HOME | INFO | LIBRARY | JOURNEY | NIKE | WEEKEND | UPDATE | BBS | BLOG | LINK
Sweden 1   / Norway 1   / Denmark 1
Home > Journey > Border of Europe > Scandinavia > Sweden 2
SCANDINAVIA
ストックホルム発祥の地ガムラ・スタン

 2005/8/13 ストックホルム市庁舎

朝早く目が覚めた。空調を効かせてもいないのに長袖のパジャマだけでいると涼しすぎる。今回の旅行は荷物を作るときに困った。半袖にするか長袖か、上着は何を持つか、見当がつかなかったからだ。結局は半袖長袖ともに何枚か予備を入れたのだった。今朝の外気の様子を見て、何を着るか判断しなくてはならない。トランクはバスの中に入れてしまうのであとから着替えを引っぱりだすというわけにはいかない。

とりあえず半袖シャツを着て部屋を出た。回転ドアを開けて外に出たとたん空気の冷たさに驚いた。日本なら十月頃の肌寒さ。立ち止まっていると寒いのでホテルの周りを散歩することにした。公園から続く坂道を下りると、ベンチと灰皿があった。北欧は禁煙の場所が多い。ホテルも全室禁煙だ。歩道の両側はなだらかな芝生の斜面になって灌木が植わっている。こういうところで高原植物を眺めながら一服というのも悪くはないが、愛煙家には辛いところだろう。

朝食はヴァイキング。日本でもすっかり定着したビュフェスタイルだが、これをヴァイキングというのは日本だけだ。帝国ホテル総料理長時代の村上信夫が北欧でこの食べ方を知り、命名したらしい。北欧以外の国からは海賊扱いされるヴァイキングだがこちらではその文化に誇りを持っている。トルコ風呂とちがって大使館から文句がきたという話を聞かない。レバーペーストが美味しくて、以後皿に出ていれば必ずとって食べた。

 市庁舎

市庁舎の塔

朝食後、市街地に向けて出発した。郊外を抜けたとたん風景が一変した。近代的なビルが建ち並ぶ新市街に入ったのだ。運河に架かる橋を渡り終えると、見覚えのある塔が間近に迫った。空港からホテルに向かう間、遠くに見えていたあの塔である。

ストックホルム市庁舎は、ノーベル賞受賞式後の公式晩餐会会場として知られている。厳めしい正面玄関を入ると、イタリア・ルネッサンス様式を取り入れた赤煉瓦造りの中庭に出る。広い階段を下りてゆくと、アーチ型の連なる回廊越しにリッダー湾の光をいっぱい浮かべた水面が広がってくる。息を呑む美しさだ。回廊を抜けると対岸の嶋影が逆光の中に浮かび上がる。遠くに霞む教会の尖塔や船着場に繋がれた幾層もの船が作り出す風景はネーデルランド派の絵画を思わせる、まさに一幅の絵だ。

晩餐会会場は天井近くに明かり取りの窓を開けた吹き抜けのホール。煉瓦の表面を鑿で穿ち、壁面に紋様を彫り込んである。その上を石膏で塗り固め、夜景を想定した青い塗料で仕上げる計画だった。完成すればヴェネティアのカンポ(小広場)の夜を想わせる空間になっていたはず。ところが赤煉瓦の壁が想像以上に美しかったので、プランを変更した。公開済みであった名前の方は今さら変更することもならず、青くないブルーホールができたという。

踊り場を設けた曲がり階段が二階に張り出した露台につながっている。踊り場に人ひとり立つのがやっとという半円形のスペースが張り出している。受賞者がスピーチをする場所である。近年、そこに立って写真を撮りたがる観光客が増えて移動の妨げになるという理由でロープが張られるようになった。田中さんの受賞以来ではないのだろうか。

露台の手摺りに沿って廊下が続いている。並んだ扉の上にある頭像は建設に係わった左官や煉瓦職人の顔だという。息子が孫の手を引いて「あれがおじいちゃんだよ」と教える姿が目に浮かんだ。ちょっといい話だ。

ヴァイキングの子孫であることを誇りにしていることはすでに書いたが、議場の天井は、そのヴァイキング時代の建築様式で作られている。美麗に彩色された梁や母屋を多用したもので、天窓が来るべきところは、星空の絵で覆われている。ヨーロッパ風の様式と民族固有の様式をうまく使い分けるものだと感心した。

冷戦時代には地理的に近いソ連と米国の間に立ち、緩衝剤の役割を果たした北欧諸国である。1800万個といわれる金箔のモザイクによって四壁を飾った「黄金の間」は晩餐会後の舞踏会会場だが、その正面は東西の国々を従えて、ストックホルム市を膝に抱くメーラレン湖の女王像が睨みをきかしていた。一説によると戦争への怒りを込めた厳しい表情には市民の間に賛否の声があがったという。

フランスやベルギー製の豪華なタペストリーを飾った小さな楕円形のホールがある。市庁舎のために寄進されたタペストリーに合わせて設計されたものだ。土曜日の午後、市民なら誰でもここで無料で結婚式を挙げることができるという。その後はリッダー湾に面した外庭の市民の広場で披露宴もできる。福祉国家とは聞いていたが、見る物聞く物感心することばかりだった。

< prev pagetop next >
Copyright©2005.Abraxas.All rights reserved.since 2000.9.10