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DAYS OF COPEN

 2005/11/28 室生寺

年のせいか寝付きがよくなった。その分早く目が覚めるというのなら普通だが、夜明け前に一度ニケに起こされるので、朝は日が出るまで眠ってる。そんなわけで睡眠時間は平均的だが、実働時間は少なくなる。その少ない日中に外にばかり出ているので、いっこうに本が読めない。雨でもふれば別だが、こう秋晴ればかりが続くと、一日中家にいるのはもったいない気がする。

湖北のドライブリポートが長くなったので、まずは前半部分だけアップした。おもしろいのは後半だがそれを書いていると、まる一日机に向かうことになる。時刻は11時。昼食がてらどこかに出かける時間はたっぷりある。まだまだ紅葉も見頃、山門の紅葉を見ながら、山芋のとろろが食べたくなった。

この前からアルファばかりで出かけているので今回はコペン。妻の運転である。それなら帰りに温泉に寄っても大丈夫。165号線沿いには日帰り温泉がいくらでもある。用意だけしてどこにするかはその時次第だ。カメラとサングラスだけ手に持った。そろそろオープンでは寒い季節になってきた。綿ネルでライニングしたジーンズにM1ジャケットを着込んで外に出ると思ったよりあたたかい。キーを回し、トップを開けて妻を待った。直射日光が膝にあたり、暑いくらいだ。

妻の車にはまだナビが登載されていない。自分の車で前もってルート検索を試みた。久居から165号線で室生寺。はじめてナビと意見があった。青山高原までの道は、最近は何度も走っている。名張あたりが少し混むが、あとは、快調に走れる道だ。紅葉の季節で渋滞しているのではないかと危ぶんだが、室生寺への道は気抜けするほど空いていた。

香落渓もそうだが、室生寺までの道も深い渓谷美を味わうことができる。麓の方ははまだ紅葉半ばだが、山の上の方では真っ赤な楓の紅葉を見ることができる。オープンならではの紅葉狩りである。曲がり角を曲がるたびに次々と深まる山里の秋景色を味わいながら、車は少しずつ上っていく。

私営の駐車場まで来ると、それまでの閑散とした風景はなんだったのかと思うほど、人で溢れかえっていた。中高年の観光客はバスで訪れるらしく、大量の客が次々とバスから吐き出されてくる。狭い参道を歩く人を避けながら、車を奧に進める。目指す料理旅館は山門前の太鼓橋のたもと。専用駐車場は、まだその先である。

旅館の別館の庭先にコペンを停め、歩いて太鼓橋のところまで戻る。玄関先で少し待つと、奧の座敷に招じ入れられた。先客が廊下近くの席にいた。川に面した窓際の席が空いていたのは幸運だった。六畳くらいの狭い部屋で、手摺りのついた窓際に板の間がついた和室は、昔は客を泊めていたのだろう。今は、料理を食べさせる部屋として使われている。

窓からは川をはさんで室生寺山門の紅葉が見渡せる絶景のポイント。さっそく料理を注文した。といっても、献立は決まっている。蒟蒻や山芋を中心とした山菜の定食が三種。品数がちがうだけで基本的に同じものが出る。妻は好きな胡麻豆腐のついた「あじさい」、当方は品数の少ない「つつじ」に、お銚子を一本。
「運転しないなら、飲んでいいわよ。」という妻の一言に甘えさせてもらった。

粘り気のある山芋を下ろしたとろろが絶品だが、山葵蒟蒻、味噌田楽、椎茸と高野豆腐、筍の炊き合わせ、白和え、酢の物と、どれも美味い。格子窓の向こうに名刹の紅葉を眺めながら酌む一献は格別である。泊まりなら二人で酌み交わせるのだが、ニケが待つのでそれは無理な相談。しばらくは交代で楽しむしかない。

帰りの車の中で、ふと思った。古刹の紅葉を旅館の宿から独り占めしながら、美味い料理と酒に舌鼓を打ち、妻の運転する車から全山の紅葉を振り仰ぎ、あとは温泉に向けて車を走らせる。いつか後になって、「あの頃がいちばんよかったなあ」と今日の日を思い出すときが来るのだろうか。いや、きっと来るにちがいない。人も世もそうそういいことばかりは続かない。ならば、その時になって後悔しないように今を精々楽しもう。そう思った。

いろいろ考えたが、今日の温泉は榊原の湯ノ瀬に決めた。うたせ湯が妻のお気に入りだからだ。青山高原を降り、猪の倉温泉への入り口を過ぎ、榊原温泉の看板のある道を左に折れた。はじめての道である。電信柱にある看板を目当てに進むと、近鉄の榊原温泉口駅に着いてしまった。道は駅で行き止まり。曲がり角をまちがえたらしい。

線路の下に開いたアーチを潜り、山道に分け入った。いかにもこれから温泉に行く、という物寂びた山道は、しかし、行けども行けどもそれらしい温泉が見えてこない。もう少し暗かったら狸か狐に化かされたかと思うくらい、山道を走った。やがて、また看板が現れ、見たことのある景色が見えてきたときは、日が暮れかけていた。

「温泉から出てきた人って、みんないい顔してるね。」
と妻がつぶやいた。湯上がりの顔色だけではない。たしかに、坂道を下りてくる人を見ていると肩の力を抜き、ゆったりした表情をしている人が多い。入れ替わりに玄関に入った。ここは公営なので700円。そのかわりタオルは有料だ。もちろん自分で用意すれば無料。

男湯の大浴槽はいつもより温度が高く、熱い湯の好きな者にはありがたい。下から噴き出す泡で体が揉みほぐされ陶然とした気分になってくる。サウナに入った後、外に出て風に当たる。ここの露天は大きな盥のような木桶の上に屋根をかけたもので、内側に腰掛けがあり半身浴ができる。熱くなってきたら上半身を出し、寒くなったら浸かるの繰り返しである。

酒が入ってるのか真っ赤な顔をした父親らしき男と、中学生くらいの男の子、それに男の父親とおぼしき老人が入ってきた。男が、息子に
「おい、お祖父ちゃんと手をつなげ。」と言い、自分も父親の手をとった。
「お父さん、極楽ですなあ。」と、喜色満面である。
息子も祖父もそう言われて満更でもない顔をしている。親孝行をしている男がいちばんいい気持ちなのだろう。気恥ずかしいような光景だが、そうさせるものがこの湯にはあるようだ。

帰りの道ではまた眠ってしまった。オープンで走っている間は、まだ目を開けていられたのだが、信号待ちでトップを閉じたらもういけない。いつの間にかしっかり眠り込んでいた。目が覚めたのは、毎朝通勤時に通る交差点近くだった。

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