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garage147

 147との出会い

どちらかと言えば、妻の方が焦っていた。
コペンを買いに行ったとき、営業マンが亭主の古いレガシィを見る目が気になったらしい。
「あなたの方が先に換えたら?」と、言われても、特にほしい車がないのだから仕方がない。
それでも、以前よりは真剣に車探しをしはじめた。出たばかりのRX-8にも試乗した。
乗り心地は気に入ったのだが、今ひとつ決め手に欠ける。これだ、という気になれないのだ。

そのまましばらく放っておくと、いつの間にか新車の話をしなくなった亭主に業を煮やして妻が言った。
「アルファロメオは、どう?私は好きだけど。」
嫌いではない。正直言って、昔からデザインではイタリア車がいちばん好きだった。
子どもの頃、「レーシングカー」というゲームが流行ったことがある。今のゲームとはちがう。スロットルを握り、実際に24分の1スケールのモデルカーを走らせるやつだ。

友だちとベニヤ板を工作してレースコースを自作した。走るには走ったが、電気を拾う部分がすぐに傷んでしまうのが難点だった。親に無理を言って、その頃誰も持っていなかった既製品のコースを買ってもらった。その時走らせたのが赤いアルファロメオだった。重心の低いロータス30が人気で、ブリティッシュレーシンググリーンがどこでもはばをきかせていた頃、真っ赤なアルファはよく目立った。

しかし、外車といっても、町でよく見かけるのはドイツ車か、でなければミニくらい。いくらイタリア車が好きだと言っても、それは純然たるデザイン論である。買うとなれば値段のことも考えなければならない。アルファロメオなんて、自分の乗る車とは思っていなかった。

「見るだけでもいいから、とにかく、見に行ってみよう」
と妻に誘われて、美術館への行き帰り、いつも前を通っているその店を訪れた。
もともとは、ジャガーの正規ディ−ラーだが、近頃はアルファロメオにも力を入れてきているらしい。
ショールームの奧の方に赤と黒のアルファロメオが三台置かれていた。

一目見るなり気に入ってしまった。
赤い十字のミラノ市章とヴィスコンティ家の人を呑み込むドラゴンの紋章を組み合わせたエンブレム。
名車の誉れ高いヴィラ・デステを髣髴させる伝統の楯型のラジエターグリル。彫刻的なフォルム。
どれもそれまで見てきた車とは似ても似つかなかった。クロームメッキのグリルが象徴するレトロな雰囲気とモダーンなボディデザインが見事に融け合っている。それが、他の車にない独特の匂いを感じさせるのだ。
内装は豪華というのではないが、革巻きステアリング、本革シートと、スポーツマインドに溢れている。

シートに座ったり、エンジンをのぞいたりしていると、来たときは買う気などなかったのに、乗ってもいいかなという気になってくるから不思議だ。国産車と比べれば高めだが買えない値段ではない。国産車の場合、基本になる価格設定は低いのだが、アルミホイールその他の装備がオプション扱いになっていて、あれもこれもと欲張ると、最終的にはけっこうな価格になってしまう。その点、外国車ははっきりしている。これくらいはほしいだろうという装備ははじめからついてくることが多い。その分どうしても価格は高くなる。

そうは言っても、安い買い物ではない。同じ価格帯で比べるなら、走行性能や品質保証という点では国産車の方が圧倒的に有利である。後は価値観の問題だ。絵を買うのとはちがう。美しいから、気に入ったからというだけで選べるものではない。本当にこの車に乗る覚悟はあるのか。
心の中に葛藤が生じているのが分かった。

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