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 2008/7/28 白川郷

 東海北陸自動車道

うだるような暑さが連日続いていた。どこかに出かけたいのだが、この暑さだ。涼しいところでないと。
そんなことを考えながら朝刊を読んでいると、一面全部を使った岐阜県の広告記事が目にとまった。
東海北陸自動車道がこの7月に全面開通したのを記念して、白山スーパー林道の通行料金が割引されているという。近くに世界文化遺産の白川郷と温泉もあるそうだ。ここに決めた。

妻が支度しているうちに、近くの半セルフのスタンドにガソリンを補給しに行く。ハイオクで186円。この前読んだ本に拠れば、石油の産出量のピークはすでに過ぎているという。ガソリンの高値は、投資家の投機対象が他に移らないかぎり下がることはないだろう。こんな時期に高速道路を使った長距離ドライブというのは非常識であることは百も承知。だからといって、金儲けにしか目がなく、車で走る喜びも知らない奴らに好いようにされて家でじっとしているのも癪だ。あえて愚行に走ることにした。

そうは言っても安くできるものは安くしたい。ガソリン代もそうだが、ETCの通勤割引も使いたい。9時までにゲートインし、四日市ICで一度降りることにした。四日市東だと、100キロを少し超える計算になる。実際に走ってみてもやはりそうだった。ほとんど高速ばかりだから、焼け石に水のようなものだが、世界の常識を超える高額料金を徴収する財団に余計な金額を渡すのもこれまた癪だからだ。

伊勢高速、東名阪、名古屋高速と走って、東海北陸道に入ったあたりで、行く手に暗雲が立ちこめた。と思う間もなく真っ黒な雲から大粒の雨がフロントグラスに当たりだした。はじめは夕立かと思っていたが、なかなか降り止まない。昨日まで、上天気が続いていたのに…。日本の尾根を縦貫する東海北陸道はトンネルだらけの道路だ。トンネルを出たら雨という最悪のドライブになった。

おまけに、全線開通したのはいいが、片側一車線、対面通行というおよそ高速道路らしくない道が続く。道を造るためには、まずトンネルを掘らなければならないという条件の下では仕方がないと理解はできるが、遅い車が前に立ちはだかると、延々渋滞の列が続くことになる。これで高速料金を取るというのは如何なものか。もっとも、相手は高速料金ではなく単なる有料道路だと言い逃れるだろうが。

おかしいのは、本線の左に、追い越し車線ならぬ「ゆずりあい車線」が、ところどころに設けられていることだ。一車線では、追い越しもままならないから、追い越し車線を設けるのは理に適っている。しかし、高速道路をゆっくり走っているところから考えると、遅い車は、運転にあまり自信のないドライバーが多いのではないか。その車にわざわざ車線変更を強いるというのはどうだろう。抜きたいと思う方が、右に車線を変更し、追い越した後、左に車線変更する方が、よほど安全ではないか。

ひるがの高原PAで、途中休憩した。雨はやんだが、相変わらず日は射してこない。Tシャツに短パン、ノースリーブの二人には涼しいどころか、寒い。それでも、盛り土をした展望台からの光景はなかなかのものだった。高原のあちこちに雲が湧き、落葉松や白樺林を見え隠れさせているのを見ると、これまでに行った避暑地を思い出し、夏だなという気持ちがあらためて思い出されるのだった。

 白川郷

全部で56個あるトンネルをあと10個ほど残したところで白川郷に降りた。高速の出口から世界遺産まではほんの数分。雨が降っても観光バスのツアー客には関係ないらしく、人通りは多かった。大型駐車場は川を挟んだ反対側にあるらしく、集落には小さな有料駐車場しかなくどこも満員だった。お食事どころと看板の掛かった合掌造りの一軒に空きを見つけて車を止めた。

昼食は、蕎麦かなと考えていたので、朴葉味噌のついた「よくばり御膳」という定食にした。50円出すと、蕎麦が冷たくできるというので、妻はそれにした。午前中に降った雨のせいか、この日の白川郷は肌寒いくらいだった。ふだんならまちがいなく「ざる」なのだが、この日は「かけ」が食べたかった。好物の朴葉味噌には短冊に切った話題の飛騨牛が添えられていた。山菜入りの蕎麦に白飯、飛龍頭と香の物が着いて1380円は安いと思った。

もともと合掌造りの民家だったのだろう。黒光りした梁といい、欄間の透かし彫りといい、風格が漂っている。さすが世界遺産である。外国人の観光客も慣れない箸を使って蕎麦を啜っている。日本人ツアー客とはちがって、添乗員なしの自由行動らしかった。メニューに英語はなかったが、日本語で注文したのだろうか。勘定を払う時、近くに空いた駐車場はないかと尋ねたら、少しの間でしたら、と店の駐車場に置かせてくれた。安心して近くを散策することにした。

すぐ裏手にある和田家という家が、自宅を開放しているので、300円を払って上がらせてもらった。この地方の名家らしく、展示されている什器等、見事なものだった。二階に上がると合掌造りの様子がよく分かる。張り直したばかりか、縄の色が真新しい。蚕が桑の葉を食べていた。もう一回脱皮をすると、繭を作り始めるのだと姉さんかぶりの女性が教えてくれた。二階の窓から集落が見渡せる。雨に洗われた緑が冴え、日本の集落の原型を見る思いがした。

とはいえ、街道に面したほとんどの家が土産物屋や食べ物屋を営んでいるのは、妻籠その他の観光地と同じだ。すでに観光地として成立してしまっていたからだろうが、世界文化遺産を名乗るなら、もう少し商売気を控えめにした方がいいと思った。世界各国に文化遺産はあるけれど、所謂「遺産」と、土産物などを売る施設とははっきり分けられているところが多い。展望台から見た集落の姿からは窺い知ることのできない現実の合掌集落の姿を、外国から来た人たちはどう受けとめたことだろう。

 白山スーパー林道

集落を後に、来た道を少し戻ると看板がなければ見落としそうな、白山スーパー林道への道があった。環境破壊を懸念して、反対の声が高かった白山スーパー林道だが、実際のところ本当に作る必要があったのだろうか。料金所までの道はかなり傷んでいた。金の出所がちがうからだろう。地元民が使う道なら、こうも荒れ果ててはいないはずだ。

東海北陸自動車道全線開通記念で8月末まで片道で3150円のところが、2500円。これを安いと思うか高いと思うかである。何も霊峰白山を切り刻まなくとも、迂回すれば石川県に行けるわけで、この金額を払ってまで通行する人が多いとは思わない。この日も出会う車は少なかった。

雨は上がっていたが、下界は雲がかかっていて、視界はあまりよくなかった。九十九折りのドライブウェイは、運転するには面白かろうが、車酔いをする人には要注意だ。同じ休憩所に車を止めた車から降りた少年が、車から出るとすぐにかがんで吐いていた。あおるつもりはなかったが、ぴったりくっついていたので、いつもより飛ばしたのかもしれない。悪いことをした。

まさに雲上ドライブ。カーブのたびに、前方には空しか見えなくなる。一つまちがえると車がガードレールをこえて飛び出しそうになる。ガードレールといっても、ケーブルが三本ばかり張ってあるだけのもので、車を止められる気はしない。落ちたら谷底に真っ逆さまだ。スリル満点である。制限速度20キロというのだから、その険峻さも分かろうというもの。

峠を越えると、石川県側に出る。さっきまでの開けた光景とは異なり、こちらは、山襞に貼りつくような崖沿いの道を折れ曲がるようにして、谷底に降りていく。途中、みごとな滝があるのだが、見るものといえばそれくらいで、後はひたすら山、また山である。中腹のところに長い急な階段があり、360メートルほどで、温泉(混浴露天)と滝があると看板が出ていた。バスで来ていた山歩き姿の老人に勧められたのだが、水着がなくては、男はいいが女性には混浴は無理だ。あきらめることにした。

石川県側の料金所の手前でUターンして、白川村に戻った。往復でもすれちがった車は数えるほど。霧も出はじめた山岳ドライブは、冷気を通り越して霊気が漂うほどであった。白川村に戻った後は、車で15分ほど南に下ったところにある平瀬温泉郷を訪ねた。それについては、また別のところで紹介するとして、帰りは、また雨に見舞われた。この日は、他県では記録的な豪雨だったと帰ってから知ることになる。あの雨の中を、どの車も飛ばすこと、飛ばすこと。この日の行程約700キロメートル。9時前に出て8時前に戻ったのだから、よく走ったものだ。

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