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DAYS OF COPEN

 湾岸道路

12月25日の朝は、よく晴れていた。
珈琲を淹れ、前日妻が用意してくれてあったチキンサンドウィッチを食べた。
クリスマスだ。テレビでは、ビル・マーレイ主演の『三人のゴースト』を演っている。ディケンズの『クリスマス・キャロル』を現代版にしたものだ。ビル・マーレイのシニカルなキャラクターをスクルージに、というキャスティングは悪くない。ただ、この人が演じると最後の改心がやけに嘘っぽく見える。まさか、それを狙ったわけでもないと思うが。

新聞によれば、本家のアメリカではP.C(ポリティカル・コレクトネス)の一環で、メリー・クリスマスという言葉が消え、ハッピー・ホリデイと呼ばれるようになってきたという。本来キリスト教とは何の関係もない風習だが、クリスマス(キリストのミサ)という呼び名が他の宗教信者には刺激を与えるというところだろう。信仰心とは無縁の人が大半の日本ではそういう難しいことは論議もされない。すっかり年末の風物詩と化している。

寒さが増し、人恋しさが増す時節。雪の中でも葉をつけた儘の樅の木に生命力を見、貧しい者に贈り物をした聖ニクラウスを思い出すのはそう悪いものでもない。
今年の妻へのプレゼントは毛皮の耳あて付きの帽子。飛行帽ではないが越冬隊員がかぶるようなヘビー・デューティー仕様である。妻からのプレゼントはドライビング・グローブとセーターとシャツ。どちらもドライブ用というところが泣かせる。
「明日は絶対走ろうね。」と、妻が言った。

実はプレゼント用にもう一つ探していた物がある。タン・レザーのシートに似合うクラン・タータンのブランケットだ。県庁のある市まで行ってみたがなかった。クリスマスの日、長島ジャズ・ドリームを目指したのはそういう訳だ。ここは、アウトレット専門のショッピングモールとして最近できたところ。もしかしたら、と思ったのだった。

高速道路を北上し、四日市で湾岸線に出た。最近開通した道で、一度走ってみたかったところだ。片側三車線の道は快適だが、風よけなのか両側は防音壁のような遮蔽物が張り巡らされていてせっかくの海が見えないのがもったいない。少し走ると長島スパー・ランドのジェットコースターが塀越しに姿を見せた。目的地はこの近くのはずだ。

相変わらずのことだが、また道をまちがえた。S.Aだとばかり思い込んで通り過ぎたらそこが出口を兼ねていたのだ。初めて来たのだから仕方がない。次の出口で下りて国道を引っ返した。大抵の大型トラックは高い高速料金を嫌って国道を走る。排気ガスと轟音で、幹線国道はオープン向きではない。這々の体で堤防道路に抜けた。

目指す場所の看板がないので、近くにいた道路工事の警備の人に道を訊ねた。
「ああ、そこならこの道を堤防沿いに進んで、ええっと…、カラーの建物が見えたら、そこだよ。それと、駐車料金が30分ごとに増えるから一般の所に入れた方がいいよ。」
親切に教えてくれた。顔がよく見えるオープン・カーは警戒心を解くのか、みな愛想がいい。

言われた通り行くと、たしかにあった。教えられた通り、一般の駐車場に車を止めた。ルイジアナの街をイメージして造られたというが、それほどの物ではない。この日はクリスマス・コンサートと題してFM局が公開生放送をやっていた。女性トリオだったが、赤いロングドレスから出た肩がいかにも寒そうで痛々しかった。

なるほど、店舗の数は多くアウトレットということもあって値段もかなりやすくなっていた。しかし、お目当てのブランケットはなく、妻がほしがったボア付きのフライトジャケットもサイズが大きすぎた。それでも、耳あて付きの可愛い帽子とウィンド・ブレーカーを見つけた。お気に入りのハリスツィードでできた小さめのバッグを見つけたので車内持ち込み用にプレゼントすることにした。自分用にもハンチングを探したのだが、残念ながら気に入る物がなかった。

隣接する遊園地の閉園を告げる蛍の光を聴きながら車を出した。近くにある「なばなの里」に寄ってから帰ることにした。花壇を含む庭園がライトアップされてきれいだと、妻が知人から聞いていた。どちらかと言えばイルミネーションやライトアップは、あまり好きではない。しかし、まあ今宵はクリスマス。この日くらいはきらきらした飾り付けも許されるのではないかと思うことにした。

たしかに、以前と比べるとライトアップの技術もよくなり、それなりに効果的な照明をしていると言える。庭園の規模も大きく、園内には和洋中の食事どころをはじめ、温泉まで設けられ、至れり尽くせりの施設になっていた。クリスマス・デートのカップルが多いかと思っていたが何のことはない老若男女大勢の客で園内はすし詰め状態だった。ここでもクリスマス・コンサートが開かれ、ゴスペル・ソングを歌うグループに人集りがしていた。

月が出ていたので、あいにく星はあまり見えなかった。それでも高速道路に乗るまではオープンで走った。妻は、プレゼントした毛皮付きの帽子をかぶって「暖かい」を連発していた。堤防道路の反対車線は渋滞していた。遊園地が見える頃やっと車のライトの列が切れた。大観覧車が一際明るく夜空に浮かんでいた。


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