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SCANDINAVIA
ガムラ・スタン大広場に面した350年前の建築

 2005/8/13 ガムラ・スタン

晩餐会が開かれるのは市庁舎だが、授賞式そのものはコンサートホールが会場になっている。せっかくここまで来たのだからと、新市街にあるヒュートリエット広場に降り立った。コンサートホールは市場を見下ろすように立っていた。花や野菜を山と積み上げたいくつもの屋台が狭い広場を占領していた。売り子の客を呼ぶ声で広場はにぎやかだ。ゲルマン民族系の金髪碧眼の人が多いスウェーデンで、ここは黒髪、黒い瞳が目に着く。移民の受け入れに積極的なこの国の一面が見えるようだ。

クリックすると右手のユールゴーダン風景が別画面に開きます。セルゲル広場のガラスの塔のある噴水を見て、新市街を出た。新市街から旧市街に出るには海を渡らねばならない。島と島の間を運河が通り、橋や船で結ばれているストックホルム。ストックとは丸太、ホルムとは橋で繋がれた島を意味する。多島海に浮かぶ島々のパノラマを見るため、旧市街を素通りして昔の職人街、今は家賃の安さから学生に人気のソーデルマルム地区の高台へと向かう。

四方を海に面した島のこと、海沿いの道を少し登れば、どこでも180度の展望が得られる。とりわけ、ここからは左手にストックホルム発祥の地である旧市街ガムラ・スタン、右手にはかつての王宮の狩り場で今は自然公園になっているユールゴーダンまでのパノラマが楽しめるとあって、観光バスが何台も止まっていた。

 ガムラ・スタン

王宮(クリックすると衛兵交代の場面が別ウィンドウで開きます。)

中世風の家が軒を並べる古い家並みを横目にバスはゆっくり下っていった。そしてもう一度旧市街に入り、王宮の裏手にある坂を上った。やわらかなクリーム色を基調にしたルネッサンス風の建物が王宮だった。現国王が執務する現役の王宮だが、一般公開されている。部屋数は600を数え、天皇のような国賓はここに泊まる。当然、衛兵が警護していて、ヴァッキンガム宮殿と同じようにここでも衛兵交代が行われる。重武装中立を基本とするスウェーデンでは徴兵制が布かれている。高校で徴兵検査があり、その中で選ばれた者が衛兵になるという。この日の衛兵交代は12時15分からの予定。特に興味はないので、街の見物に向かった。

王宮に隣接する大聖堂裏の細道を抜けると、ぽっかりとそこだけ矩形に切り取られたような広場に出る。旧証券取引所に面したそこが大広場。お椀を伏せたようなガムラ・スタンの糸底にあたる部分である。綺麗な色の細長い建物が何軒も肩を並べて立っているのが見える。現在では許可されていない木造の高層建築で今から350年ほど前に建てられたものだ。二階以上の床の位置を示す壁面にいろいろな形の飾り状の物が見えている。壁と床を載せる梁の接合部を補強するために正面の壁から鉄釘を通しているのだが、抜けないようにその頭が針のようになっている。その穴に思い思いの形をした止め金具を挿すので、このような模様になるのだ。実用がそのまま飾りになっている。ひとつの「用の美」であろう。

ガムラ・スタンの小路(クリックすると大きい画像が開きます)広場から海に向かって細い小路が伸びている。高い建築に挟まれた石畳の坂道はトレドを思い出させた。少し下ると小さな四つ辻に出る。小路と交差する道の両側に中世風の建物がずらっと並んでいた。一階部分が店舗になっていて、買い物客で溢れている。土産物はもちろん、洋服や靴、バッグなどの店、ギャラリー、カフェと何でも揃っている中から、妻は一軒の手袋専門店に入った。探していた女性用のドライヴィンググローブを飾り窓に見つけたのだ。

手袋しか置いていない店というのもあるところにはあるのだ。窓に出ていた品物より少し高くなったが、上質のカーフスキンの手袋を手に入れて、妻は上機嫌である。都会はいざ知らず、地方の店ではカーショップには男物しかなく、洋品店にはドライバー用の手袋など置いていないというのが実情だ。これで愛車の運転も一段と楽しくなることだろう。それにしても、いつもいい物を見つけてくる。漫然と目を動かしているだけのこちらとは大違いだ。

昼食は、大聖堂の裏にあるカフェでとった。13世紀の地下牢を店にしているという噂の店だ。明るい外から入ると地下に通じる階段は足下が覚束ない。手探りで下りていく。思ったより中は広くて、蟻の巣のように階段を下りたところから右、左に部屋が分かれている。奥まった一部屋にはすでに蝋燭がともり、食事の用意ができていた。ミートボールとマッシュポテトという素朴なものだが、デザートとサラダは付いていた。

北欧では健康によくないものは税率が高い。当然、酒、煙草はその代表である。イタリア製のワインが205skr(スウェーデンクローナ)であった。1skrが15円ほどだから日本円に換算すると3000円強というところか。日本のイタリア料理店でも良心的な店ならDOCGワインが飲める。DOCではちょっと高い。まあ今回は覚悟の上である。相席の人とストックホルムに乾杯した。

食事がすんで店を出ると、何やらあたりが騒がしい。太鼓の音がする。衛兵交代がはじまったようだ。人の流れについて早足で歩き出した。夏の間は、交代の儀式もふだんより時間をかける。目の前を通る若い衛兵を撮るだけでは気がすまないらしく、後を追いかける人が多い。妻もついて行ってしまった。狭いところだが迷われても面倒だ。仕方なく後を追った。軍楽隊は大広場で最後の演奏中だった。探していると妻の方が先にこちらを見つけた。こんな所で何をしているのといった顔をしている。こちらが迷ったみたいになってしまった。

 ノルウェーへの道

車窓から(クリックすると大きな画像が開きます)

市街を抜け、やがて郊外も遠くに去ってしまうと、あたりは白樺やドイツトウヒの生い茂る森林地帯となだらかな起伏を見せる牧草地が交代する長閑な風景がただただ続くばかり。時おり北欧風の丸太小屋が丘の上の方に愛らしい姿を見せる。ほとんどが葡萄茶色で窓枠だけが白く塗られている。草の色がちがうのは麦畑だろう。緑と褐色の大きなキルトの中を走っているようだ。

ノルウェーとは「北(ノル)への道(ウェー)」という意味らしいが、ストックホルムからオスロに通じる道はスカンジナビア半島の南部をほぼ東西に伸びている。なだらかな丘陵地帯の中、時には澄んだ水をたたえる湖を眺めながらバスは静かに走っている。いつもながら乗客のほとんどは旅の疲れが出て眠っている。

不思議なのだが、日本からヨーロッパに移動する時差はあまり影響しない。すぐにこちらの時間帯に馴染んでしまう。バスに乗っての長時間の移動。眠っていてもいいだろうに、延々と続く白樺林や鋸歯状のシルエットを描く針葉樹の森、黄金色の麦畑の交替を見ていて飽きない。いやいや、わざわざ遠い東の果てから足を運んできたのは、この光景を見るためだった。本の中で何度も読み、その度に想像した景色が現実に目の前に広がっているのだ。もったいなくて眠ってなぞいられない。そんなわけで、昼間は目を開けているのだが、夜になると宵のうちから眠くなって寝てしまう。そんな毎日が続くことになる。

スウェーデンとノルウェーの国境には何もない。かつては検問をしたのであろう施設が建ってはいたが、車も止まらない。眠ってた妻が口をきいた。
「さっき通ったのがスウェーデン側の国境でしょ。今度のがノルウェー側の国境よね。だったら、その間の道はどちらの国になるわけ?・・・・」
たしかにその間数分間バスは走っている。あそこで事故を起こしたら、どちらの警察がやってくるのだろう。考え込んでしまった。

人間の作った国境だが、自然景観はスウェーデンとノルウェーでかなり変わる。なだらかな丘や林が続いていたスウェーデンとちがって、ノルウェーでは岩肌の見える山岳地帯が続く。ノルウェートウヒの林も枝振りが大きく下の方では枝が垂れ下がっている。木肌が赤っぽく見える松も混じっている森は荒々しさのようなものが感じられる。

しかし、点在する集落に建つ家は瀟洒な造りのものが多く、窓の内側には必ずレースのカーテンが吊され、窓辺にはランプや燭台、彫像のような物がどの家の窓にも飾られていた。家の色も葡萄茶ばかりでなく白や灰色、浅黄色と鮮やかな色が多い。夏の別荘かとも思ったが、しばらくして通った別荘地には一目でそれと分かる半裸の日光浴中の人たちがベランダのデッキチェアに寝そべっていた。だとすれば、あれは普通の民家だろう。何という美しい暮らしぶりか。ようやく傾きかけた日を眺めながら、この国に住む人々の日々の豊かさを思ったのだった。


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