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DAYS OF COPEN

 談山神社

一か月点検の時期が来て、走行距離計の数字は1000を超えた。近頃では「ならし運転」などという言葉も死語のようだが、エンジンに過剰な負担をかけてもと考え、これまではスピードを抑えて走ってきた。もともとスピード狂ではないし、走り屋でもない。ただ、知らぬ間に出てしまうものをメーターを見ながらセーブするのはけっこう気骨の折れるもの。メカニックの許しを得、晴れて高速にデビューすることになった。

ここ何日かは秋晴れが続いている。しかし、少しずつ気温は下がって来つつある。いつもの革のジャケットに合わせてジーンズも革製に替えた。眼鏡と地図を確かめて、いざ出発。この前行けなかった談山神社に再度挑戦。同じ道では面白くないので今回は高速道路を使うことにした。インターまでは家から二、三分の距離だ。

さすがに高速道路だ。風の強さが一般道の比ではない。山の多い地域に新しく引いた道路だから、ほとんどが高架で風を遮るものがない。また、帽子を飛ばさないようにおっかなびっくりで走り出した。アクセルを思いっきり踏み込むと、車は次第に速度を上げた。出足は少し重い。自動変速になれないので、少しずつギアが変わっていく感じが落ち着かない。速度が上がるに連れ、加速度的に速くなってゆく。あっという間に100qを超えてしまった。ペダルにはまだまだ余裕がある。130を超えたあたりでリミッターが働くと聞いているが、125まではすぐだ。なかなか小気味のいい加速ぶりである。

ステアリングの切れがいいので進路変更は思いのままだ。天道虫のような半球状のフォルムは、風を受けることで、かえって地面にへばりつくようで、グリップ感はすこぶる安定している。少し足が冷えるが、ヒーターを入れれば、すぐ暖かくなる。それでも寒い時はシートヒーターもついている。寒くても、冬でもオープンで走れと言われているようなものだ。

高速道路と高速道路をつなぐ自動車専用道路は制限時速60q。しかし、誰もそんな速さで走りはしない。高速道路並みの速さで走り抜けてゆく。流れに乗らなければ、かえって危ない。無理をしない程度でついてゆくのだが、すぐに後ろに追いつかれる。無料で高速並みの速さで走れるこの道は大型トラックが目立つ。くっつかれるとなりが小さいだけにちょっと怖い。隙間を見つけては左車線に移ることの繰り返しだ。ずっと左にいればいいようなものだが、アップダウンがきつく、遅い車は極端に遅い。つい右に出ることになる。

名阪国道を天理でおり、道を左にとった。右に行けば奈良市街だ。いつもはこちらの道を行くことが多い。天理市は日本各地からお地場帰りをする信者のための宿泊所が立ち並ぶ。一種独特の景観を持つ宗教都市である。日本瓦の壮麗な社殿を銀杏並木越しに見ながら走る。桜井に入ったところで渋滞に捕まった。ふだんなら通り過ぎる看板がゆっくり読める。新しい店が目に入ったところで、昼食をとることにした。

彩(いろどり)膳というのは、籠で編んだ盆の中に、小さな小鉢を並べ、一口ずつ惣菜を盛ったものだった。里芋の唐揚げや秋鮭のフライ、湯葉にぬたと、酒肴になりそうなものが七品。縮緬山椒をかけた白い御飯と白味噌の汁が付いてきた。定食の御飯をビールに替えることができるというのは親切だ。車で来ていなければ是非そうしたいところだった。

談山神社への道はすぐ見つかった。この前来たところから何ほども離れてはいない。道が一筋ちがっただけのことだ。坂道を上りはじめると、上の方から何台も車が降りてきた。いやな予感がした。予感は的中し、すぐに渋滞がはじまった。坂道の途中で行列はとまったまま全く動く気配がない。傍らの歩道からハイキング姿の初老の二人連れが声をかけてきた。
「格好いいわねえ。」と女性。
「ありがとう。」と力なく笑って答えると、連れの男性が、
「いくら格好良くても動けなくてはねえ。」と、笑った。図星である。腹も立たない。他の車は窓を閉めているので、専属のスポークスマンになったみたいなものだ。いろんな人が声をかけて通り過ぎる。天気はいいし、景色もいい。青空の下なら停まっていても苦にはならない。問題は日陰でとまった時だ。冗談抜きで寒い。

やっと、駐車場の空きを見つけて車を止めた。急な階段を上って神社の参道に出た。沿道には屋台が並びお祭りのようだ。談山神社は高い石段の上にある。紅葉は、ようやく七分と言うところか。緑から赤にかけての階調がみごとである。バスで来た人たちだろう、茶店でビールを飲みながら、酒臭い息を吐いている。かなりきこしめしているようだ。
「この一杯がやばいねえ。途中でがまんできなくなる。」
「帰りは大丈夫だろう。」
「片側通行があったじゃないか。」
トイレまで持つかどうかの心配らしい。それほど心配ならよしときゃいいのに、そこが酒飲みの意地汚いところだ。飲めるところならどこでも飲みたい。ま、気持ちは分かる。おでんが湯気を上げている。緋毛氈に腰かけて紅葉を見ているだけでは手持ちぶさただろう。紅葉狩りも花見も同じだ。「酒なくて何で己が…」というところか。こちらは帰りのドライブが待っている。早々に退却することにした。帰り道、道路際にみごとな紅葉が目に入った。
「これが一番きれいね。」と、妻が呟いた。
片側の崖からは滝のように清冽な水が飛沫を上げて落ち続けていた。

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