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天の川温泉露天風呂

 天の川温泉

奈良県吉野郡天川村は、映画「天河伝説殺人事件」の舞台として一躍脚光を浴びたところだ。内田康夫原作の浅見光彦シリーズはテレビでも何度もドラマ化され、光彦役を演じた男優は水谷豊を初めとして、片手にあまるほど。どういう理由か、妻は内田康夫のファンで図書館で借りたり古本屋で買い求めたりして何冊もの浅見光彦シリーズを読んでいる。そんなわけで天川は行ってみたい土地の一つだった。

家を出て、途中一件だけ用事を片付けると、宮川堤に出た。丸太小屋作りで通いなれた道を一路西へ向かった。勢和村で道を乗り換え166号線をさらに西へ進む。平日の3桁国道にはほとんど車が通らない。高見トンネルを抜けると、そこはもう奈良県である。大宇陀で370号線に乗り南に下る。真壁造りの民家がちらほらと見えるいかにも奈良らしいおおどかな風景だ。

左手に吉野川を見ながらさらに西へ進む。広い川幅いっぱいに川波が立ち、眩しい光をはね返す。対岸に見えるのが桜で有名な吉野山だ。岡崎で309号線に入り南下すると天川への道に入った。旧街道の趣を残した集落を抜けると、道は一気に山里の風景に変わる。ちょうど昼時なのだが、このままで行くと食事をし損なう危険がある。山里では要予約の店が多い。ふりで入る客など見込んではいないからだ。

新しく開通したトンネルを出たところに食堂を見つけた。ラーメンと餃子が主の店らしい。作業服を着た男たちが数人、昼食後の休憩か、無言でマンガに見入っていた。いい大人がマンガを読んでいる光景というのは、この国ではさして奇しくない風景になっているようだ。食べ終わっても他に行くところのない山の中だ。毎日同じ顔ぶれで仕事をしていれば特に話すこともないということなのだろうか。餃子の美味い店だった。近ければ通いたいくらいだ。

桜の季節にはまだ少し早く、山桜の白い花が寂しげに見える奧吉野だが、九十九折りの山道を折れるたびに青空を背景に現れる白梅は見事だった。峠を越えると目指す天川村は目の前だ。ガソリンスタンドで給油しがてら天河大弁財天社への道を訊いた。次の橋を渡ったらすぐだという。赤い鳥居の見える橋の手前では護岸工事の真っ最中だった。来年度予算獲得のため年度末はどこもかしこも工事中だ。

天の川温泉センターの泉質はナトリウム炭酸水素塩で、消化器系に効能ありというが、もちろん飲用までするつもりはない。「タオルは持ってきたよね。」と念を押すと、「えっ温泉に入るためのタオルだったの?車拭き用だと思った。」と、妻。出がけに言った「タオルを持ってね」を取り違えていたらしい。タオルくらいはどうにでもなるが、クリームを塗らないと顔がパサパサになってしまうらしい。女の人というのは不便なものだ。

高野槇でできた浴槽は木の香も新しく、昼下がりの温泉は何とも贅沢な気分にさせてくれる。硝子窓の向こうには平石で拭いた露天風呂があった。目の前に聳えるのは近畿最高峰の八経ヶ岳。どこかで鶯が、一声鳴いた。長閑なものである。結局妻は顔は洗わずにすませたという。いつものことだが、思いつきで事を進めるのはよくない癖だ。しかし、これはこれで愉しいので、綿密に計画を立てることは今後もないと思う。

近くに円空仏があるとパンフレットにあった。栃尾観音堂というお堂を訪ねてみた。山を背にぽつんと小さなお堂が建っている。格子の奧にたしかに三体ほど木造が見えるが、はっきりしない。デジタル・カメラで撮影してはじめて円空独特の鉈彫りが確認できた。円空ブームが起きるまで村の人は弘法大師作と信じていたというのが面白い。全国にはまだまだ埋もれている円空仏があるのかも知れない。観音堂の前で記念撮影をしたあと帰途に着いた。

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