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 2004/5/19 華氏911

マイケル・ムーア氏監督の新作『華氏911』が、ブッシュ米大統領批判を理由に、配給元のディズニー社から配給を断られ、アメリカでの上映が危ぶまれている。『華氏911』とは、いうまでもなくレイ・ブラッドベリの『華氏451度』を下敷きに9.11以来のアメリカを描いた映画である。『華氏451度』とは、紙が自然発火し、燃え出す温度だそうで、極度の管理下に置かれた未来社会で、小説や物語は禁書扱いを受け、焚書される。民衆は、それに対抗し一人が一作品を丸ごと暗唱するという抵抗を試みるというSF小説で、映画化もされている。

9.11以来、アメリカはヒステリックなまでに愛国精神を高揚し、批判を受け付けない。さすがにイラク戦争における相継ぐ失策で、世論も変化してきてはいるが、自国の置かれている状況を冷静に客観視できるところまでは落ち着いていないようだ。そうしたアメリカの現状をブラッドベリの旧作を持ち出してからかうところなど、いかにも『ボウリング・フォー・コロンバイン』の監督らしい過激さで、やるもんだなあと感心していたら、ここにきて上に書いたような状況に陥っている。

もともと、ウォルト・ディズニーという人が、マッカーシズム旋風吹き荒れる時代に非米調査委員会寄りの姿勢を打ち出した人である。とはいえ、本人はすでに故人となっている。企業的体質と考えたいところだが、この作品、メル・ギブソンプロデュースで制作が決まっていたのを、ホワイト・ハウスが、「こういう作品に関わると二度とホワイトハウスに招待されることはないでしょう」と、圧力をかけたことも聞こえてきている。ことは一企業の体質に関わる問題ではないのである。

対岸の火事とばかり、高みの見物を決め込んでいるときではない。さきほど、ネット配信のニュースを読んだら、小泉訪朝団から某テレビ局が閉め出されたという記事が配信されていた。極秘と思われる政府筋の情報が漏れたことに業を煮やしての処置らしいが、何度でもいうが、マスコミは、手に入れた情報を公にするのが務めである。聞かれて都合の悪い情報は漏らさぬように努めるのが、関係者の仕事。そこをまちがわれては困るのだ。

自分に都合の悪い情報を発表する者に対して、権力を行使して圧力をかけることに、こうまで無批判になられると、あきれかえって開いた口が閉じられなくなる。それとも、そうまでしないと権力を維持できないところまで追いつめられているということだろうか。どうも、そうは思えない。ブッシュ氏も小泉氏も、親子二代、あるいは三代続く政治家一族の末裔である。叩き上げと比べれば、苦労が足らぬところがある。足元に火がつくと舞い上がってしまい冷静でいられなくなるところはよく似ている。こういう人を頭にいただかなくてはならない国民というのも辛いものだ。両国共にもっとディグニティを感じさせる政治家が出てきて欲しいものである。


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