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 2004/7/26 積乱雲

積雲の縁がそこだけ白く輝いて、薄雲の向こうにかくれた太陽の在りかを教えている。その前を双発のヘリが、黒いシルエットになって通り過ぎてゆく。バタバタというプロペラの回転音の合間を縫うようにプールではしゃぐ子どもたちの声が、きれぎれに聞こえてくる。とりあえず、ひとまずは平和な夏の光景というべきなのだろう。

常任理事国になるためには、九条が邪魔だというアメリカのずいぶん勝手な物言いが聞こえてきたり、武器の輸出を解禁せよという財界の意見が出たりと、平和な空を飛ぶヘリを見てもそれとは裏腹の世相を感じずにはいられない。

雨らしい雨も降らずに梅雨が明けたと思ったら、東北、北陸地方に集中豪雨だ。後から言うのなら誰でも言えると言われそうだが、この災害は予測していた。雨が異様に少ない年は、決まってどこかに集中して降ることが多い。年間雨量というのは、だいたい決まっている。自然というのはどこかで収支決算を合わせるものだ。

自然災害なら仕方がないというのか、災害の起きた原因についての究明がなされないな、と思っていたら、やっと出た。思っていた通り、自治体の対応に問題があったことが指摘されている。足羽川の決壊した堤防とそれ以外の場所では1メートルも高さがちがっていた。また、壊れた鉄橋の橋脚が川の流れを堰き止める働きもしており、住民は土嚢を積むなどして警戒していたが、役所からは誰も来ていなかったという。

地図で見ると、決壊した場所で、川は大きく湾曲しており、その下流には鉄橋が平行して架かっている。降り続く雨を山の土壌が吸収できなくなったが最後、濁流は凄い勢いで川を下ることは予想がつく。危険箇所だという指摘は前からされていたという。なぜ、事前に適切な措置がとれなかったのか。

かつては、災害があると自衛隊の働きが新聞やテレビで繰り返し報道されたものだ。自衛隊に対する国民のアレルギーを緩和するために、災害救助に汗を流す自衛隊員の姿を報道する必要があったのだろうか。海外派兵も認められるようになった今となっては、自衛隊は本来の軍務が主な活動であり、災害救助活動については、さほどアピールする必要がないという判断なのか、あまりテレビでも見かけなくなった。それとも、出動していないのだろうか。

その代わり、というのも変だが、阪神淡路大震災以来、ボランティア活動に励む人々の姿がよく報道されるようになった。何でも、お上が頼りという体質と比べれば、市民が自主的に災害救助活動に励む姿は頼もしい気がするのもたしかである。すぐに助けの手がさしのべられるのは、被害にあった人々にとっても心強かろう。

気が滅入ることの多い世の中だが、何もしてくれない政府や地方自治体に頼るのでなく、市民が自主的に動くフットワークの軽さというのは、どうやら本物になってきている。口だけでなく、手も金も出そうという人が多いのも結構なことだ。

しかし、考えてしまうのである。健康で安全な生活を送るというのは、憲法で保証されている基本的人権の柱である。それさえ満足に保証してもらえないのに、やれ、痛みに耐えろだの、権利ばかり主張して義務を忘れているだの、簡単に言ってもらいたくない。ましてや改憲などと。

これからいよいよ本格的な台風の季節を迎える。地震については何かと話題にされているようだが、すっかり放置されて荒れ放題になった日本の山は、果たして予想を超えた雨に耐えることができるのだろうか。鳴り物入りで建設されたダムは、水害の被害を食い止めるだけの力をまだ留めているのだろうか。水を治めることこそ政治の基本だったはず。今日も空には入道雲が湧いている。その同じ空の下で雨雲を心配して見つめる人たちに是非こたえてやってもらいたいものだ。


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