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garage147
葛籠尾崎から見た琵琶湖

 湖北路<融雪塩カル篇>

塩津から奧琵琶湖パークウェイの入り口まではすぐだった。左下に琵琶湖を見ながら道はぐんぐん登ってゆく。シフトをマニュアルにして少し踏み込んでみる。それほど力まなくてもレスポンスは早い。思ったように加速し、カーブを曲がる。車に引きずられる感じが全くない。運転する愉しさをあらためて味わっている。高度が上がるに連れて紅葉の色も冴え、右に左に絶景が現れるのだが、景色は妻に任せてしばらくの間ハンドル操作に専念した。

楽しいことはそうは続かない。すぐに前の車が見え、後をついて走るだけになった。有料道路でないだけましかもしれない。しばらくがまんして走ったが、展望台を見つけて車を止めた。少し薄雲が張り出したせいか、対岸もぼんやりと霞み、せっかくの紅葉も今ひとつ色がはっきりしない。その間も車の流れは途切れることなく続いていた。観念して車に戻り、キーを回した。

ゆっくり走っていると、道沿いの樹木の紅葉も、眼下の凪いだ湖面もじっくり堪能することができる。観光バスにでも乗っているような気でドライブを楽しんだ。崖に植わった疎らな林が切れ、道が大きく折り返すようなかたちにカーブしているところに広い駐車場が見えた。標識には葛籠尾崎とあった。なるほど、ヘアピンカーブのこの位置からなら琵琶湖の東岸、西岸が一望の下だ。静かな湖面に浮かぶ嶋影が有名な竹生島にちがいない。

駐車場の一角に車を停め、カメラを持って外に出た。崖下のなだらかに湾曲した汀に沿って豆粒のような人家が集まっていた。陽は西に移っていた。風のないあたたかな日和。小波ひとつない湖面に午後の陽が眩く照り映えていた。シルエットとなった松林と光を浮かべた湖面のコントラストが、静謐なモノクロームの画面になっていた。思わずシャッターを切った。

道はここから下りになっていた。もと来た道に戻るか、もっと先まで行ってみるか、考えるまでもない。陽はまだ高く、空はまた晴れてきていた。迷わず先に車を進めた。エンジンブレーキを適度に効かせながら、坂道を下ってゆく。上りに比べれば下りはあっという間だ。結局、湖に突き出した半島を湖岸に沿ってぐるっと半周したことになる。木之本方面に帰るには右に道をとればいいはず。車の少ない道を快適に走り続けた。

岩熊トンネルを抜け、少し行った坂道だった。不思議なことに路面が濡れている。ここだけ雨が降るわけもなし、変だなあと思いながら走っていると、突然窓に雨が当たった。なんだ、と思った。天気は快晴だ。麓の町にも陽があたっている。それなのに、とサイドウィンドウを見て訳が分かった。道路脇から水が噴き出している。それも一定間隔で道路の真ん中に向かって。坂道の凍結を防ぐ目的らしい、と分かったのは少ししてからだった。

「びっくりしたなあ。コペンでなくてよかった。オープンなら水をかぶってるところだ。」
「後ろのベンツ、オープンじゃなかった?」
と、ひとしきり冗談のネタにして笑った。まったく、地元の人なら驚かないだろうが、はじめて走る観光客には、冗談にしてもちょっと度が過ぎる。紅葉の季節である。いくら試験にしても道路の凍結防止にはまだ早すぎはしまいか。後で、車を停めて見てみたら、林道で汚したタイヤがきれいになっていた。
「かえって得したねえ。」と、その時は喜んでいたのだが…。

木之本にある「北近江の湯」までは、ナビに連れて行ってもらった。長距離では意見が食い違うこともあるが、近くにある知らない施設に案内してもらうには便利な機械だと思う。
入り口で入湯料を払うとき「お二人で千四百円です。」と聞こえたので、財布からお金を出したら、
「あと千円です。」と言われた。二千四百円の聞き間違いだったのだ。あとで分かったが、平日と休日の料金がちがうらしいのだ。地元客優先ということか。それにしても1200円はちょっと高い気がする。

北近江の湯はレクリエーション施設の一部で、ホールではホルンの生演奏中だった。温泉の内容は、ジェットバスや寝湯、サウナが二つとまあまあの設備である。広くてゆったりしているところがいい。残念なのは露天からの眺望が皆無で坪庭の中で湯に浸かっているような気がするところ。休憩室は広いのだが、禁煙でないので煙草を吸わない者には辛い。

温泉に入ってからの運転はさすがに疲れる。眠気覚ましに何度か途中休憩をとった。八日市で高速を降り、一般道を走っていると、ナビが日野水口間の有料道路に入るよう指示してきた。この道ほど無駄な道はない。一般道で問題なく走れるからだ。以前の記憶を頼りに暗い農道にハンドルを切った。さすがに今度は非を悟ったか、国道1号線へのルートを誘導しはじめた。それでいいのだ。

無事家に帰った翌日の夜のことだ。疲れが出て早めに床に就いたところへ、妻が声をかけた。
「ねえねえ、重大なことが分かったんだけど。聞く気ある?」
眠かったが、「何?」と訊いた。
「あのね、コペン仲間と昨日のことをチャットしてたらね、あの水のことが分かったの。あれは凍結防止用で塩カルというのが入ってて、放っておくとホイルなんかが錆びるんだって。」
眠気がすっ飛んでしまった。

塩カルというのは塩化カルシウムのことだろうか。それはまずい。もう一日経ってしまっているじゃないか。ホイールだけじゃない。ボディの下部にもあたっているにちがいない。オイルパンが錆びるぞ。どうすんだ?といってまさか夜中に車を洗いに行くわけにもいかず、ニケを抱きながら、一晩中まんじりともせず夜を明かした、というのは嘘。いつの間にか眠ってはいたが、六時きっかりに目を覚ました。

何年ぶりかで洗車セットを用意し、長靴を履いて表に出た。外はまだ薄暗かった。駐車場から車を出すにも、寒さのせいでガラスがすぐ曇って何度もデフォッガーをかけなきゃいけない始末。ようやく家の前に止め、ホースを引っ張ってきて水をかけた。家庭用の水圧では何ほどもかからないが、そこは気持ちの問題である。朝の散歩をする老夫婦が奇妙なものでも見るような視線で通り過ぎていくが、構ってなどいられない。

一応水をかけ終わると次は拭き取りである。レンズ効果とやらで、水滴がついたまま太陽光線があたると塗装に悪い影響が出るらしい。もともと、アルファは塗装が弱いというのが定評のあるところだ。そろそろ表通りもバスが走ってきた。交通の邪魔になるので駐車場に車を戻す。駐車場で洗車できれば問題はないのだが、借りているので、それはできない相談である。

ホイールからはじめ、ボディまで拭き終わると朝日がさしてきた。朝飯前の仕事にしてはかなりハードだ。家に帰ると、妻が、
「どこにいるのかと思った、なあんだ。車を洗ってたのね。」
とすずしい声。どっと疲れが出た。この日は一日中職場で欠伸ばかりしていたのはいうまでもない。
でも、本当のところ今頃から塩カルって入れているんだろうか。試験期間は水だけってこともあるんじゃないか、と思うのだけど。誰か知ってたら教えてほしいなあ。


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