』、ある方向から見ると頭蓋骨が浮かび上がる例の絵だ。教科書によく載っている絵だが、こういう絵は本物を見ないとその効果が分からない。大好きなカラヴァッジオの『エマオの晩餐』。右側の弟子の突き出された左手が画面から飛び出してくるようだ。

ヤン・ファン・エイクの『アルノルフィニ夫妻』もここにある。夫妻の後ろ向きの像が画面背後の壁に掛かる凸面鏡に映し出されているという超絶技巧だが、これだけは図鑑の拡大写真の方がよく見える。夫妻のまだ後ろに画家自身の肖像画が見えるはずなのだが、眼鏡越しでは確認できなかった。妻がカメラを構えたとき、係員が制止に現れた。それまでの絵ではそんなことはなかった。油彩画の技法を完成したと言われる画家の歴史的な絵である。フラッシュで傷むのを恐れたのだろう。もちろん美術館モードにしてあるので、フラッシュは光らないのだが、日本製光学機器の親切設計について説明できるほど英語が堪能なわけではない。黙ってカメラをケースに収めたのだった。

 ヴィクトリア&アルバート美術館

あっさり見たつもりでも、あれだけの作品があると時間がかかるものだ。昼の時間はすっかり過ぎてしまっていた。ピカデリー・サーカスまで戻ってパブ・ランチを食べることにした。せっかく買った乗車券だが、地下鉄の駅までがかなり歩くことになる。バスは、思ったところを通ってくれるわけではない。結局歩くことになる。以前はよく歩いたものだが、近頃では車にばかり乗っていてすっかり歩かなくなった。美術館や博物館の中にいても結局歩きづめなので、足に負担が来ていた。

キャプテン・キャビンというパブは、昼食時間が過ぎたせいか閑散としていた。マッシュルームとチキンのパイとBLTサンドイッチを注文した。ビールはやはり自分でカウンターまで行かなければいけない。エールを頼んだら、種類がいくつもあった。ロンドン・プラウドというのにした。すっきりした飲み口で気に入ったが、料理の方は評判通りの大味。付け合わせのマッシュポテトの量の多さにはただただあきれた。

パブで一休みして元気が出たところで、ヴィクトリア&アルバート美術館のあるサウスケンジントンまで地下鉄で行くことにした。モリスが室内装飾を担当した部屋があるはずなのだ。ケルムスコットに行けない分美術館でモリス・デザインを堪能したいというのが亭主の勝手な願いである。ところが、地下鉄を降りてから美術館に通じる連絡通路の長いこと。地上を歩くよりは真っ直ぐな分だけ近いのだろうが、壁だけを見て歩くのは変化がない分かえって長く感じる。

やっと美術館についた。モリス・ルームを探すのだが、どう考えてもそこにあるべき部屋の扉が閉じられている。警備員がいたので尋ねると、よく分からない様子で、美術館の係員のいるところまで連れて行ってくれた。係員が平然と「閉館中です」と答えるのを聞いてがっかりした。九月まで開かないそうだ。美術館が開いているのに肝心の部屋だけ見られないなんて、そんなことがあるのか。どっと疲れが出た。

デザイン関係の所蔵品が多いV&Aにはミュージアム・ショップも充実している。以前お揃いで持っていたモリス・パターンのシャープペンシルはここの物だった。妻が無くしてしまったので、もしあればと期待していたのだが、残念ながら見つからなかった。アール・ヌーボー調のアクセサリーに気に入ったものがあったのがせめてもの慰めだった。

 ハロッズ

帰りも同じ距離を歩いて地下鉄に乗ったのだが、妻はかなり疲れて無口になっていた。危険信号である。元気が出るには買い物に限ると思ってハロッズのあるナイトブリッジで降りたのだが、地下鉄を降りたら歩かなくては行けない。それほど近くはないが、タクシーに乗るほどの距離でもない。疲れてくるとふだんは何でもない距離が凄く長く感じられる。この日がそうだった。

さすがにハロッズ。高級ブランドが目白押しだった。婦人服売り場で黒いチャドルを着けたアラブ系の女性が椅子に腰かけて店員と話をしていた。いかにも上客という感じだ。全身黒ずくめだが、黒い服の中から派手な色がのぞいている。こういう店でまとめ買いをしているわけだ。疲れているときはたくさんの品物の中から気に入った一品を探す力が出ない。結局見るだけで出てきてしまった。

どこかで夕食をとってからホテルに帰る予定だったが、昼食が遅かったせいでお腹が空かない。サンドイッチでも買ってホテルで食べようと近くの店に入ったら、閉店していた。仕方なく地下鉄の駅まで来たら、妻が売店にワインが並んでいるのを見つけた。しかし、空港の警備が厳しいのでワインの栓抜きがついたアーミー・ナイフを持ってきていなかった。「栓を抜いてくれないか?」と頼んだら、「ここで飲む気かい?」とラッパ飲みの真似をしてみせる。「冗談さ」と言いながら、続けた言葉は「袋はいるかい?」というものだったらしい。アメリカ映画で紙袋に入れたままの酒を公園のベンチで飲むシーンを思い出した。トルコ系の店なのか、ケバブを置いていたので、それも買った。

のどが渇いていた。ホテルの部屋の椅子に腰かけ、窓際のカウンターにグラスを置いた。エールばかり飲んでいたので、久しぶりのワインは美味かった。一口飲んだら、そのまま飲み続けることになってしまった。ケバブに入っていたラム肉はスパイスが利いていて、味らしい味のない英国料理とちがって、マジで辛かった。その刺激がワインをすすませ、結局一瓶空けてしまった。自分たちだけの食事というのはリラックスできるものだ、とあらためて感じたのだった。

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