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Lunchtime

 2008/11/1 山菜料理

色づきはじめとは名ばかりで、紅葉らしきものの見えない柱状節理の山肌を目で追いながら、車は山道を登ってゆく。足下には落ち葉が散り敷いているところを見れば、秋はすでに深まっているらしい。霜月に入っても冷え込みを見せない気温の高さが紅葉を遅らせているのだろうか。週末でもあり、絶好の行楽日和だというのに、駐車場に空きが目立つ。土産物屋の並ぶ参道も人通りが絶えている。紅葉祭りの初日で幟もはためいているのに拍子抜けする光景だが、狭い道を車に乗ったまま人をかき分ける剣呑さからは解放されるので、閑散としているのは大歓迎である。目指す料理旅館は山門前の太鼓橋のたもと。専用駐車場は、まだその先である。

旅館の別館の庭先にコペンを停め、歩いて太鼓橋のところまで戻る。いちばん賑わう時間を外したせいか、大広間はがらがらだった。川に面した窓際の席につく。川の向こうは女人高野の名で知られる名刹室生寺。窓からは赤い太鼓橋が臨める。いつもなら人通りが絶えないその橋も、今日は人影もまばらでひっそりしている。楓の先端が僅かに色づいているのが窓越しに見えた。

さっそく料理を注文した。といっても、ここに来たら献立は決まっている。蒟蒻や山芋を中心とした山菜の定食が三種。品数がちがうだけで基本的に同じものが出る。アマゴの甘露煮のつく「石楠花」を筆頭に、胡麻豆腐ときんぴらのついた「紫陽花」、六品と最も品数の少ない「躑躅」の三種。「躑躅」と「紫陽花」を注文、それにお銚子を一本。
「飲んでもいいわよ。」という妻の一言に甘えさせてもらった。

粘り気のある山芋を下ろしたとろろが絶品だが、山葵蒟蒻、味噌田楽、椎茸と高野豆腐、筍の炊き合わせ、白和え、酢の物と、どれも美味い。格子窓の向こうに古刹を眺めながら酌む一献は格別である。紅葉には少し早かったが、そのおかげで、観光地ではない室生寺の秋を愉しむことができた。品の良い家族連れの相客が席を立つと、広間には私たち二人だけ。
「熱いお茶でも入れましょうかね。」と、声がかかる。

この橋本屋の山菜料理。なぜだか時折むしょうに食べたくなるから不思議だ。店の人の対応も感じがいいからまた足が向く。太鼓橋の上に立つと、川波が銀色に輝いている。山門前の老杉越しに振り仰ぐ空はどこまでも高い。欄干に凭れてしばし旅人の気分に浸る。陽が薄らいだ。朱塗りの橋や梢の緑の色がさっと変わる。山間の古寺の秋は寂しい。参拝は、また今度ということにして帰途に着いた。

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