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 2007/11/17 ドライビング・レッスン後編

寝過ごしてしまった。起きたら6時半を回っていた。受付は8時25分までだが、家から鈴鹿まで約1時間。鈴鹿市内が朝は混むのは既に学習済みである。計画では7時前には家を出ているはずだった。5時にニケに起こされ、カリカリをやったのだが、まだ暗いのでもう一寝入りと布団に入ったら、ニケが潜り込んできた。ちらっとヘルメットのことが頭の片隅を過ぎったような気がしたが、温かくてふわふわの感触に、いつの間にか眠りこんでしまったらしい。ずいぶん神経が太くなったものだ。もしかしたら、アルコール抜きが効いているのかもしれない。

小振りのパンを一個、缶コーヒーで流し込み、あわてて家を出た。コンビニによる暇もないので、残りのパンをヘルメットを入れたバッグに詰め込んだ。シューズまで手が回らなかったので、今回は履き慣れたスニーカーを履いた。前夜にフロアマットその他の不必要なものは外しておいたので、車の準備はできている。高速に乗って鈴鹿までひとっ走りだ。

思った通り鈴鹿は混んでいた。いつもの9番ゲートに車を着けたら、係員に南コースはここからは入れないと言われ、引き返す羽目に。それでも、受付の列はまだ続いていて最後尾に滑り込んだ。南コースというのは、国際コースの南、デグナーカーブの下あたりに位置する。子ども用のカートやバイクが並んでいるところを見るとふだんはその種のレースに使っているのだろう。初級編のレッスンは、どうやらいつもここを使っているらしい。

ブリーフィングルームで受付をすませ、渡されたゼッケンを車に貼った。パドックは先に来た人で満杯状態。仕方なくフェンス側で作業を進めたが、日が昇る前のサーキットの寒いこと。長袖シャツに一重のコットンのジャンパーでは薄着過ぎたか。パドックに並んでいる車はポルシェ・カレラや911、国産車なら所謂TYPE-Rばかり。ウィングを着けた車も多い。赤いレーシングスーツできめた女性レーサーも見かけた。ナンバーを見ても、滋賀や神戸、遠くは長野や金沢からやってきている。考えてみれば、初級者というのは、初心者とはちがうのだ。えらいところに来てしまったぞ、と少し弱気になった。

8時半から1時間あまりドライバーズブリーフィングがある。ブリーフィングルームというと聞こえがいいが、国際コースのそれとはちがうプレハブ造りの小屋には暖房もなかった。しかし、A,B二つのグループあわせて30人が入ると、それなりに温かくなった。オフィシャルからの挨拶に続き、この日の講師三人が紹介された。福山、脇田、水谷の三講師である。各講師ともレース経験豊富で、チャンピオンにもなったことがあるという。中でも福山氏はテレビでもNASCARの解説者をしているようで、なかなかの名調子である。

正しいドライビングポジションから始まった講義は論理的で明快。スポーツも理論的になったものだ、とあらためて感心した。荷重を移動することで車が曲がるという話は新鮮だった。カーブの前にブレーキをかけることでフロントが沈み、ステアリングが利く。アクセルを踏むと荷重は後ろにかかり、ステアリングは操舵性を失うというのは、前輪で舵を切る車の場合当然の話だ。もっとも、制動、駆動とも極限状態では操舵性はゼロで、ブレーキングもペダルを踏み切っている間は車の方向は変わらない。カーブにおけるペダルワークの重要性がよく分かる話だった。

基本レッスンは二組に分かれて5人ずつが一人の講師の後について走りを見てもらうというもの。スキーのレッスンを思い出した。水谷講師がスラローム(スキーそのもの)を。脇田講師がスプーンからS字カーブの抜け方を、そして福山講師がシケインからヘアピンを抜けてホームストレッチまでを見てくれるという。コース図を見せながら、クリッピングポイントをもとにしたコースのライン取りを解説してくれるのだが、初級者ならぬ初心者には今イチ実感が伴わない。解説はよく分かるのだが、そもそもクリッピングポイントとは何ぞや。分からないところを訊くには勇気が要る。黙って耳を傾けることにした。

おおまかに経験者はAグループ、初心者はBグループと組み分けしてあるそうだが、中には5回以上もレッスンを受けに来ている猛者もいるとか。初級といっても幅がありそうだった。Bグループのレッスン開始は9時50分から。ブリーフィングが終わるとすぐである。いよいよヘルメットをかぶる。緊張の一瞬。我が家でいちばん大きな鏡のある洗面所の室温が冷えていたのが曇りの原因だったらしく、眼鏡は大丈夫なようだ。ほっとしながら、ピットロードに三列に並ぶ。予め近めにセットしてあったにもかかわらず、福山氏にもっとハンドルに寄せるように言われた。身動きがとれないガチガチ状態である。これで4点式シートベルトを着けたら、ひっくり返っても落ちてこないだろう。

まずは、スラローム。一回目はぎりぎりのラインをとっているのを評価されたが、もっとアクセルを踏むようにという指示があった。次はS字。アウト・イン・アウトのライン取りができていない。シケインは、曲がろうとし過ぎ、ストレートに走るつもりでという指示があった。二回、三回と繰り返した結果、総合評としては、目線が近すぎる、もっと遠くのポイントを意識するように、という福山、脇田氏の評であった。水谷氏からは指示通りにやっているが、制動を利かせすぎ、もっと弛めるようにすると、カーブが曲がりやすくなると言われた。思い出したのは、スキー・スクール。まったく同じ評であった。

持参したパンで早い目の昼食をすませると、後はすることがない。愛車の前でぼんやり立っていると、Aグループの人が声をかけてきた。今日はシビックTYPE-Rで来ているけど、もう一台156を持っているのだそうだ。ひとしきりアルファ談義に花を咲かせた。
「アルファは細かな点に凝っていますよね。オイルゲージにクアドリフォリオが付いているとか…。」
「それは知らなかった。本当ですか?」
と言いながら、ボンネットを開けてみると、たしかに。黄色い取っ手の先端に四つ葉のクローバーが。

昼食後は、簡単なブリーフィングの後、先導車について実際にコ−ス走行を経験した後、フリー走行というメニュー。ストレートのところに来たら、講師のすぐ後ろを走っている車が後ろに回って、公平に5周する。講師のすぐ後ろだとコースが見やすいからだ。これもスキーと同じだ。どの車も講師のライン通りに走るように言われたが、後ろの方になると、忘れてしまう。実際、結構速く走るので付いていくのがやっとだった。

しかし、問題はこの後だった。フリーになったとたん、飛ばすこと、飛ばすこと。ストレートでコースを譲るように言われたが、カーブでも後ろで焦れているのが分かるから気が気でない。一回目のフリー走行は、他車の足を引っ張らないようにするので手一杯だった。チェッカーフラッグが振られるのを待つようにしてピットに戻ってきた。車を止め、眼鏡を外す手ももどかしくヘルメットを脱ぐ。ドアを開けて外に出、思いっきり新鮮な空気を吸った。冷たい風が体中を吹き抜ける。全身が汗まみれだった。

速い人で一周一分という全長1264メートルの南コース。二十分間回り続けるとほぼ二十周。何台も抜かれたから、それよりは少ないだろうが、周りづめで車酔い状態だった。汗は冷や汗かもしれない。上着を脱いで、シャツを外に出して乾かし、湿ったフェイスマスクも風に当てた。着替えを持ってこなかったのが失敗だった。しかし、レーシングスーツを着た人は、そのままで涼しい顔をしている。汗をかかないというのは、余裕があるということか。それともアンダーウェアに秘密があるのか。とにかく、窓を閉め切った車内はかなり暑くなる。服装も大事なことがよく分かった。

二回目を走った後、簡単なブリーフィングがあり、水谷講師からブレーキングの問題を指摘された。利かせるのはいいが弛めるタイミングが悪いので、車が曲がりきれていない。最低速で車を走らせながら曲がるといいと指摘された。最終のフリー走行では、そこを注意して、何台か先行車両を抜くところまでいった。ただ、満足がいくのはシケインだけ。ここは黄色と緑のパイロンがブレーキポイントとクリップポイント青示してくれているのでとてもよく分かった。

フルスロットルで走った後、ブレーキを踏み、ペダルを弛めながら車を曲げるテクというのは、初めての経験であったが、よく体感できた。ステアリングを切るというより、ブレーキングで曲がる感じである。脇田講師から聞いたカーブで2速、直線でも3速というシフトチェンジで走るのだが、ブレーキングとシフトチェンジが一緒に来るので、どちらが先か迷ってしまうなど、問題山積である。福山講師に言われたコースを目一杯使うという点も、未解決だし、頭が分かったことを体に覚え込ませるには、何回も繰り返すしかない。何度もかよう人の気持ちがよく分かった。

日没後のブリーフィングで、細かな点について再度解説をしてくれたが、一度コースを走ってあると、肯けることばかりだった。今度は、こういう点に気をつけて走ろうという気になっているのが可笑しかった。初級コース何回目という人は、こうして増えていくのだろう。帰りの高速は少しスピードが出ていても怖さを感じなかった。正しいドライビングポジションが的確な回避行動をとれる理屈が分かったこともあるが、高速運転に目が慣れたこともあるだろう。気持ちよく走って帰途に着いた。

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