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From Russia with lag

モイカ運河

 St.PETERSBURG 2

 運河に沿って

ネヴァ川がフィンランド湾に注ぐデルタ地帯に発達したサンクト・ペテルブルグは、65本の川と100以上の島を365の橋が結ぶ水の都。まさに北のヴェネティアの名にふさわしい水上都市である。市街地に近づくにつれ、道路は幾つもの橋を渡り、河にそって進み、やがてまた橋を渡る。橋の両岸に立ち並ぶ建築群は18、19世紀のバロック、クラシック様式建築を今に伝えている。修復し再建された宮殿建築とは異なり、都市の煤煙や、車馬の塵埃にまみれ、その表面はいささかくすんでいる。しかし、その古びた色彩の中にこそ、悲惨な戦役、革命の動乱の相継いだこの街の持つ歴史が滲み出ているように感じられ、ひとしお心に迫るものがある。

ヴェネチアと違い、広い川幅に加え、河岸道路を備えたペテルブルグの運河は視界が開けている。橋をわたる度に、運河沿いに並ぶ建築群が作り出すスカイライン上に一際高いランドマークが望める。車に揺られながら、或いは運河の上を船で行くとき、旅人は、あれがイサク聖堂、あっちがカザン寺院と、特徴のある丸屋根や尖塔を手がかりに、膝の上に広げた地図と見比べながら、今いる橋が何という橋か、さっき通った運河が何という名前か容易に探し出すことができる。

対岸の街並みを眺めながら、運河に沿って行くとき、人は河岸上に連続する窓と、にも拘わらず建物ごとに異なる屋根や煙出しの作り出す精妙なリズムを堪能することだろう。大通りを歩いてみれば分かるが、五階といえども下から見れば高層建築である。街並みの景観は、ある程度距離を置いて眺めるに限る。マンサルドを含めても五階程度に抑えられた建築群は、その上にどこまでも広がる青空との間に水平に連続する均整のとれた律動を醸し出している。

 キエフ風カツレツ

レストランブレーメンのマスコット旧海軍省にほど近い、市の中心部にあるレストランで、昼食をとった。人の胴体ほどもあろうかという切石を積んだ建築に開けられた開口部をくぐると、トンネルのように暗い通路の奧に中庭がそこだけは上からの光が注ぎ快適なカフェになっていた。だが、レストランは建物の中。はじめての本場のロシア料理である。

この日のメニュウは、まずボルシチ、その後、キエフ風カツレツ、その後デザートという昼にしては結構重い献立。実は、電気がなかった頃の習慣が今も続いていて、他の国が晩餐が正餐となった今でも、ロシアでは昼食が正餐なのである。それでは、とこちらも覚悟を決め、グラスワインを勧めるところをボトルを注文した。出てきたのは、何とチリ産の赤ワイン。カベルネ種の渋みのある味は悪くないのだが、できたら当地のワインを飲みたいところだ。それは、次回に期待することとして、後で妻が話すところによれば、ボトルの注文に後ろの席の人が驚いていたという。二人なら一人グラス二杯と少し。もう少しほしいな、と思ったときの用心である。

ロシア料理として有名なボルシチだが、日本のロシア料理店では定番のこの料理、実はキエフ風カツレツと同じくウクライナ料理である。学校で習った頃は旧ソ連の時代で、ウクライナは穀倉地帯として覚えた記憶がある。今頃、ロシアではないと言われても困惑するが、この辺の問題ははっきりしておいた方がいいだろう。

ボルシチは、きれいな葡萄酒色をしたスープだった。日本では、もう少しシチュウに似た濃厚なテイストを持った料理だが、カツレツの前に供される料理とすれば、この辺に留めておくのが無難かもしれない。メインのキエフ風カツレツは、バターを鶏肉で包んで揚げたもの。ソースらしきものが見えないので、不審に思うのだが、ナイフを入れると中から、熱々のバター風味の肉汁が溢れ出すという趣向。デザートのケーキは、海外では慣れっこの甘い物。日本の料理番組でタレントが言う「甘くなくて美味しい」という言葉の意味がよく分かった。それと、どこで飲んでも珈琲が不味い。もしかしたら、ネスカフェではないかと思う。

店の前にコックの格好をしたマスコットが置いてある。こういうものがあると、すぐに並んで撮りたがるのが妻の癖。カメラを構えていると、黒いヴェストを着たギャルソンが、カメラの方に正面を向けてくれた。およそ、愛想というもののないロシアの人たちだが、中にはこういう人もいるのだ、と認識を新たにした。「スパシーヴォ」と、覚え立てのロシア語で礼を言った妻の手にキスまでしている。イタリア系の血が混じっているのではないかしら。マスコットを指さして何か言っている。「ワインチケン」と聞こえた。マスコットの名前らしい。なかなか愛嬌のある顔だ。


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