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garage147

 試乗

さすがに正規ディーラー。敷地内のあちこちにアルファロメオが止まっている。
駐車場の隅っこにフェイスリフト前の赤い147がとまっていた。マイナーチェンジ後の147と大きくちがうのは丸みを帯びたヘッドライト周りのデザインだ。好んでアルファロメオに乗る人のことをアルフィスタと呼ぶそうだが、コアなアルフィスタには先代の方が評判がいい。147のデザイン上のキーコンセプトは1947年にヴィラ・デステで開催されたコンクール・デレガンスで優勝し世界一優美な車として賞賛された6C2500 (通称ヴィラ・デステ)。たしかにこっちの方が往年の名車ヴィラ・デステの面影に通うものがある。エレガントさではこちらの方が一枚上だ。

147のデザインを担当したのは当時デザイン部長だったワルター・デ・シルヴァ。現在はスペインのセアトというメーカーに移籍している。そのこともデザイン変更に関係しているにちがいない。残された社内デザインチームは、ジウジアーロが担当した上級車種の156のデザインを生かしながらブランドイメージの統一感をねらったのだろう。オリジナルデザインの持つ穏やかなイメージを残しつつも、より精悍なマスクを生み出すことに成功している。ヴィラ・デステ由来のデザインということを知らなければフェイスリフト後の方が万人受けするデザインと言えるだろう。

個人的な考えを言わせてもらうなら、デザインという点ではオリジナルに軍配を上げる。世界一優美な車という称号を持つヴィラ・デステのイメージを現代に甦らせるのは並大抵なことではない。特に伝統の楯型グリルをヴィンテージカー特有のボンネット形状の中に嵌め込み、ヘッドライトからフェンダーにつながる曲面との差異化を図ることでレトロ感を引き立たせる手並みは鮮やかの一語につきる。丸目のヘッドライト形状とシンクロさせた三次元的な曲面処理はフェイスリフト後のそれと比べれば一目瞭然。シャープさよりクラシカルエレガンスを追った結果があのデザインなのだ。

とはいえ、2001年にカーオブザイヤーを受賞したオリジナル147は、日本でも売れたはずだが、残念なことにあまり目にする機会がなかった。こちらに車を買おうという気がなかったから見ていても目にとまらなかったのかも知れない。本格的に車を探し始めたときに目の前にあったのはフェイスリフト後の147だった。精悍さを増したシャープなフロントマスクは、一目でこちらの魂を射抜いてしまったのだ。後知恵ではなんとでも言えるが、この車にしようと思わせてくれたのは新しい147の方である。迷わず新しい147を買うことに決めた。

ショールームの中に入り、応対に出てきてくれた係の人に、おずおずと切りだした。
「147の試乗って、できますか?」すると、
「できますが、今ひとり乗って出られてるんで、その後なら。」
と、長身の担当者は、あっさりとOKを出した。なんだ、試乗できるんじゃないか。拍子抜けしてしまった。こんなことなら、もっと早く来ればよかった。

購入を考えているのは出たばかりのTIというモデルである。専用のスポーツレザーシートに加え、キセノンヘッドライト、17インチアロイホイール、スポーツサスを装備している。そのためノーマル車より15ミリ車高が低い。ヨーロッパでの試乗記では段差でノーズを擦ったとか擦らないとか。そんなネットで仕入れた気になることを根ほ り葉ほり質問するのだが、慣れているのか、嫌な顔一つもしないでてきぱきと答えてくれる。

この前の店でほとんど気持ちを固めながら、今ひとつ乗り気になれなかったのは、営業マンの態度だった。人の好さそうな初老の紳士だったが、如何せん車の知識が貧弱だった。こちらの質問に満足に応えられないでは安心して車を買うことはできない。ジャガーが専門の店だったから、アルファのハッチバックを買いに来る客とは客層がちがうのかもしれない。旦那車を売るための客をいい気持ちにさせるノウハウは持っているようだった。しかし、それだけではこれから先を託すわけにはいかない。トラブルが多いことで知られているイタリア車である。打てば響く、という反応がほしいのだ。

試乗車が戻ってくるまで、相手してくれたのはKさん。営業課長という肩書きを持っている。40歳代のはじめだろうか、落ち着いた話し方に好感が持てる。車も好きそうで、どんな話題でも会話に窮するところがない。すっかり気に入ってしまった。そうこうしているうちに車が戻った。黒の147、2000CC。ミッションはアルファ独特のセレスピードというATモード付き5速。

実は、このセレスピードがいちばん確かめたかった。クラッチのないところはオートマチックと同じだが、トルクコンバーターとは基本的なシステムがちがう。ステアリングについているパドルを操作することでATモードが解除され、手動でシフトダウン、シフトアップができるというF1並みのミッションなのだ。

ただ、ATモードでは1速から2速、2速から3速に入るところでラグが生じ、体が前につんのめるような感じがあるというのが、初代147の印象だった。マイナーチェンジでその辺がどれだけ改良されたか、これだけは自分で乗ってみないと分からない。それと小回りがあまり効かないというステアリング、ブレーキの踏みしろなど、確かめてみたいことを頭に入れながら、ドライバーズシートをセッティングした。妻を助手席に、Kさんを後部座席に乗せていざ出発。

試乗コースは、営業所を出てすぐの幹線道路を走り、丘陵にある東芝工場の広い敷地の中を一周して帰るというもの。直線コースとカーブ、アップダウンを堪能できるよく考えられたコースだった。まず、バックで車を出した。ハンドルの切れは思ったより悪くない。シフトレバーの下にあるボタンを押しCITYモードで走ってみた。なるほど、1速、2速からシフトアップしていくとき、微かにラグがあるが、気になるほどではない。あっという間に3速まで上がり、そこから先は知らない間に4速に入っていた。

アルファといえば、そのエンジン音で有名だが、自動変速では静かなものだ。いよいよパドルを操作してみる。なるほど、シフトダウンするとき一回空ぶかしの音が入るのがよく分かる。6000まで回転数を上げるとさすがにエンジン音が聞こえるが、期待していたほどではない。外ではどう聞こえているのだろうか。丘陵地帯に入ってステアリングを何度か切るが、わりとクイックな切れ味で悪くない。ブレーキはしっかり踏まないときかない感じはたしかにあるが、慣れれば問題はない。

「このあたりで奥さんも運転してみませんか。」とKさん。なるほど、と思い、工場の周辺道路で車を止めた。実は、自分だけならマニュアルでも構わないのだが、この頃運転を交代してもらう気楽さに気づいた。セレスピードなら、ATに慣れた妻でも大丈夫。3ナンバーだが、ハッチバックの147は車長も短くて取り回しが楽だ。長距離ドライブで、ちょっと運転を代わってもらえるとこんな楽なことはない。

コペンに乗り出してから、妻の運転技術はかなり進歩した。この頃は安心して助手席で居眠りをしている。運転席のシート高を上げるのは、座席の脇に着いたレバーを上げ下げするだけだ。かなりシートを前に出してから動き出した。後部座席は少しタイトだが、前席はゆったりしたものだ。ドアの内側を刳った肘掛けも付いていて肱が収まるのはうれしい。コペンではそこが少し不満であった。

妻の運転で工場の敷地内をもう一周した。シフトの違和感もなく、ハンドル操作、ブレーキングも問題なし。これなら安心して乗っていられる。幹線道路に戻る前にもう一度運転を交代して営業所に帰った。途中かなり段差のきつい部分がある。スピードを上げて通ってみたが、心配していたノーズを擦ることもなく無事通過。足回りは想像以上にソフトである。コンフォートサスの影響かもしれない。自分としては、もう少し硬めの方が疲れない。TIのスポーツサスに期待したいところだ、と、もうすっかりその気になっていた。

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