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DAYS OF COPEN

 2006/5/3 渡瀬温泉

急に夏がやってきたような日だった。昨日まで遠くを見ると薄ぼんやりと曇っていたのが嘘のように、黄砂の姿はなく、すっきりと晴れ渡った空には鯉幟が泳いでいる。みどりの日から始まったゴールデン・ウィーク。休暇をとれば九日間の大型連休になるが、月火は出勤という人が多いから、憲法記念日からが本当の意味での連休である。

五月初旬の飛び石連休をゴールデン・ウィークと呼ぶのは映画産業が使ったのがはじまりらしい。映画が娯楽産業の花形だった当時は、この時期、町にどっと繰り出した人は映画館に引き寄せられたのだろう。3Cと呼ばれるカー、クーラー、カラーテレビがどの家にも入りこむようになると、映画はテレビに押され斜陽化し、大型連休は町を離れるのが主流になってくる。

海外組はいざ知らず、狭い日本、多くの人が外出すれば、行楽地には人が溢れ、道路が渋滞するのは当たり前。最近ではこの時期は近場で、という人が多くなってきている。バーベキューを楽しんだり、温泉にのんびり浸かったりするというのは賢い過ごし方だろう。G・W中に開かれる和歌山のオフ会が、護摩壇山に集合した後、バーベキュー、渡瀬温泉というのもその線にそったものだろう。

連休中にドライブに行きたいという気持ちは前からあった。それも、北に行く道は人が集中して渋滞は必至だから、南に下ろうと決めていた。前々から誘われていた和歌山のグループのイベントに参加するのはこの時期を置いてないと妻が思ったのは当然である。朝から洗車し、ピカピカになったコペンに温泉グッズを詰め込んで出発した。

今回は42号線を使う。通い慣れた道を大台まで走り、42号に乗った。大台警察の前を左折すると道は一気に南に下る。黄砂もなし、花粉も少ないとなれば、オープンしかない。午前中は風が少し涼しいかな、という感じ。マドラスのシャツの上に麻のジャケットを羽織った。運転は妻まかせ。サングラス越しに木々の新緑が飛びこんでくる。杉、檜の林の中に芽吹きはじめた落葉樹の新芽が領分を広げようとモクモクと湧いて出たように見えるのが楽しい。

荷坂峠を越えると、高い山の上から見ているのに、山の上に海が浮かんでいる。水平線は目の高さだから、と理屈では分かっていても、いつ見ても不思議な光景だ。先は長いので早いめの昼食をとろうと思い、道の駅マンボウに入ったが、楽しみにしていた真鯛のあぶり丼は売り切れだった。それどころか、券売機の丼物にはみな「売切」の赤いランプが灯っていた。

仕方なく日替わり定食を食べていると、「海鮮丼」という声が厨房から聞こえた。時計を見ると11時を少し回ったところ。今からが昼食時間帯ということか。めずらしく早く家を出たのがあだになった。どうもここではついていない。アジのフライは美味しいのだが、昨日沼津の鰺を食べたばかりだ。妻のミックスフライカレーには、海老フライとイカのリングフライが二つずつ付いている。少し分けてもらった。

尾鷲から矢ノ川峠を抜け、熊野に入ると、七里御浜に張り渡された長い綱に色とりどりの鯉幟が群れていた。折からの風を受け、それはまるで、どこまでも広がる水平線に向かって、青い海の上を泳いでいるように見えた。甍の波の上を泳ぐ鯉幟もいいが、本物の波の上を泳ぐ鯉もなかなかである。花火といい、鯉幟といい、熊野の人は豪勢なものを好むようだ。

御浜の道の駅で運転を交代した。少しずつ車の数が増えてきたかな、と思っていたら鵜殿村で渋滞につかまってしまった。熊野川沿いに新宮まで延々と車の列が続いていた。自転車で走る地元の子がこちらを見て微笑んでいた。真上に昇った太陽はじりじりと照りつけ、走らないオープン・カーにとって渋滞は炎熱地獄である。

橋本で渋滞の列を抜け168号線に入った。熊野川に沿ったこの道を走るのは十数年ぶりである。子どもが小さい頃に川湯に、少し大きくなってからは十津川に来たことがある。以前来たときには道端に猿の親子が座っていたものだ。折り重なる山々の緑に河原の白い砂が目に映え、山深い里ながら明るい印象は昔に変わらない。

311号線に入って少し行くと、渡瀬温泉を示す看板に出くわした。本線から下りてすぐのところに露天風呂と書かれた大屋根が見える。駐車場に車を止め、和歌山のグループを捜すもコペンの姿はなし。待っていてもはじまらないから、もうひとっ走りしてこようかと車に乗ったところに、色とりどりのコペンがやってくるのが見えた。

みんなで、西日本一広いといわれる大露天風呂に浸かるのかと思っていたが、どうやら川湯温泉に行く人と二手に分かれるらしい。川湯は川の中に湧く温泉に入るのがいちばんだが、周りから丸見えなので当節水着で入るのが一般的な風潮である。水着は持参してなかったので渡瀬温泉組に合流した。男の方は数人いたのだが、もともと数少ない女性の方は、一組が帰宅、もう二人は川湯組ということで、妻一人になってしまったのがかわいそうだった。

確かに水着持参なら混浴も可ということで、大勢が川湯の方に流れたのだろうが、遠いところからやって来て一人で入る温泉はちょっとつまらないだろうな、と思った。まあ、もともとが飛び入りなのだから文句は言えないが、せっかくのオフ会が最後で二つに分かれるというのはどんなものだろう。700円の入浴券が同系列のスーパーでもらえる割引券で500円になる。幹事さんの手の中に残った割引券の束がなんだかさみしそうに見えた。

渡瀬温泉は、露天風呂が売りである。一の湯から四の湯まで、温度差のある岩風呂が広い園地に配置されている。屋内にある一の湯がいちばん熱い。お湯はそのまま露天につながっているので、外は自然にぬるくなる。おもしろいのは、外にも洗い場があることで、いくら夏日でも外で体を洗っていると少し寒かった。西日本最大というから、大きなものを想像していたのだが、いくつもの湯に分かれていたので、なあんだ、と思った。しかし、お湯は独特の卵の腐ったような硫黄臭の漂う本格的なものであった。

帰り道は、311号を通って紀和町から熊野に出ることにした。瀞峡に続く川沿いの道は車一台がやっとという細道。こんな道だから交通量はしれていると思ったのが誤算。瀞峡からの帰りか、やたら対向車が多い。何度も対向待ちを繰り返し、やっとの事で紀和町方面に抜けた。湯の口温泉まで、距離としては十数キロ。往きも熊野から入る方が近かったかもしれない。

この間、湯の口温泉から帰ったときには紀伊長島ではとっぷりと日が暮れていたのに、一月ちがうとずいぶん日が長くなった。どこまで走ってもなかなか暗くならず、山の端の方に白っぽい光がいつまでも残っていた。そのせいか、温泉に浸かったのに眠気に誘われることもなく家まで走り通した。なんだか、ずっと走ってばかりいたような気がする一日であった。

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