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曽爾高原温泉

 2005/10/16 曽爾高原温泉 お亀の湯

いろいろとあって、すっかり傷の癒えたコペンを駐車場に停めたまま二週間ばかり過ぎた。さすがにここ数日は、朝夕の冷え込みが感じられるようになった。これなら天蓋を開け、フルオープンで走っても、もう暑くはあるまい。しばらく家にいたきりだったせいか、気分がくさくさしている。晴れ間を待って出かけようと思っていた。

昨夜来の雨が嘘のように上がり、空には薄日が射してきていた。恒例の温泉グッズも忘れずにトランクに入れた。行き先は去年の暮れにできたという曽爾高原温泉だ。日帰り温泉を検索していてたまたま見つけた。近くにある御杖の「姫石の湯」もいい温泉だが、曽爾のそれには行ったことがない。薄のシーズンがはじまっているのが気がかりだが、好奇心に負けた。はじめての物には心が動く。

しかし、まずは、車のディーラーに寄る。愛車も十年乗った。そろそろあちこちガタが来ている。この前見に行った際に名前を書いてきたので、方々のディーラーからオータムフェアとやらの招待状が舞いこんできていた。生憎、先週は都合が悪かった。記念品に興味はないが、気になっている細部を確認するにはいい機会だ。ドライブルートに組み込んで予定を立てた。

一般に外車のディーラーがそうなのか、ここだけなのか、つきあいがないのでよくは分からないが、わざわざ葉書を出しておきながら、フェアといっても幟ひとつたてるでなし、テントを張るでもない。あっさりしたものだ。いつものように客はいなかった。顔を覚えていたらしくこの前話をした営業マンが笑顔であらわれた。話を詰めているうちに、だんだん気持ちが固まってくるのが分かる。ここで決めてもいいのだが、頭を冷やすために見積書だけもらって帰ることにした。

昼食は、このルートなら「天下一品」のラーメンできまり。真っ赤なイタリア車なんかに乗るようになったらやはり店も変わるのだろうか。洒落たイタリア料理店でランチとか。いやいや、それはないだろう、などと一人考えながらこってり味のスープを飲んだ。葬式の帰りだろうか、礼服を着込んだ家族が隣の席でラーメンを食べていた。小津の映画でも見ているような光景だった。

比奈知ダムにはこの前行ったばかりだったのに、曲がり角を一つまちがえたらしい。横溝正史の映画にでも出てきそうな庄屋風の豪邸が山の中腹にそびえ立つ隠れ里のような村に入りこんでしまった。しばらくすると「この先幅員減少」という看板が立て続けにあらわれて、そのうち鬱蒼とした山道に迷い込んでしまった。行っていけないことはないが、地図にもないような山道はちと心細い。もと来た道に引き返すことにした。

どうにか、見覚えのある道に出て御杖まで来た。いっそここで入ってしまおうかとも思ったのだが、せっかく来たのだ。道の駅で尋ねてみることにした。
「この近くに最近できた温泉があると聞いたのですが。」
「そこなら、ここからまだ三、四十分走らなければいけませんよ。」
教えてくれた女店員はさすがに面白くない表情だった。そりゃそうだろう。わざわざ温泉に来ていながら別の温泉の場所を訊いているのだ。
「それで、そこにはどう行ったらいいのですか。」と、たたみかけると
「前の道を行って二つ目の信号を右に曲がって、まだ走ってもらわないと。」と教えてくれた。
「ありがとう。」と言って店を出た。

田舎道では二つ目の信号がなかなか出てこない。見過ごしたかと思った頃にようやく出た。何のことはない。いつもの曽爾高原への道ではないか。看板も出ていた。「お亀の湯」というらしい。倶留尊山の麓にある亀池からとったのだろう。妻が言った。
「ねえ、あのおみやげ屋さんのあるところじゃない?」
記憶が確かなら、いつも人がいっぱいで敬遠している場所ではないか。

妻の予感通りであった。土産物屋のある一つ上の台地が拓かれそこに山小屋風の建物が新しく建っていた。幸か不幸か車でいっぱいの駐車場に空きが一つ見つかった。コペンをそこに滑り込ませると温泉グッズを持って階段を上った。山歩きのグループが次々とやってくる。下駄箱もほぼ満杯の状態。どうにか二つ開いていたのでそこに靴を入れる。入湯料は休日700円。平日は500円というのは良心的である。

日替わりで男湯と女湯が入れ替わるのはどこも同じ。この日は男湯が谷の方に面していた。全面ガラス窓の向こうに屏風岩が見える。抜群の眺望である。その向こうに広い露天風呂があった。頭の上に広がる鰯雲を見ながら湯舟に体を伸ばすと何とも言えない至福感が全身を満たす。この開放感はたまらない。長男の言を借りれば皮膚をよく溶かしそうなぬるっとした泉質は温泉好きにはうれしい触感だ。

難点を言えば洗い場や脱衣場が狭すぎる。この日も洗い場の前で列ができていた。後で支配人と話をしたところ、うれしい誤算だったそうだ。休日は1000人、平日でも600人を越すにぎわいだそうな。「今さら広げることもできませんし」と、困った顔で言い訳をしていたが、満更でもなさそうな顔をしていたのはいうまでもない。

帰り道、いつもの焼き鯖寿司を買って帰ろうと、もう一度御杖の道の駅に寄った。思いなしか、いつもよりひっそりとしていた。山里の夕暮れは早い。そのせいかも知れない、と思うことにした。いつものように帰り道はうとうととしてしまった。苦手な峠道も難なくやり過ごした妻の運転に安心していたこともあるが、温泉帰りはいつもそうだ。今度買う車をオートマと決めたのは理由があるのだ。

山道を抜け平野部に出ると、空には満月が浮かんでいた。振り返ると山の上には夕焼け雲がたなびいている。道端には尾花の穂がぼんやりと白く浮かんでいた。

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