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WEEKEND / garage 147
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garage147

 そして、神戸

「おっかしいなあ。」
裏向けたり、上下をさかさまに入れてみても、橙色のランプは点滅し続けている。手もとにある説明書には、正常に装着できたら緑色のランプが点灯すると書いてあるのだが。
「これって、まだセットアップしてないんじゃない?」
たしかに橙色のランプが点灯する場合、販売店に連絡するように、と書かれている。
今日は、待ちに待った初ドライブの日。高速道路を使って神戸まで長距離走行の予定なのに、そのために導入したETCが言うことを聞かない。

さてどうしよう。どちらかと言えば妻の方が楽しみにしていたETCである。
「せっかくつけたのにこんな日に使えないなんて。」と残念がる。
「携帯持ってる?一度Kさんに電話してみるよ。」
財布から名刺を出して会社に電話すると、めずらしくK氏はすぐ出た。ETCの不具合を告げると、
「ちょっと待ってください。担当者にたしかめてから折り返し電話します。」と、言って電話を切った。なるほど携帯というのは便利なものだ。そのまま、目的地に向けて走りだしながら、連絡を待った。

なにほども走らないうちに電話がかかってきた。やはりセットアップがまだだったようで、20キロほど先にある指定工場に連絡をつけたから、そちらに行ってほしいとのことだった。運転中なので、妻が応対をしていたからいいが、自分だったら一言文句を言っていただろう。カードを入れたからと安心して、そのまま料金所を通過してたらどうなっていたと思うのだ(あのバーは発泡スチロール製らしいが)。実にいい加減ではないか。こちらがするべき手続きなら、あらかじめ言っておいてもらわなければ困る。おそらくK氏も知らなかったのだろう。以前乗っていた日本車の場合、技術担当者と営業担当者の二重のチェックが入っていたものだ。ここらあたりが外車ディーラーの問題なのかもしれない。

指定工場では、すこし待たされた。相手はこちらの事情までは知らないから無理もないが、これから神戸まで行くのだ。時間の過ぎるのが早く感じられる。最終的に使えるようになったときは11時を回っていた。どうやら、ただ取り付けただけで、セットアップがしてなかったらしい。試しにカードを入れると緑のランプが点灯しキーを回したときに鳴るピーッという耳障りな音もしなくなった。K氏に、この音の話をした時「僕の車も鳴りますよ」と言っていたが、あれはなんだったのか。

工場からすこし行ったところに高速のI.Cがある。これも初めて使うナビに目的地を入力すると、音声ガイドがはじまった。「料金所を通過した後の分岐点を右方向です」というかゆいところに手が届くガイドぶりだ。工場の人が、「最初だけは、ゆっくり行ってください。」と、注意してくれたが、言われるまでもない。おそるおそるETC専用レーンに車を進めた。ピーッという甲高い音がしてバーが上がり、車は無事通過した。その簡単なこと、感激ものである。

混んでいるときや、雨の日のことを考えると嘘のように便利な仕組みだ。もっと早く導入してもよかったのだが、アメリカではフロントウィンドウ上部にカードを貼るだけという安価なシステムが、日本に来ると勿体ぶった車載器や申請のいる大仰なものになる。それを扱う機構や業者の金儲けのために法律が悪用されているからだ。それが気に入らなくて今まで手を出さなかった。値引きをしないという業者に実質上値引きさせるための方便としてのナビとETC導入だが、便利さに負けたという点は否めない。携帯もそうだが、なしですますにはそれ相応の犠牲を払わないといけない時代なのだ。

ならし運転中なので、高速とはいっても100キロ以上は出さない。もっと踏み込んでくれとアクセルが誘っているようだ。低速走行中は後部で正体不明のきしみ音が鳴るのだが速度が上がるにつれて静かになる。よく回して3000回転までではエンジン音も静かなものだ。官能的とまで言われるアルファサウンドだが、ならし運転が終わるまではしばらく我慢しなければなるまい。ステアリングの切れがいいのできびきびと小気味よく走る。まさにホットハッチそのものだ。レガシィもよく走ったが、同じ2000でも走りのフィールはずいぶんちがう。4駆とFFの差もあるだろうが、軽快な走りっぷりが際立つ。

亀山で高速を下り、いつもの通り名阪国道に車を進めたら、ナビが下を走る国道1号線に下りるよう誘導しはじめた。同じ国道でも名阪国道は自動車専用道路だ。普通ならこちらを優先するだろう。設定の仕方に慣れていないからかもしれない。ちがう道を走っているのだから、そのうち再検索して新しいルートをガイドするだろうとそのまま走り続けた。ところが、出口に近づくたび、国道に下りるように勧誘する。あまり煩いのでナビを切ってしまった。お互いにもう少し気心を知り合う必要があるようだ。

県境を越えると眼下に奈良盆地が見えた。いつもは霞んでいるのだが、今日はくっきり見えている。ここまでCITYモードで走ってきたが、ここからは急なカーブの続く坂道だ。パドルでシフトダウンとアップを繰り返しながら、エンジンブレーキを効かせて坂を下っていく。ステアリングを切るというよりも曲がりたい方に顔を向けると、自然に車がそちらの方を向く。意の儘に操るというのはこういう感じかと今さらながら実感した。この車より速い車はたくさんある。力だってたいしたことはないだろう。さりながら連続するカーブをすり抜けていくときの操舵感なら負けないかもしれない。そんな気持ちにさせてくれる車だ。

天理まで来ると、料金所でETC専用レーンを通る車も多い。前の車についてゲートに進むのだが、前の車が通った後にバーが下りてくるのではないかとはらはらした。勿論そんなことはなくバーは開いたままだった。
「なんだか損をしたような気がするね。自分の前で開かないと。」
と、妻がつぶやいた。ETC装着は想定外だったので自分用のETCカードの準備がない。今使っているカードは妻名義だ。自分のカードだとそんな気がするのかもしれない。

昼時だったせいか夏に来たときは渋滞していた大阪市内を難なく抜けた。有料道路優先の設定なので高速道路を使っているときはナビまかせで大丈夫のようだ。神戸に着いたのは午後二時過ぎ。摩耶ランプを下りると、音声ガイドが「左折してすぐの交差点を右折」と指示を出してきた。しかし、本線は片側4車線。流入地点から交差点までは50メートルほどだ。いちばん左側の車線から右折レーンまで行くのはとても無理だ。それとも、都会ではみんなそういう運転をしているのだろうか。

港に続く道路を直進し、途中でUターンした。めざす県立美術館は目の前だ。地下の駐車場に車を止め、まずは腹ごしらえ。せっかく神戸に行くのだから、洒落たレストランでランチでもと考えていたが、ETCセットアップに時間をとられてしまった。今からレストランを探していると、ゆっくり絵を見る時間がない。そんなわけで美術館内のレストランですませることにした。

しかし、そこはさすがに美術館のレストラン。『オランダ絵画の黄金時代』という展覧会にあわせて、オランダ料理の特別メニューが用意されていた。妻はムール貝とセロリの白ワイン蒸し、自分は牛肉のヒュッスポット(オランダ風煮込み)にした。妻はかなりの野菜嫌いだが、例外的に好きなのがセロリである。ヒュッスポットというのは、簡単に言えばビーフシチュウ。厚く切った肉の繊維がほろほろになるまでドゥミグラスソースで煮込んである。壁面いっぱいに開いた硝子窓からは海沿いに走る高速道の高架と荷揚げ作業中の起重機が見える。オランダ絵画にも通じる港の景色である。

絵を見終わって外に出たら、四時を回っていた。これからどこかに行くには遅すぎる時間だ。心残りだが、帰ることにした。ナビの「自宅に戻る」と言う画面をタッチするとガイドが始まった。早い目に入ったのがよかったのか、神戸市内は渋滞なしに抜けられた。途中、赤い156に出会ったのでしばらく後について走った。しかし、コペンではないので特に挨拶もなかった。まあ、そんなものだろう。

大阪に入ると渋滞につかまった。ナビは高速を下り、栗東方面に抜けるように指示したのだが、よくよく国道1号線の好きなナビだ、と思い、言うことを聞かなかったからだ。CITYモードだからマニュアルの時ほど辛くはないが、渋滞はいやなものだ。今度からは素直に従おうと思った。環状線から松原方面に抜けるところで手間取り、環状線を回り直したりしたが、ようやく天理まで戻ってきた。

帰りの名阪国道では、キセノンランプの明るいのに驚いた。車の溢れる大阪市内では気づかなかったが、伊賀の山中ではライトの明るいのが際立った。以前の車では前方が暗くて見にくい夜の運転はあまり楽しいものではなかった。それが、はっきりと前が見えることで俄然楽しくなった。これなら夜でもなんの心配もない。平均時速は100キロを維持していたのだが、ナビの予想を超えはるかに早い時刻に家に着くことができた。目が疲れないことで、途中休憩をとらずにすんだことが大きい。神戸から我が家まで渋滞も含め3時間半。ならし運転が終わったら、もっと時間短縮ができるかもしれない。

初の長距離ドライブだったが、硬めのサスやシートのせいか、特に疲れることもなく楽しいドライブだった。途中一度くらいは妻にハンドルを渡してもよかった、と後で気づいた。それほど快適だったということだろう。往復で約450キロ走ると、さすがに入れたばかりのガソリンもかなり減っていた。まだ燃費の計算ができるコンピュータの使い方を知らない。便利なものがついているのはいいが、次々と宿題に追われるのがちょっと辛い。少しずつ自分のものにしていこうと思う。


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