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DAYS OF COPEN

 能見坂

三連休の中日。めずらしく我が家の前をタクシーが列をなして通る。正月休みは終わったが、まだまだ初詣客は多いらしい。参拝客が利用する高速道路の出口は二つ。西口で下りれば御木本道路、一つ先の出口で下りれば御幸道路を通って目的地に向かうことになる。二本の幹線道路は、旧街道を迂回して外宮、内宮の両宮を結んでいる。旧街道はかつての参宮道。道は狭いが、拡張されて対向もできるようになった。市内の道をよく知っているタクシーだけがここを通る。渋滞の抜け道探しに有利だという触れ込みのナビゲーション・システムに、この道は入力されていないのだろうか。

風が鎧戸を揺する音が聞こえる。天気予報では西高東低の冬型気圧配置で日本海側は吹雪いているそうだ。申し訳ない気がするが、太平洋側は今日も晴れている。雲は浮かんでいるが日を透いて白く輝いている。
この前走ってから、一週間たつ。一昨日、夫が退屈な会議に出ている間、子どもと二人で走りに出ていた妻は「今日は寒いんじゃない?」と、なかなか誘いに乗ってこない。昼過ぎになってやっと重い腰を上げた。

尾根筋を下り、市の中心部に出た。思ったより混雑はしていない様子だ。そのまま橋を渡り、宮川沿いを西に走った。堤防道路はさすがに風が強かったが、サイドウィンドウを上げると、風は帽子の上を吹いていくだけだ。変な話だが、太陽光を真上から浴びて車内はむしろ普通の車より暖かい。オープン・カーに比べると屋根付きの車は、いつも日陰を走っているようなものだ。

まだ走ってない道を探して、目的地もなしにただただ、ハンドルを切り続けるだけという気儘なドライブである。このままだと、前に通った道を走ることになるというので、路側帯が少しふくらんだ部分に入ってUターンした。ホイールベースが短いから、回転半径がきわめて小さくてすむ。あっという間に逆戻りして、南島町に向かう道をとった。

難所で有名な能見坂を攻めてみようという心づもりだった。閑散とした道路はよく整備され、中央に引かれた白線も眩しいくらいに光っているが、人っ子ひとり通らない。対向車のいない道を走っていると、ラリーでもやっているような気がしてくる。それほどスピードを出さなくても、風の音やエンジン音で十分スピード感を味わえるのが、オープンのいいところ。スローイン、ファーストアウトで、カーブを走り抜ける気持ちよさは、いわく言い難い。

何年も通ったことのない道沿いの村々は、懐かしい日本の田舎の佇まいを残し、山間の田畑にもさすがに働く人の姿も見えず、冬枯れの山に包まれて眠っているようだ。「あめごの里」という看板やカワセミのイラスト入りの標識に、清流に寄せる思いが見て取れる。集落の入り口には必ずその名前が記された標識が立っているのもうれしい。昔から変わらない地名には美しい響きを持つものが多い。日向、駒が野、柳と走り、もう少しで能見坂のはずだがと思っているうちに、トンネルに入ってしまった。

「トンネルを抜けたら能見坂は通らないんじゃない?このトンネルができてから、南島の人は便利になったって言うよ。」
と、つぶやいた。いつものように道を見逃したのだ。急カーブの坂道にセリカ・クーペを駆って挑戦したのは、免許を取ったばかりの頃だった。そのときは、何も考えずにそのまま走れば能見坂だったはずだ。新しい道ができれば、旧道は脇道扱い、わざわざ通ってみようと考える物好きくらいしか通りはしない。普通に走っていれば見逃すのは当たり前だ。

トンネルを抜けると、南島の海が目の前に浮かんで見えた。山々の間から顔をのぞかせた海は眩しく光を発していた。能見坂とはうって変わった緩やかなカーブを描いて、道は下っていた。
「もう一度引き返して、能見坂に出る?」と、妻は聞いてくれたが、それほどのこだわりはない。新しい道を通って海の方に下っていった。

南島への道をとった辺りから、ちょうど南北にのびる牛草山という山をぐるっと一回りするようにして、もと来た道に帰ってきた。山あり、谷あり、そして、海も見えるという考えようによっては贅沢なコースである。帰ってから調べた地図には、途中に牛草山の稜線を横切る鴻坂峠という葛折りの峠道が載っていた。きっと、妻は嫌がるにちがいないが、今度は地図を頼りにその道を攻めてみようと心に決めたのであった。

(注…当然、写真は能見坂ではありません。)
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