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ENGLAND
イーストゲートからザ・クロス方面を臨む

 2006/8/25 チェスター

バスは、もと来た道を南に戻っている。ブリテン島は南北に細長くのびた島だから、縦貫道は島の西側を南北に走っている。縦貫道を北に進めばスコットランド、西に走ればウェールズ地方に通じている。チェスターは、イングランドとウェールズの間にある国境の街である。

チェスターの歴史は古い。もともとこの島には大陸から移ってきたケルト人が住んでいたが、同じく大陸から侵攻してきたローマ軍によって辺境に押しやられていた。イングランド西部に広がるウェールズ地方もその一つで、紀元79年頃抵抗を続けるケルト人を制圧するためにローマ軍が築いた軍事都市が街のはじまりである。

Chesterはラテン語で駐屯地を意味するcastraからきている。蛇行しつつ流れるディー川は、砦を築くにはうってつけで、ローマ軍は得意の土木技術を駆使し、川に沿って木柵と盛り土で城壁を造りあげ、街を囲んだ。後に城壁は石造りとなり、ローマ軍が去った後も抵抗を続けるウェールズ攻撃の基地としてイングランドによって強化され続けていった。

時代が下ると大型船が入れるディー川が、チェスターを貿易港として発達させた。しかし泥の堆積で大型船が航行できなくなると、隣接する綿工業の中心地マンチェスターや海港リバプールの繁栄の陰にチェスターは忘れられてしまった。もっとも何が幸いするかは分からない。産業革命の波に乗り遅れたことで、古い街並みやディー川ぞいの美しい自然が残され、中世の趣を残した観光地として今に至っている。

 ザ・クロス〜イーストゲート〜ブリッジゲート

ザ・クロス朝、湖水地方を出て、チェスターに着いたのは昼前だった。郊外のレストランで昼食をすませると、街の北側にあるノースゲートから入っていった。市庁舎近くでバスを降り、歩きはじめた。街をぐるりと取り囲んだ城壁の上は遊歩道になっていて、要所要所で下に降りられるようになっている。城壁で囲まれた四角な街を四分割するように二本の道が東西南北に交差していて、その中心地がザ・クロスである。

街の中心地だから、商店は当然店を出したい。ところが、ローマによって造られた街にはさまざまな遺跡がそこら中にごろごろしていた。それを避けるように二階に店を出したのが、ロウズと呼ばれるこの街独特のショッピング・アーケードのはじまりである。回廊状につなげられた二階のバルコニー部分を歩くと、有名ブランドを扱う店が並んでいた。

また降り出した雨を避け、ロウズのなかを通って城壁の東の門、イーストゲートに出た。階段を上って城壁の上に出ると、ディー川の方に歩き出した。一周しても一時間ほどで戻ってこれる距離だ。雨はすぐにやんだ。少し歩くとニューゲートという門に出た。門の上からローマ時代の円形劇場跡が見える。近くにはローマの円柱を並べた公園もある。なるほど遺跡だらけだ。

そのまま城壁の上を歩いて、川に出た。整備された川沿いには散歩道ができている。川の流れる街が好きだ。西欧の街は高い建物に両側を挟まれるために街を歩いていると、時に息苦しく感じられることがある。市庁舎前の広場や川に出ると、視界が広がることから来る解放感があって、いつまでも離れがたくなるのだ。

ローマ軍やイングランド軍が進軍するのに使ったブリッジゲートからディー川に架かるオールド・ディー・ブリッジの上に出た。橋の上に建つと柳並木の上に城壁の一部や教会の尖塔が顔をのぞかせている。対岸はかつてローマ人の石切場だったところで、ミネルヴァ像が残されているというので橋を渡った。

大きな岩が広い芝地の上に突き出ていて、ミネルヴァ像はその下にあった。雨ざらしの像はすっかり風化して、女神の面影はなかった。川沿いには大きな木が木陰をつくり、ベンチが設けられていたが、ここまで来る物好きな客はいないのか、芝草の上でサッカーに興じる子どもたちのほかには私たちだけだった。

 競馬

もう一度橋を渡って、城壁に戻った。ディー川に沿ってカッスルドライブを歩く。修復中の城壁を右に見ながら北の方に歩いていくと、着飾った女性を連れた、これもめかしこんだ男たちが車から降りてくるのに出会った。ピンストライプのダークスーツに帽子を被ったドレス姿の二組のカップルは、どう見ても素人には思えなかった。マフィアとその情婦といったところだろうか。急いでいるのは、競馬が始まっているからだ。

街の西側にはかつてディー川に架かる水門があった。今でもウォーターゲートと呼ばれる門の南に広がるのがルーディー競馬場だ。ローマ時代は港だったが、5〜6世紀にはこの国最古の競馬場になっていた。この日はちょうど競馬が開催されていて、町中の人が集まってきていた。スタンドから離れるに従って料金が安くなるようで、ゲート前には普段着の人が多かった。

さっきの四人のように着飾った連中は、警備の厳しいスタンドに向かっているのだろう。町の名士か三つ揃いのジャケットに紋章付きのリボンを付けている人もいた。競馬場の柵に沿って歩いていると、アナウンスがはじまり、ゲートに向かって次々と馬が走ってきた。いよいよレースが始まるらしい。別に券を買わなくても見物だけなら道の上から全部見える。

広い競馬場の真ん中にはコーヒーカップのような遊園地の設備もあり、小さな子どもはそこで遊んでいるようだった。日本の競馬場には行ったことがないのだが、テレビや映画に出てくるそれとはなんだか雰囲気がちがっていた。街全体がお祭りのようなハレの場という雰囲気で、とても華やいで見えた。それでも、レース中は、老人が馬券を握った拳を振り上げて大声で叫ぶところなどは日本のそれと変わりなかった。

 チェスター大聖堂

ウォーターゲートから東に歩き、ザ・クロスに戻った。また雨が当たり出したので大聖堂の中に入った。ここでもパンフレットは日本語が用意されていた。そのパンフレットによれば、大聖堂は聖ワーバラに捧げられた10世紀のサクソン教会の跡に建てられた。11世紀にベネディクト派の修道院になり、ノルマン様式の教会が建てられ、その一部は今も現存する。ヘンリー八世によって修道院は解散させられるが、その後チェスター教区の大聖堂となって現在に至る。

入り口から身廊に入ると、最近洗い直されたばかりの天井が明るい。ステンドグラスも1900年代に嵌め込まれた物で、抽象絵画を思わせる大胆な意匠に驚いた。床も張り直されていて、千年以上前から建っているとは思えない。きれい過ぎるのだ。日本の寺も建ったばかりの時は極彩色で、仏像は金色に輝いていたはずだが、煤ぼけた天井と金箔の剥げた仏像を見なれた眼には、あまりに明るい御堂は有り難さが感じられない。

聖歌隊席の天蓋は現存する中世の木工芸術としては国内有数の物であるとパンフレットにあったが、確かにこの木彫は繊細で見事な出来だった。修道士が長い礼拝の時腰を下ろすミゼリコルドと呼ばれる折りたたみ式の椅子の裏側にまで、椅子ごとにそれぞれ異なった天使その他の木彫が施されているのにも驚かされた。座ったら見えなくなる部分なのに。

現存する最古の部分であるノルマン様式を残した北袖廊には壁のくぼみにコブウェブピクチャーというめずらしい装飾が残っていて、画家らしい人が模写を試みていた。絵に描かれている部分の壁を指さして妻と話していると、『薔薇の名前』に出てきそうな黒い僧服を着た老僧が突然説明をはじめた。半分ほども理解できたろうか。言うべきことを言い終わると、にこりともせずに僧は立ち去った。

16世紀に再建されたノルマン式の回廊は中庭を取り囲むように造られている。暗い教会の中から回廊に出ると、外の光に何かほっとする。庭園では薬草が栽培され、池には食用の魚が飼われるなど、修道院の暮らしぶりがうかがわれるのもいい。ベンチに腰かけて少し休んだ。

外に出ると、市庁舎からバグパイプの音楽が聞こえてきた。結婚式が終わり新郎新婦が出てくるところだった。赤煉瓦の格調高い造りの市庁舎はバルコニーから階段が下まで続いていて花嫁が降りてくるにはぴったりの場所だ。ストックホルムでもそうだったが、そのまま結婚式場になる市庁舎を持つことのできる市民は羨ましい。

 コベントリー

この日の夕食はコベントリーで、フィッシュアンドチップスを食べた。最近では屋台で出す店が少なくなったのか、ちゃんとしたレストランで皿に載って出てきたのがなんだか可笑しかった。小鉢に入ったたこ焼きを箸で食べるような感じと言ったら分かってもらえるだろうか。丸めた新聞紙の中に、パン粉をつけて揚げた鱈とポテト・チップスをざくざくと入れ、上からビネガーたっぷりのソースをじゃぶじゃぶふりかけて食べるのが本格的な食べ方だ。

この日のホテルはコベントリーの街なかに建つ高層ビルだったが、浴槽がなく、シャワーしかついていなかった。夏場はいいが、冬になったら寒くないのだろうか。インターネットのできるテレビがあったので、GOOGLEで自分のサイトを検索してみた。ひらがなが表示されるのには驚いたが、漢字は文字化けしていた。少しやっていたら警告が出てきたのであわてて切った。どうやら有料だったらしい。知らずに続けていたらいくらとられたのか恐ろしくなった。

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