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 湖北路<ナビ迷走篇>

いい天気が続く。この間、神戸まで走ったばかりだが、去年の今頃は紅葉を見に滋賀までコペンで走ったのを思い出した。ならば今年はアルファでと思い立ち、まだ行ったことのない名所を検索するのだが、車で日帰りのできそうなところはおおかた行きつくした。奈良公園もそろそろ見頃だそうだが、さすがに同じ道を一週間とたたないうちに走っても楽しくない。西がだめだとすれば、残るは北か。半島の東に位置する町からは東に走ればすぐ海。南への道は開発途中で、日帰りでは何ほども走れない。

こういうときは人に任せるに限る。ノートパソコンで遊んでいる妻に「どこに行きたい」と聞いてみた。紅葉のシーズンだから、検索サイトも多い。いくつかあたった妻が見つけてきたのは余呉湖だった。琵琶湖の北にあるちいさな湖である。近くに奥琵琶湖パークウェイというドライブコースがあって四季折々、景色が楽しめるそうだ。伊吹山を走った時、渡岸寺のある湖北の道もすこし走ったが、落ち着いた趣のある里だった。秋の湖北路もいいだろう、高速を木之本I.Cで下りるなら、この前行けなかった温泉にも寄れる。そうときまればあとは支度するだけだ。

コーデュロイのトラウザースの上はベージュのスウェードジャケットを羽織った。最近はこの組み合わせが気に入っている。厚手の綿シャツは、黄色に黒の格子縞だ。オープンでないので、寒さ対策は要らない。コルトレーンのCDを三枚、ケースから抜き出してバッグに放り込むと、カメラとサングラスを手に持って外に出た。

高速の入り口は、家から坂を下りてすぐだ。この間はETCの不具合で途中から乗ったが、今回は最初から乗る。高速道のノリ面に植えられた紅葉もちょうど今が見頃。のんびりと左右の山々を見ながら走る。交通量の少ないこの道で練習しておくのがいいだろうということで途中のS.Aで妻と運転を交代する。3ナンバー車とはいってもハッチバックだ。ノーズは少し長めだが、リアは極端に短い。取り回しの楽な車だ。しばらく走って次のS.Aで交代。これでもう、いつでも運転を代わってもらえるわけだ。

亀山で下り、鈴鹿峠を越えるつもりで国道1号線に乗り換えたが、ナビは今度は名古屋の方に行くように誘導し始めた。よくよく気の合わないナビゲーションである。ラリーなら喧嘩別れでチームを解消しているだろう。おそらく設定の何かがちがうか、渋滞情報のせいだろう。かまわず、そのまま走り続ける。峠道ではまさに本領発揮。曲がりたい方に顔を向けてくれる。オンザレールそのものである。あっという間に峠道をのぼりきった。

ところが、土山に入ったあたりで渋滞がはじまった。何度も通った道だが、こんなひどい渋滞は初めてだ。ナビは、次の頓宮で右折するよう指示を出している。困ったときのナビ頼み。迷わずハンドルを右に切った。100mも走っただろうか。二車線の舗装路は切れた。ナビは山に向かってのびる細い農道を進むようにと指示を出す。山を迂回する道でもあるのだろうとなおも走ってゆくと、ワンボックスカーが立ち往生している。

どうやら林道に入るのを嫌ってUターンしようとしているらしい。あぜ道に前を突っ込んでこちらの車が通りすぎるのを待っている。道は暗い杉林の向こうに消えている。どうしようか、と迷った。しかし、二台がUターンできる場所もない。ままよ、行けるところまで行くさ、と林の中に車を入れた。杉落ち葉の降り積もった杣道は車一台がようやく通れる幅しかない。突き出した木の枝や枯れ草に気をつけながらそろそろ行くと、向こうから軽トラがやってきた。

対向できそうな場所は軽トラの後ろだが、なかなかバックしてくれない。妻が車から出て頼みに行くと、やっと道を譲ってくれた。脱輪しないように、相手と接触しないように慎重にハンドルを切ったが、足下で枯れ枝を踏むバリバリという音が聞こえる。嫌な感じだ。どうにかすれちがったが、道幅は細いままで、いつ次の対向があるか気が気でない。
「ルート検索に、新車という設定はないのかなあ」とぼやきながら、ゆっくり走った。

杉林を抜けると、道は細いままだが、視界が開けた分明るくなった。雑木林の中は赤や黄、褐色と様々な落ち葉が道に散り敷き、実に美しい。以前の四駆なら喜んで走り抜けるところだが、のび放題の枝が道に張り出していつこするか分からない。危なくって、とてもスピードを上げる気になれない。ナビはこのまま9キロ走れという。対向車が心配で林道の走りを楽しむどころではない。人家の見えてくる頃にはすっかり疲れきっていた。

国道にもどり、八日市から高速に乗った。初めからナビの言う通りに走っていたら、ずっと高速で米原まで行っていたのだろうか。地図の上では遠回りでも実際には速いこともある。地図を頼りに走る癖がついていて、ついつい最短距離を選んでしまう。しばらくはナビの言う通りにしてみようか、と柄にもなく弱気になった。

米原から北陸道に乗って木之本まで。インターを降り、余呉湖を目指した。湖北の紅葉はまだ見頃というには早すぎ、道沿いの並木も上の方から色が変わりはじめているところだった。ナビの指示通りに走って湖に無事到着。静かなところだ。湖畔の芝生で家族連れがお弁当を広げていた。そろそろ昼時だが、駐車場横のレストランは二十年はタイムスリップしたような建物で、ちょっと入りにくい。結局、湖を一周して次の目的地を目指した。

塩津というところで、道の駅ならぬ「水の駅」という看板を見つけ、面白そうだというので立ち寄った。地場産の物品を売るコーナーでは、名産の鮒ずしがパックで並んでいた。奧の方には食堂があり、そこで「鮒ずし茶漬け」というメニューを見つけた。
「どうする。ここで食べてみる?」
匂いも味も曲のある鮒ずしは、食べては見たいが不安もある。しかし、食堂の定食メニューになっているのなら、多くの人が食べているのだろう。思い切って食べてみることにした。

ちょうど客がいっぱいで、しばらく待たされた。隣のパン屋をのぞいたら、いのしし肉入りコロッケというのを売っていて、これも買ってしまった。待っている間に平らげてしまったが、馬鈴薯がほくほくしている以外には特に猪らしい野性味はなかった。
「14番のお客様、お待たせしました。鮒ずしは初めてですか?乳酸発酵なので体が温まりますよ。よく混ぜてから食べてください。」
盆の上に鮒ずしを茶漬けにした椀と、鯖寿司が一貫、それに諸子の甘露煮と香の物がついて1200円。

箸でよくかき混ぜ、鮒ずしを口に運ぶ。近くまで来ると独特の匂いが鼻につーんときた。一瞬ひるんだが、思い切って舌にのせる。不思議な味である。酸味と発酵臭がなんとも言えない味を創り出している。美味い、といえば美味いのかもしれない。慣れれば病み付きになる味の一つだろう。二人とも完食したから、きっと美味いのだろう。肉厚の鯖寿司も脂がのっていて美味。満足して店を出たのだった。(つづく

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