HOME | INFO | LIBRARY | JOURNEY | NIKE | WEEKEND | UPDATE | BBS | BLOG | LINK
WEEKEND / garage 147
Home > Weekend > garage147 > 29
garage147

 2008/3/30 二時間耐久レース後編

朝の空はどんより曇っていた。今にも雨が降りそうな天気に、前回の土砂降りを思い出した。昨日の話では、雨ならノーマル車が有利だそうだが、レース結果よりも走りやすい天候の方がありがたい。前でスピンでもされたら、回避行動がとれるほどの腕ではない。走り終わるまで、うまくもってくれたらいいのだが。

高速に乗ろうとETCカードをセットしたところ、いつものグリーンのランプが点灯しない。裏返してもだめ。あきらめて一般のゲートをくぐったが、せっかくの早朝割り引きが使えない。昨日行ったばかりなのに、また修理に四日市まで行くのかとブルーになった。まったくついていない。せっかくの日に何としたこと。縁起を担ぐ方ではないが幸先がよくない。

鈴鹿に着くと今回はSパドックに車を入れた。ほとんどの車はすでに来ていて、端っこのスペースに車を停めた。チームのメンバーらしい人と挨拶するのだが、K氏をはじめ誰も正式に紹介してくれないので、車を見て判断するしかない。GTの人は前回も走っているらしい。GTAの人は初めてだそうだ。乗車順をくじ引きしたらトップになってしまった。コースが荒れてない分、走りやすいという。プレッシャーがかかるが、待つ身もまた辛い。これでよかったと思うことにした。受付でエントリーを済ませると、ゼッケンの入った封筒の中に二個のメロンパンが入っていた。

二時間耐久には一台の車に三〜四人のドライバーが乗るワンカー耐久と三〜四人が自分の車で走れるトランスポンダー・リレーがある。トランスポンダー・リレーは、トランスポンダー(計測器)をバトンのように受け継いでそれぞれの車に載せ替えることでチームのタイムを計測するリレー形式。面白いのは、前の走者が車を降りたらメロンパンを一個食べ終えるまで次走者はエンジンをスタートさせてはいけないというハンディキャップがあることだ。本田宗一郎がフランスから呼びよせたことで知られるドミニク・ドゥーセのパンだそうだが、40分走り続けた後で、水気のないメロンパンを食べるのは想像するだけで辛いものがある。

ブリーフィングの時間が来たので、二階の部屋にあがった。前にも聞いたが、今回は自分が走るので、真剣度が違う。説明はリラックスムードいっぱいで和気藹々とした雰囲気だが、ドライバーの確認で、昨日もてぎの48時間耐久を走って今着いたばかりというチームが紹介されたりすると、緊張感が高まる。本気モード全開のチームも一緒に走るのだ。コースアウトはまだしもクラッシュだけは避けたい、と思っているところへサーキットの係員が今年のクラッシュの例を話し出す。ランボルギーニとフェラーリが壊れたそうだ。顔がだんだんこわばってくるのが自分でも分かる。

ドライビング・レッスンの講師だった福山氏が今回も鈴鹿攻略法を簡単に説明してくれる。シート位置やステアリングの握り方など基礎的なことはこの前聞いたのと同じだ。あの講座以来、シートはずいぶん前にきたし、背もたれも立ち気味になっている。鈴鹿攻略法その一は「50メートルの定理」。第1コーナーやデグナー、スプーンでは50メートルの標識を通り過ぎたら、ステアリングを切りはじめるといい、というものだ。鈴鹿は平均速度がかなり速いコースで、早い目にブレーキングを終え、50メートル標識から切り始めるくらいでちょうどいいという。次にフルブレーキは鈴鹿ではまずないということ。シケインの入り口でいっぱいに踏む程度で、あとは八分目程度がいいらしい。

ブリーフィングが終わった後、第二走者のGTさんが福山氏をつかまえて、何分交代がいいか相談をしていた。福山氏は、耐久は目標を決めてそれに近づけるようチャレンジするチャンスだと話していた。それには20分交代では短すぎるとGTさんは思ったらしい。「体力が続けばね。」というのが福山氏の意見。長く走りたそうなGTさんの意向を入れ、最初は20分交代の予定だったが乗り換え時間も考慮して35分で交代することにした。それにしても、プロが体力があればというのには、驚いた。やはり耐久レースは体力勝負なのだ。

ビニールテープでライト類をテーピングし、ゼッケンを両サイドに貼り、車を24番ピットに入れた。スタートは11時50分だが、15分には、走る順に前から並んでないといけない。予選はないが車種や経験値から推定されるタイム順で遅い車から先にスターティンググリッドに誘導される。時間になると前から四番目くらいに「210番」と呼ばれた。四日市ユーザー・アルファチームの番号である。

刻々と時間が近づいてくる。前回曇りが心配されたヘルメットだが、気温が上がったせいか、大丈夫なようだ。シートを前に寄せ、背もたれをぎりぎりまで立て、がちがちに固めた。深く曲げた左膝はコンソールボックスに押しつける。シグナルがグリーンに変わり、先頭の車がスタートした。空いた分、前に詰める。もうすぐだ。

目の前のシグナルがグリーンに変わった。アクセルペダルをぐっと踏み込む。コースインは左側の白線を越えないように、第2コーナーまではコース右側を走るのが決まり。S字から徐々にスピードを上げていく。一周目は、コース状況をよく見るため、少しゆっくり走ろうと思っていたが、前を走る車に置いていかれそうになるので、あわててスロットルを開ける。ダンロップコーナーまでは、ゲームで慣れているので、やや落ち着いてラインがとれる。

問題はその後だ。デグナーを抜け、立体交差の下をくぐり、急な上り坂にかかるとそこがもうヘアピン。4速に入れていたギアを2速に下げるのに、パドルでは下がらないと聞いていた。慣れないシフトノブを操作し損ない、スピードが落ちてしまう。後ろの車が追い抜いていく。ようやく立ち直ったと思ったらスプーンだ。一つ目のコーナーを何とか抜けると、二つ目が待っている。アウト・イン・アウトと唱えながら回りきる。

カーブで落ちたスピードを取り戻そうとバックストレッチで思いっきり踏み込むと、魔の130Rが待っている。慣れた人でもスピードが出ているため、曲がりきれずにコースアウトする事の多い高速コーナーだ。無事に曲がりきったところでスローダウンして、シケインに入るのだが、案の定まちがえて二輪用のシケインを通ってしまった。冷や汗をかきながらそこを抜け、スタンド前の直線コースを走り抜ける。ピット前にクルーが集まって応援しているのがちらっと目に入る。

一周したところで、ピットから出てくる車に気が着いた。アウト寄りを走り、二周目に突入する。二周目からは各車スロットル全開で攻めてくる。次から次へと後ろに車が着く。コースのライン取りは決まっているから、どうしたって前をふさぐ格好になる。早く抜いてくれ、と思うが、速いドライバーは、前の車のラインを読んで走っている。ここで予測のとれない動きをとるとかえって危険だ。ダンロップでアウト側にふくらんだところを難なく抜いていった。

車はノーマル、腕は初心者では抜かれるのは当然だとしても、ミニにまで抜かれるとさすがにへこむ。東コースはどうにかライン取りができるのだが、そこを過ぎるともういけない。入り方がレッスン時と逆になるため、得意だったシケインがうまく走れない。ヘアピンでシフトダウンにもたつき、デグナーでコースアウト寸前までふくらんで止まったり、と散々だ。

しかし、遅いながらも一応無事に走り続けていると、それなりに余裕も出てくる。乗車時にヘルメットがスイッチにぶつかったのかルームランプが点灯しているのに気が着いた。手探りでスイッチを切る。もうどれくらい走り続けたのか、左手のグローブの上からはめた時計の針を読む。まだ20分しか走っていない。とたんに集中力が途切れた。あわてて、コースに集中する。

額から汗がにじむ。シールドを上げると少し涼しくなった。そういえば、ピットサインを出すと言っていたが、今までピットの方をしっかり確認していなかった。ホームストレッチは緩い下り坂の直線コース。スロットルを全開すると時速160キロを超える。シケインを克服すれば180は出るだろう。そんな速さでB4サイズのピットボードが確認できるだろうか。

ためしにピット側に目をやると、他のチームの大きなボードは見えたが、あとは人がごちゃごちゃ固まっているのが分かる程度。自分の時計で確認する方が確かだ。先頭がスタートしてから自分の車が出るまでの間が約二分間。予定では12時35分だから37分にはピットインしなければいけない。

ゲームの成果かS字からダンロップ・コーナーまでは、クリッピング・ポイントがつかめているため、スピードが落ちない。そのためか、腰が横にねじられるように感じる。これが噂の横Gというやつか。TIの本革シートは、普段使いには問題ないが、レースではコーナーで尻が滑り、体をサポートしきれない。何とか体を支えようと無理に力を入れるので、周回を重ねるうちに腰が痛み出した。

しかし、それをのぞいたら意外に疲れていない自分を発見した。練習不足で、遅いのは仕方がない。しかし、ブレーキングが遅れてカーブに突っこみ、車がふらふらし始めたときはスロットルを少し開けるとか、講師に教えられたことを忠実に守ってやると、車は案外思ったように走ってくれる。いつの間にか怖さより面白さを感じ始めていることに気づいた。

少しでもタイムを詰めようと、果敢にアタックをはじめた矢先だ。スプーンに向かうところで黄旗が振られているのが見えた。その向こうにグラベルに突っ込んでいる赤い147の姿。冷や水を浴びせられたような気がした。やはりレースは恐いものだ。コースを完全に理解できるまでは慎重に走ることだ。フロントグラスに雨滴がまた一つ二つと落ちてきていた。気を取り直して走り出した。

まだまだ走っていたかったが、時計を見るとそろそろ時間が来ていた。ピットサインは見えなかったが、もう一周すると35分を越えてしまう。最後のシケインを抜けたところでピットロードに入った。60キロに速度を落とし24番ピットまで進む。GTの前まで来たが誰もいない。フェンスのところからK氏があわてて走ってきた。

車を止め、エンジンを切った。ドアを開けながら眼鏡を外した。グローブの上から時計のベルトをしめているので、左の指が自由に使えない。近づいてきた妻にヘルメットを脱がせてと頼むのだが、やり方が分からないのか手を出そうとしない。仕方なく時計を外し、自分で脱いだ。「メロンパンを!」と探すのだが、近くにない。パンは最終走者のGTAさんの車に入っていた。

思った通りボソボソとして食べにくい。お茶で何とか流し込んでいる間に他のメンバーがゼッケンを外して、次の車に張り替えてくれた。最後の一かけを口いっぱいにねじ込んで指でOKサインをGTさんに出した。黒いGTが走り出した後、右ドアポケットに入れたトランスポンダーのことを思い出した。あわてて、ドアを開けるとタオルごとなくなっているのでほっとした。

濡れたシャツを着替え、すっきりしてモニタ画面を眺めた。妻に「タイムはどうだった?」と聞くと、「最速ラップが3分16秒だったかな。」とのこと。モニタには、2分台のラップタイムが並んでいる。当たり前だが、ちょっとがっかりした。雨足が強くなってきていた。モニタに白煙を吐いて止まる車が映った。オイル漏れかと騒いでいると、後続のミニがくるくるっとスピンした。どうやら無事らしい。

この日も何台もの車がコースアウトしてグラベルで立ち往生していた。がんばって2分40秒を出したGTAさんの車も、オイル漏れか煙を吐いていた。帰りは工場直行らしい。タイムはよくなかったが、無事に帰れるだけでもよかったのかもしれない。レッスンでは、走り終わったあと気分が悪くなったが、今回はメロンパンを食べた後、おにぎりを二個食べる元気があった。どうやら体力的には大丈夫なようだ。

GTさんはもう次回8月17日のアルファロメオ・チャレンジを申し込んだらしい。エントリー料金もばかにならないので、保留にしておいたが、場合によっては参戦するかもしれない。その時のためにも、もう少しコースに慣れなければいけない。本番では何ともないのに、ゲームだと肩が凝るのが困りものだが、何とかゲームでも国際レーシングコースを走れるようになりたいものだ。

ETCカードは他の人のカードを入れるとちゃんとグリーンのランプが点灯した。カードの汚れかもしれないので、表面をこすると自分のカードでも大丈夫だった。これで工場に寄らずに家に帰れる。ほっとしたら、なんだか疲れが出てきた。ジャンケン大会は欠席して帰ることにした。一緒に走った三人で記念写真を撮り、再会を期して分かれた。帰り道は土砂降りだったが走り終えた後の気分は最高だった。きっとまた来ることになるだろう。

< prev pagetop next >
Copyright©2008.Abraxas.All rights reserved.since 2000.9.10