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 2006/5/5 峠

今年の連休ほど好い天気が続くのは何年ぶりだろうか。朝食をとる窓辺に光が差し込んでくると、心は、はや道の上に飛んでいるのであった。隣の八百屋は連休中も毎日店を開けている。客がこないうちに洗車をすまそうと、二杯目の珈琲もそこそこに、長靴とスポンジを持って外に出た。

黄砂で黄色くなったボディを洗い終わると、次は足回りに移る。前回の洗車からいくらもたっていないのに、アロイホイールにべっとりとオイル混じりの黒い汚れが付着している。ブレーキパッドに使われているゴムの質が国産車に比べて軟らかいせいで、ホイール周りの汚れは外車に共通するという。
白いパッドにすると少しは目立たなくなるらしいが、汚れのためだけに換えるのも口惜しい。

ピカピカになったところで、さてどこを走ろうか。日帰りで行けるところは行きつくした感がある。
「日本の道百選」に選ばれている暗(くらがり)峠の石畳の道も面白そうだが、車で走るのはやめた方がいいと書いてある。とにかくどこかを走ろうと、いつもの用意だけして家を出た。
度会橋にあるスタンドで給油し、そのまま川沿いの道を西の方に走り出した。

二日前に行ったばかりの紀伊長島方面に向けて走り出そうとする夫に、妻は言った。
「鯛のあぶり丼が食べられなかったのが、よっぽど口惜しいのね。」
言い訳するつもりはない。確かに口惜しいが、そのせいばかりではない。
コペンで走ったばかりの峠道を147で走ることで、走りの違いを比べてみたい気持ちがあったのだ。

260号線に続く県道は、鄙びた田園風景の中を走る。午前の光を受けた新緑が萌えるようで、持ち込んだCDのボサノバ風の軽快なリズムが爽やかさを演出する。
この前のミーティングでもらった石油会社のコマーシャルCDだが、ドライブ用にうまくアレンジされている。片手ハンドルで口笛を吹きながら走るのにぴったりという感じだ。

はじめはよかったが、すぐに詰まってしまった。前を行く車は特に急ぐ用もないのか、ゆっくり走っている。こちらも特に急ぐ用はないが、走るためにわざわざ出てきているのだ。緩いカーブや対向車が来るたびにブレーキをかけられてはたまらない。黄線が白線に変わったところで追い越した。

能見坂トンネルを抜け、260号に出ると、さすがに車の数が多い。追い越したところですぐに前がつまってしまう。仕方なく後につくのだが、のろのろ運転にいらいらがつのる。桜の季節には堪能した沿道の景色も色褪せて見える。そろそろ正午、鯛のあぶり丼を思い浮かべながら、道の駅まで来ると駐車場はおろか、道端にまで縦列で車が停まっている。

空くのを待っている車が他にもいたのだが、空いたばかりのスペースに横から入りこむタチの悪い車もいて、なかなか停められそうにない。思案に暮れていると、妻が言った。
「行きましょう。私たちにはあんな真似はできそうもないから。」
たしかに、誰も見ていない田舎道で追い越し禁止を守っているようでは、わりこみなど到底無理だ。

食べられないとなると、空腹感がいや増す。不運は続くもので、次の道の駅も車でいっぱい。結局、三つめの道の駅でやっと停められた。普通の食堂やラーメン店で食べればいいようなものだが、食べてみたいと思えるような店が道沿いにないのが42号線だ。「きのくに」という道の駅でも食べたいものがなかったので、弁当を買って外で食べた。裏を流れる川には鯉幟が川をまたいで泳いでいた。近頃は横並びが流行りらしい。

湯の口温泉はめずらしく混んでいた。バイク乗りやカヌー乗りの集団が汗を流しに来ていた。露天風呂も芋を洗うような賑わいで、新緑を愛でながらゆっくり、という気分には浸れない。そうそうに湯から出て、妻を待つ間トロッコ列車の駅まで散歩した。可愛い玩具のような木造のホームが昔の駅舎を髣髴させ、郷愁を誘う。今は工事中で8月31日まで運休中である。一度は乗ってみたいと思った。

熊野から尾鷲までは峠道が続く。登坂車線での追い越しを楽しみにしていたのだが、なんのことはない。遅い車が追い越し車線を走るので、抜くこともできない。紀伊長島に入るところで本格的な渋滞につかまってしまった。42号線で帰るのをやめ、往復とも260号をとった。錦で前の車をかわすと、あとは錦峠にできたばかりの道を思う存分走ることができた。

ナビが42号線に戻るように案内をはじめたのは、そのすぐあとだった。初めての道なので興味をそそられてナビの誘いに乗ったのがまちがいだった。なるほど柏野で42号に合流したが、目の前を紀伊長島で分かれたとき前を走っていたルンバが走って行くではないか。あれだけ気持ちよく走っていながら何ほども稼いでいない。おまけに、延々と続く渋滞の列。今来たばかりの道を引っ返した。

今度は前を行くスカイラインGTが小気味よく走ってくれるので追走して楽しく走れた。道方というところで、ナビが左折というので、首を傾げながら入りこんだのは、名にし負う旧能見坂。今では別ルートができて誰も通らないこんな道を案内するとは、いつ作ったナビなのか。しかし、誰も通らないのは考えようによっては自分だけの道ということだ。腕を交差させながら思う存分急カーブの続く峠道のドライブを楽しんだ。

今回走って感じたのは、運転技術の未熟さだ。今までは、普通に走っていたので特に感じなかったのだが、カーブを攻めきれない。カーブの手前で減速する習慣がついているので、速度を落とさず曲がりきる技術がない。テールが滑り出す感触がすると、つい減速してしまう。歳を考えると、今さらという気もするが、一度、本格的に習う方がいいのかもしれない。

コペンとの比較だが、147はシート高が思ったより高いので、目線の低いコペンの方がスポーティーな走りを実感できる。スポーツ・サスを謳う147TIだが、連続するカーブにはもっと硬めでもいい。国境を越え、どこまでも続くワインディングロードを走っていくというイメージなのだろう。激しい走りというより、余裕を感じさせる仕上がりになっている気がする。

日の落ちた県道を走っていると、窓も閉まっているのに、蛙の鳴き声が聞こえてきた。
ナビの画面には星座が浮かび上がる。ご丁寧に、ちゃんと名前入りだ。
空よりも、道案内の方をもっとしっかりやってほしいものだ、と思ったのだった。

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