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 2006/6/3 リモコン

話は二週間前にさかのぼる。
図書館から帰ってきて、駐車場に車をとめ、リモコン・キーでドアをロックしようとしたのだが、手応えがない。それより何より、「ロックしました。」という返事代わりのサイド・マーカーランプが点灯しない。何度試みてもウンでもなければスーでもない。全くの応答なしである。5つあるドアのうち、運転席側のドアだけには、鍵穴がついているので、一応ロックはできる。回りにひっかき傷などつけぬように慎重に鍵穴にキーを差し込みロックした。

玄関のドアを開けるなり、靴を脱ぐ間も惜しく、ディ−ラーに電話した。K氏はいなかった。営業に出ているようで、代わりに修理担当者が対応してくれた。リモコンの不具合を告げると、
「そうですか。よくあるんですよ。ショックを与えると使えるという人もいましたが、やってみました?」
「やったけどだめでした。電池切れということはないですか?」
「去年の11月でしたよね。だったら、それはないでしょう。」
一応電池交換も試してみて、結果は追って連絡すると言って電話を切った。

リチウム電池を交換して試してみたがまったく反応なし。その由連絡する。翌日、携帯電話にK氏からの着信ありと記録が残っていた。帰宅してから電話を入れると、K氏が出た。
「リモコンの件、聞きました。もう、注文しておきましたので。ええ、交換ということになります。交換には時間はかかりませんが、新しいキーがとどくのに二週間はみてほしいんです。その時、予備のキーと暗証番号を記録したカード、それに今のキーを持ってきてほしいんですよ。えっ。車?そうなんです。車もいります。」

相変わらずの調子だ。何があってもあわてず騒がず、流行り言葉を使うなら、どんなトラブルも「想定内」という態度で処理してしまう。二週間待って四日市まで取りにこいだ。片道60キロはある。しかも、たかがリモコンに二週間とは。今年は例年になくこの季節にしては雨が多い。片手で傘をさし、もう一方の手に鞄を持って鍵をあけるのは手間がかかる。もっと面倒なのは、後部ドアを開けるのに、いちいち運転席のボタンを押さなければならないことだ。前の車では、当たり前のようにしていたことだが、一度リモコンでの開閉に慣れると、とんでもないローテクに感じられるから困ったものだ。

イリイチが「貧困の現代化」と喝破した問題にまたぶつかった訳だ。職場の駐車場に車を停めるとき、人目を忍んで鍵穴にキーを差し込む。リモコンの故障を知られたくないのと、いちいち、手動でロックしているところを見られたくない気持ちがある。なんだか、恥ずかしいのだ。二週間というもの、その辛さを味わって、やっと新しいキーがとどいた。連絡をもらったのが、土曜日の朝。

休日出勤で慣れない肉体労働をやらされて、息が上がっていた。シャワーで汗を流した後、鏡を見ると顔が真っ黒に日に灼けていた。居間の椅子に腰を下ろし、電話をした。K氏はいつもの涼しい声だ。
「お休みのところ、申し訳ありません。ついさっき、キーがとどきました。ええ、日曜は工場の方が休みで、私たち営業では、ちょっとどうにもなりませんので、お急ぎでしたら、今日の方が……。」
物言いは丁寧だが、結局は、お疲れのところを四日市まで出向けといっている訳である。

盗難防止の暗証コード入りキーは、形状からして普通のキーとは異なる。細長い板状のキーの内側に迷路状の溝が切ってある。合い鍵屋で似たものを作っても反応しないというのは盗難除けには万全だろうが、今回のようにキーを交換すると、車本体も再設定が必要になる。近くに正規ディーラーがないのだから仕方がないが、わざわざ遠い街のディーラーから車を買ったつけを払わされている。

修理ピットの前に車を停め、ショールームに入った。ブレラや159がずらり並んだ店内には、発売されたばかりの1600のTIが置かれていた。シートはファブリックだが、それ以外は2000と同じ仕様である。同サイズなら、1600の方がよく走るというのが専らの評価。TIというのは、アルファロメオにとっては歴史のある名前である。クラス的には、GTに次ぐもので、147の場合もシートや足回り等、アルファGTのイメージをダブらせている。フェイスリフト後、フロントマスクは159やブレラに似通うイメージになったが、それ以前の147はGTによく似ていた。1600マニュアルなら国産車と勝負できる価格帯でアルファのスポーツ車が買える。美味しいところを狙ってくるものだ。

サーヴィスの珈琲も夏に入ってアイスになった。のどを潤しているところへ現れたK氏。キー交換は修理担当者に任せて客の相手をしようというのだろう。
「リモコン以外に調子の悪いところはありませんか?」
トラブル処理に来た客に対する態度とは思えない余裕のある態度である。
エンジンの調子がいいので、最近はよく回すようになった。そう言うと、
「そろそろ一万キロでしょ。ガンガン回してやってください。ガソリンの方もガンガン減りますけど。」
「それでも、高速と下道半々くらい走って満タン法でリッター11キロくらい行くよ。」
と言うと、軽く首をかしげ、
「トリップメーターで計ってみて下さい。そんなには行かないと思いますよ。」
と、なんだか燃費のいいのが不満そうだ。変な営業マンである。

半時間ほどで作業終了。帰りに湯の山温泉に回って帰ることにした。高速に乗せようとするナビに騙されて、クルッと一周して国道1号に乗る。しばらく走ると、ピーという警告音が鳴った。そろそろ給油しなさいというお知らせである。ハイオクは147円というのがこの日の相場。セルフのスタンドが安かったので、道の右側だったが、対向車の隙を見て右折した。

静電気を除去して、カバーを開け、給油口にキーを差し込んで開けようとするのだが、蓋はくるくると回るばかり。マニュアルと首っ引きでやっと蓋を開けたのだが、今度はガソリンが出ない。店の人を呼んで聞いてみたら、ボタンを一つ押し忘れていた。好きなオイルを選ぶというところで、ハイオクと書かれたハンドルを取ったのだが、ボタンで選択しなければいけないらしい。51リットルで満タンになった。やはり、下道ばかりだとリッター10を少し切ってしまう。今度は蓋が閉まらない。マニュアルを妻に読んでもらいながら、言われた通りにすると、カチカチという音がして、やっと閉まった。

湯の山温泉、希望荘は小高い丘の上にある。露天からは新緑の山が見え、谷から吹き上がってくる風は火照った体に心地よい。重い荷物を運んだせいか、二の腕あたりに強張った感じがある。湯の中で体をほぐしては、岩の上に座って体を冷やす、の繰り返し。町の方は相変わらず霞んでよく見えないが、今までで一番の見晴らしだ。ゆっくり浸かってから出たら、めずらしく妻が先に出て待っていた。

帰りの道は混んでいた。こんなことなら高速を使うのだったと後悔してみても後の祭り。夕飯の買い物をして家に帰ったら7時前だった。眼鏡をもつのを忘れ、ずっとサングラスで運転をしていたのだったが、日が長くなったおかげで何の問題もなかった。駐車場で車を停め、リモコンでドアをロックした。マーカーがウィンクするように瞬いた。黄昏時の弱い光の中で、オレンジ色の光がやけに眩しく見えた。

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