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Lunchtime

 2009/9/21 鴨せいろ

その店は、どうしてこんなところにと思わせるような、市内からはなれた住宅地にあった。開店当時に一、二度行ったことがあったが、その後なんとなくご無沙汰していた。今ではどこでも目にするようになったが、当時は色白の蕎麦がたいそうめずらしかった。店主にきくと殻をきれいにむけば蕎麦の色はこれが当たり前だということだった。

玄関脇のガラス窓の向こうで手打ちを見せるのが新鮮でタウン誌にも何度も採りあげられた。数寄屋風の造りの座敷が裏にあり、窓の向こうには山間の長閑な風景が広がる。当時市内にあったうどんも蕎麦も商う店とは、狙う客層がちがっていたのだろう。うどんが有名な町なのだが、近頃我が町では蕎麦屋がふえてきている気がする。蕎麦屋の酒という言葉はあるが、うどん屋の酒というのは聞かない。うどんと蕎麦では雰囲気がちがう。

せっかくの連休も家でぶらぶらするばかりの身。昼は蕎麦でも、と出かけてきた。最近行きつけの蕎麦屋も駐車場がいっぱいでとめられず、車で行けばすぐのところにあるこの店へやってきた。一台分ようやく停められるスペースを見つけて一安心。ところが、店の中で先客が待っていた。休日の昼はどこも混むようだ。待つことしばし。やがて奧の座敷が空いたと告げられて席に着いた。

以前に比べると植え込みの木が大きくなって、巣箱がかけられたせいか小鳥が飛び交う様が楽しい。初秋の山村風景は、刈田の畦道に彼岸花が色を添えているのが明るさを感じさせる。注文したのは、鴨せいろ。鴨南蛮が人気らしいが、まだ冷たい蕎麦が美味しそうな季節だ。妻はなめこおろし蕎麦。前に来たときもこれだったような気がすると笑いながら話す。

妻の運転をいいことに、蕎麦屋の酒を楽しむことにする。同じ部屋で蕎麦を食している諸氏にちょっと申し訳ない気がする。ところが、二人分の蕎麦が出てもいっこうに酒が来ない。冷やである。燗をつける時間は要らない。痺れを切らした妻がわざわざ席を立ち、店の者に催促すると、しばらくしてやっと現れた。蕎麦は半分食べ終わっている。申し訳のように突き出しが添えられているが、いくらなんでも遅すぎないか。

冷たい蕎麦を、鴨肉と葱を浮かせた暖かい出汁につけて食べる。悠庵の鴨汁と同じ趣向だ。しかし、脂ののった鴨に併せるにはもう少し出汁に強さがあってもいい気がした。食べ終わってしばらく待ったが蕎麦湯が出ない。はて、ここは初めから蕎麦湯は出なかったか?古式手打ちを名乗って蕎麦を商っているのだ。蕎麦湯くらいはあってもいいのではないか。

物足りない気分で、お茶のお代わりを頼むが、これも返事だけで出てこない。しびれを切らして店を出た。さっき返事をした店員は店の席に座って昼食中だった。寒くなったら鴨南蛮を楽しみにしていたのだが、すっかりその気をなくしてしまった。取材時はどんな対応をしているのかは知らないが近頃めずらしい客あしらいであった。経営者でも変わったのだろうか。

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