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Home > Library> Essay >0410

 オープン・カー

夏の盛りに注文した車がやっと届いた。と言っても自分の車ではない。妻の車は、トラブルが続き、何度も修理を繰り返してきたが、最近はロックがかかりにくくなってきていた。さすがに物騒で、修理を頼んだら、自動ロックの不具合なので、それを直すとなるとかなり高額になるという。車体の前部に限って車高が低くなってくるという、この車ならではのトラブルのほかにもいろいろ気になる部分もある。思い切って買い換えることにした。

しかし、トラブルはあっても、長い間乗ってきて愛着のある車だけに次の車の候補選びが難航した。家の前の道はかなり狭い。軽自動車ならともかく、普通の小型車では通りに出るまでに毎日神経を使う。問題はもうひとつあった。小さいながらも英国車である。革のシートやウォールナット製のウッドパネル等、細部に手がかかっている。最近の国産車は、性能も燃費もよくなっているが、どの社の車も似たり寄ったりで、残念ながらこれはといった車が見つからなかった。

軽自動車で、普通車に負けないだけのクオリティーを持ち、前の車に劣らないインパクトを持った車。なかなか難しい注文だったが、ようやく当方の眼鏡に適う車が見つかった。D社のコペンという車がそれだ。オープン2シーターで、トップの部分がリアのトランクに電動で収納できる。急に雨が降ってきても20秒ほどで、リアトランクからハードトップが迫り上がってくる。これは愉しい。もっとも、その分トランクに荷物は積めないわけだが。

さて、納車日は絶好の秋晴れになった。説明書を読むのもほどほどに、妻の運転でドライブに出かけた。街なかを抜け、田舎道に入ると、すっかり白くなった薄の穂が秋の陽を浴びてかがやき、晴れ上がった空にはすじ雲が高く弧を描いているのが見える。頭の上に覆いがないというのはこんなにも気持ちのいいことだったのか、とあらためてフルオープンの魅力を再発見した。

「いい気持ちだなあ」と、運転中の妻に話しかけると、「それどころじゃないわ。緊張で手が汗ばんでるのよ。」と返事が返ってきた。実は、保険の切り替えがまだ完了していない。先刻FAXで、車の変更届を送ったが、今夜の12時から切り替わるとのこと。それまでに、事故にでも遭うと、総額が自己負担というわけだ。なるほど、それでは、緊張するのも無理はない。

隣町のイタリア料理店で、ノンアルコールビールで新しい車に乾杯した。いつもはこちらが運転するので、妻がワインを飲んでもノンアルコールビールで我慢している。今日は飲んでもかまわないわけだが、何かの時には交代することがあるかもしれないと思い、やめておいた。帰り道、「ねえ、あなたも運転してみる?」と、聞かれたが、やっと慣れてきたところで、気持ちよさそうに運転しているところを変わるのもどうかと思い、運転はまかせることにした。

ドアに肘をかけ、背凭れを倒し、サングラス越しに遠くの景色を見ていると、なんだか映画の中にでもいるような気がしてきた。アルコールは飲まなかったが、緊張で妻が食べられなかった分、食べ過ぎたのだろう。風の音を聞いているうちに眠くなってきた。たまには、助手席もいい。これからは、時々居眠りしながらのドライブができると思ったら、幸せな気分になった。どうやらオープン・カーというのは気持ちまで開放的にしてくれるものらしい。


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