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 2006/1/30 湯の口温泉

湯元山荘湯の口温泉は山道の奥まったところにひっそりと建っていた。素朴な山小屋風の造りが湯治場の雰囲気を残している。入湯料はなんと300円。脱衣場で服を脱ぐと中に入った。高い天井は黒ずみ、いかにも山の出湯らしい雰囲気が伝わってくる。遠路はるばるやってきて、真新しい建物に出会ったりするとがっかりする。その意味でもこの佇まいはうれしい。

石造りの内湯は45度の源泉かけ流し。飲むと少し塩辛いらしいが、匂いも色もなく、さらっとした肌触りである。しかし、その効能は評価が高く、プロスポーツ選手も訪れる人気の温泉として知られている。川に面した露天には先客がいた。話し好きらしく、いろいろ教えてもらった。尾鷲の人で毎週来ているそうだ。去年できたばかりの屋根が不満らしい。たしかに雪の舞う中で入る風流さがなくなったと思う。目隠しの壁も男湯には必要ないという意見も納得できる。ただ、川の向こうが公園になっている。目隠しはそちらの都合だろう。

湯に浸かって老人たちの話を聞いていると、どうしてこんなに心がほどけてくるのだろう。それが自分でも不思議だった。小さい頃は家に風呂がなく銭湯に通っていた。自分の家を建ててはじめて一人用の浴槽に入るようになったのだが、体を洗う用は果たせても、心をほぐすには何かが足りないのかも知れない。身を飾るものも隠すものもない中で見も知らぬ他人に混じって湯に浸かる。不用心といえば不用心だが、お互い様だ。世知辛い世の中でここだけは別世界。できれば長逗留を楽しみたいところだが、今はまだ無理。退職後には日がな一日ゆっくりと湯に浸かっていたいものだと、今から楽しみにしている。

受付近くの売店で雉肉を見つけた。200グラム1300円は高価だが、滅多に食べることもない。話の物種に買って帰ることにした。夕暮れの山道は剣呑だ。帰り道は来た道ではなく熊野に出る道を選んだ。何のことはない。広い道が七里御浜の松林の見える国道に続いていた。子どもが小さかった頃、この砂浜でお昼を食べていて、大波を頭からかぶって下着までびしょぬれになったのを思い出した。旅に出ると「来なければよかった」を繰り返す憂鬱質の長男だけが素早く逃げて難を逃れたのが、思い出しても可笑しくて二人して笑った。海に目を遣ると、日の暮れかけた空に獅子岩が怪異な横顔を突き出していた。その下で熊野の海は静かにやすらっているように見えた。

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