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garage147

 納車

目を覚ますと、カーテン越しに明るい光が見えた。昨夜来の雨が朝方まで残っていたのが嘘のように空は晴れ上がっていた。ずいぶんやきもきさせられたが、どうやら納車は青空の下になりそうだ。日柄はまったく気にならないが、最初の日が雨というのはちょっとさみしい。風はあるものの雨が大気中の塵を洗い流したかのようなくっきりとしたお天気である。

駐車場にとめたレガシィから細々したものを取り出した。この車ともいろいろなことがあったが、今日までよく走ってくれた。十年も乗ったマニュアル車ではおそらく次のお勤めはないだろう。廃車扱いになるのかと思うと、なんとも言えない気持ちになる。日本で引取先が見つからなければ、どこか遠くの国で第二の人生を送れないものか。砂漠の国ならマニュアルの四駆はまだまだ働けると思うのだが。

書斎で本を読んでいると電話が鳴った。K氏からだった。我が家の前は旧街道で道幅が狭い。キャリアカーは少し先に止め、そこでアルファを下ろしているという。レガシィを駐車場から出し、道路脇に止めた。心なしかいつもより小さく見えた。そのまましばらくそこで待った。強い風が髪をなぶる。やがて、真っ赤なアルファがやってきた。K氏にそのまま駐車場に入れてもらう。前を擦らないかどうか自分の眼で確かめたかった。やはりあまり余裕はない、が気をつければ擦ることはなさそうである。

操作の説明を受けていると、前の散髪屋の若旦那がやってきた。
「車なんかといってた人が、ステアリングをウッドにしたり、スポイラーを着けたりしだしたかと思ったら、今度はアルファロメオか。あああ、ナビまでつけて。」
若い頃から行きつけだから、若気の至りで言ったことをみな覚えている。古証文を持ち出すのが悪い癖だ。K氏がとまどっているので悪いが退散してもらった。

エンジンがかからなかったときは、一度切って、もう一度とか相変わらず景気の悪い話から始まり、ナビやオーディオ、エアコン類の操作を説明してくれるのだが、一度では覚えきれない。一応きまりだから言っているのだろう。こちらが全部理解しているとは思っていない顔だ。とりあえず「取説」が終わって、車から出たK氏。キーを差し込まないと開かない注油口や可倒式ではないドアミラーの説明の後、
「あ、忘れてました。ストップランプは左側だけが点灯します。よく言われるんですが、切れてるわけじゃありませんので。」
自動車というものに対する日本人の固定観念を一度捨ててかかる必要がありそうだ。

コード式のキーの説明や残金の支払い方法とかの説明を済ませるとレガシィのキーを持ってK氏は帰っていった。本当は、この後、初ドライブの予定だったのだが、憂き世の義理で顔を出さねばならない用件が一つできてしまった。それが始まる午後一時半まで残された時間はあまりない。明日は明日で、前々からコペンのツーリングという予定が入っている。短い時間だが、初乗りに出かけることにした。

我が家の駐車場はどうにか大丈夫だったので、仕事場の方の確認をすませておこうと思った。月曜からは毎日通う道である。初日にみっともない姿は見せられない。小学校の頃からこうだった。雲梯の上を歩いて渡るのが流行ったとき、みんなが帰った夕暮れの運動場で、独り練習したのを思い出した。三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。我が家から職場までは国道23号線を使う。並んで走る高速より速いといういわくつきの道だが、ならし運転中、ゆっくり走る。

スポーツサスと215/45というセッティングが心配されたが、整備された道ではそれほど気にならない。それより、ブレーキングの方がまだ慣れなくて、ぎくしゃくする。パドルスイッチで変速をしようと思ってまちがえて、ウィンドウウォッシャーを作動させてしまったのはご愛敬である。職場の駐車場への出し入れも確認を終え、行きつけの食堂でランチを食べた。ここは味もいいのだが、駐車場が店から丸見えで安心できる。お薦めのかき揚げ丼に、妻は舌鼓を打つのだが、どうしたことか胸がいっぱいであまり食欲がない。新車のストレスだろうか。

出先に新車のアルファで乗り付けるのもはばかられ、妻のコペンで送ってもらったが、頭の中はアルファのことばかりで、会が終わるのを待ちかねた。日のあるうちにもう一度、乗りたいだろうと妻が迎えに来てくれたのだが、少し走るとはや日は暮れかけた。妻が夕食の食材を買うスーパーの駐車場で、シートやヘッドレストのセッティングをするので精一杯だった。

ナビその他の使い方もマニュアルを読むだけでもたいへんで、ものになるのはいつのことか。今週は仕事が詰まっているし、ゆっくり走れるまで一週間は待たねばならない。その間、マニュアルと首っ引きで使い方を覚えるしかないが、今ひとつやる気が出ない。携帯世代にはどうってことのない操作なのだろうが、小さなボタンを何度も押してお目当ての機能にたどりつくというやり方に馴染めない。車もややっこしくなったものだ。それより早く峠道を攻めたい、と心は逸るのであった。


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