■ 空想と現実の夜明け 3 ■



 うみのイルカという中忍に引き合わされたのは昨日の夜だった。
人の良さそうな黒い瞳、きっちりと結わえた黒髪。少しだけ情けなさそうな、不安そうな顔をしている。
どこにでもいそうな、お人好しの中忍。しかし、彼は全身でカカシを拒絶していた。
(・・・・・なんで?)
別に受け入れて欲しい訳じゃない。勝手な思いこみから、差し伸べられる手なんて最初から取る気はない。 自分に必要な人間は自分で選ぶ。・・・必要だ、なんて思ったこともないが。
 しかし、この中忍から受ける印象は妙にちぐはぐでカカシの興味を誘った。
(俺が他人に興味を持つなんて、四代目以来かな、もしかして?)
「いいよ、こいつで。俺の世話係でショ?こいつにするよ」
するっと言葉が出た。振り返った黒い瞳に浮かぶ驚愕と戸惑いに、カカシは大いに溜飲を下げたのだった。

 簡単な作りの小屋に残された二人は話も早々に休むことにした。
ぎくしゃくしながら話をする必要も感じなかったし、何と言っても昼間のチャクラの使いすぎでかなりの疲労を感じていた。
ほんの僅かな邂逅だったが、中忍の人となりを知るのはそれで充分だった。
(なーんか遠慮があるよね、あのひと。遠慮ってゆーか、出来るなら俺を避けたいってオーラバリバリ)
(でも、こっそり気配だけでこっちを窺ってたりするし。気付かれてないと思ってるとこが間抜けだけど。上忍をなめてんのかね)
(他人の顔色を窺うタイプには見えないけどね・・・・。これもつまり『前の俺』って奴のせいか?)
横になりながら明日ちょっと問いつめてみようか、と思った。



 カカシは朝に弱い。
それはもちろん忍であるから、気配には敏感だ。しかし、朝だとそれが殺気を帯びてでもいない限り、起きて対処しようとはしない。
その朝もイルカが起き出す気配を感じつつも、重い瞼を開けることなく寝穢く過ごした。それでも十時を過ぎる頃には、 ごそごそと布団から這い出す気にはなった。
イルカはというと、朝のうちに腹をくくったらしく、昨夜よりさっぱりした顔をしている。
遅めの朝食を作るべく忙しく立ち回るイルカを、なんとはなしに見つめているとイルカから声が掛かった。
「カカシ先生、好き嫌いはありますか?」
あ、嫌だな、と思う。
「それ、やめない?」
「・・・・・・・は?何です、カカシ先生」
「だから、それ。その先生ってやつ」
それは自分を呼ぶための呼び方じゃない。
今の自分は、この中忍の知る『前の俺』じゃないって事を、きっちりと教えておく必要がある。その為に多少不愉快な思いをするだろうが、 仕方ないだろう。
「だってもくそもないでしょ。俺は上忍だけど、下忍担当になんかなってない。26の俺なんか知るもんか。俺は俺だよ。この俺が現実だ」
鈍い中忍もさすがにはっとしたようだ。
「カカシって呼んでよ」
少なくとも中忍が上忍を呼び捨てにはしてなかっただろう。『前』には絶対呼ばなかった呼び方がいい。出来るなら。
さんざん逡巡した挙げ句、この中忍が選んだのは「カカシさん」という呼び方だった。
なーんか面白いね、この中忍。結局それで妥協する事にした。この人の声で「カカシさん」と呼ばれるのはなんかいいと思ったのだ。
「前の俺ってアンタになんかしたの?」
ガシャン!!
「あ。ねえ、割れちゃったよ、イルカせんせ」
「な・・・な、ん・・・」
うわ。やだよこの人。バレてないと思ってんの?あー、顔真っ赤だし。
でも、こういうストレートな表情はいいな、と思う。本来この人は、こういう人なんだろう。
もちろん、それだけじゃないのも分かっている。その瞳の奥に必死で隠してる、臆病な自分の姿を暴いてやったらこの人は どんな顔をするんだろうか。ボロボロにした後で、優しく手を差し伸べてやったら・・・。それとも、そこまでは甘くないかな。
 ほの暗い感情が心を覆い始めたが、当の中忍は暴かれた自分の姿をあっさりと受け入れて、一瞬の落ち込みの後呆れるほどの 早さで立ち直った。
ただの鈍感なのか、それとも大物なのか・・・。
『前の俺』がこの人を嫌ってたっていうなら、俺はこの人を受け入れよう。それは、もしかしたら自分の知らない自分に対する 抵抗かもしれないが、今の自分にはこの中忍は、手探り状態の暗闇に入り込んだ一筋の光に思えた。

「俺はアンタの事、きらいじゃな〜いよ」




 午後からはイルカは木の葉を中心とした、近隣諸国の現状を説明してくれた。
数年前に遡って、どことどこの国が友好関係を築き、どこが戦争に突入し、どのように地図が塗り替わっていったか。どこで、 どのような人物が台頭しどのような事を行ったか。
新しい隠れ里や、時の流れに埋もれていった里や、あみ出された新たな術など。
木の葉における人事異動や、請け負った依頼の数々。
そういった事を、少しずつ分かり易くイルカはカカシに教えていった。
 カカシののみ込みは驚くほど良く、僅かな時間でそのほとんどを己の知識としていった。
そうすると午後からも時間に余裕が出来、カカシとイルカは勉強の他にもいろんな話をしたり森の散策をしたりして充実した日を 過ごしていった。


 最近自分はよく笑うようになったと思う。今までは「笑う」ことなんかほとんどなかった。自分と同じ年頃の子供達が楽しそうに 笑うのを見て、不思議に思っていたものだった。
そして、そんな自分を見る四代目の寂しそうな顔の理由も、わかっていなかった。
そいうえば、俺が上忍になるのをずっと反対してたのも四代目だったっけ・・・。なんとなくだが、今はその理由も分かる気がした。
この中忍と生活するようになって、自分は変わったと思う。それがよい変化なのかどうかはともかく。
 「カカシさんっ!起きてください!!」
いつまで寝ているつもりですかっ、という罵声と共に布団が矧がされた。
「ん〜・・・。いいじゃない・・・だってすることないし〜・・・。もっと寝かせてよ・・・」
任務の連続で規則正しい生活なんて縁がなかったから、寝られるときに寝ておくというのがカカシの信条だった。最もそれは、 朝に弱いカカシのただの言い訳にすぎなかったが。
「ここに来てから寝てばっかりでしょうっ。それに任務の時にそうなら、ここにいる間くらいきちっとした正しい生活を送るべきです!」
・・・・・・・・・・・きちっとした正しい生活って、ナニ?
本気で言ってるんだろうなあ、この人は・・・。
自分の生活に口を出されるなんて、死ぬほど嫌いなのになんで俺はこの中忍の言うことを聞いてるのかね?
渋々と起き出したカカシは、自分の不可解な行動に頭を悩ましつつイルカの顔色を窺うのだった。
その様子を見て中忍は破顔する。
「茄子のみそ汁・・・」
「はい?」
「言うこと聞いて起きたんだから、朝ご飯には茄子のみそ汁つけて」
まるで子供みたいだ。この人の前ではわがままな子供・・・。
「はい、ちゃんと用意してます。カカシさんは本当に茄子のみそ汁がお好きなんですね」
「・・・・昔、作ってくれたんだ・・・」
「カカシさん?」
「四代目が・・・」
「カカシさん・・・・・」
あれで結構不器用で、料理なんて多分したことなかっただろう。
四代目が作ってくれたそれは、しょっぱくてちっとも美味しくなんかなかったけど。
あれは、俺が中忍になってしばらくしてからのこと。四代目はいつだって、俺のことを気遣ってくれてた。
「いつかお前に必要なものをくれる人が、きっと現れるから」と、それが口癖だった。
 中忍のちょっとごつごつした手が、ゆっくり俺の頭を抱え込んで引き寄せるように抱きしめた。もしかして慰めようとしてるのかな。 いつもなら、さっさとはねのける手を、自分は心地良いと思ってしまった。
四代目・・・。あなたが言ってたのはこの人のことだったのかな。





 「ねえ、イルカせんせ。あのさ、お弁当作ってくんない?」
いきなりカカシがそんな事を言いだしたのは、二人の生活が始まって丁度一週間がたった頃だった。
「は?お弁当、ですか?」
「そう。俺ね、すごくいい場所見つけたんだ、森の奥だけど。それで一緒に行こうと思って。イルカせんせと」
「へえ、それでお弁当ですか」
なるほど、とイルカは納得した。なんだかんだ言ってもカカシもやはり子供だな、と。
「だって、そういうの好きでショ、イルカせんせ。イルカせんせが喜びそうだなーって思ってさ、探してたんだよそういう場所」
ニヤリと意地の悪そうな顔を中忍に向ける。イルカの考えてる事なんて、大体わかるから。どうせ、やっぱり子供なんだなあとか、 そんな風に思ってるんだろう。
「〜〜〜っ!そりゃ、好きですけどねっ!」
どうやら機嫌を損ねたらしい。まあ、そのつもりで言ったんだけどね。
「いいじゃん。そういうのイルカせんせらしいし」
自分の言葉ひとつで、いろんな顔を見せてくれるのが嬉しいなんて。ちょっと自分でも可笑しいなあって思うけど。
「俺が一緒に行きた〜いんだよ」
そう言って子供らしくにっこり笑ってやる。この中忍にはこれが、効く。ものすごく効く。それはこの一週間で確認済みだ。 使える手は何でも使うのも上忍だ。



 昼前に二人は、イルカの手作りのお弁当を持って森の奥に出掛けた。ほとんど獣道と言うべき道なき道を歩いていく。 イルカもこっちまで、足を伸ばした事はないらしい。
ちょっと行くたびに足を止めて、珍しい薬草を見つけてはそれを採取していく。
「へえ、こんなところに!あ、こっちにも!これは結構貴重な薬草なんですよ!」
そんな事がだんだん多くなるにつれて、自分の機嫌が悪くなっていくのがカカシにはわかった。
あんまり認めたくはなかったが。
 30分ほど歩いて、見晴らしのよい場所に出た。
低木に咲き誇る一面の白い花に、イルカの目は釘付けになった。
「・・・・す、ごい・・・」
「綺麗でショ。なんか、まるで雪みたいで」
「本当に、綺麗です。まるで夢みたいだ・・・」
しばらくの間、イルカは身動きすらしなかった。
「・・・んせ、イルカせんせ」
「え!?」
「もういいでショ。景色も花も逃げてかないよ。それよりお昼食べようよ」
「あ、そうですね・・・。すみません、用意しますね」
「もう少し向こうに行くと、湧き水もあります」
得意そうに言うとイルカはくすり、と笑った。
イルカはその場所が気に入ったらしく、また来ようという言葉に嬉しそうに頷いた。 実際には、その後二人でそこに行くことは二度となかったのだが。
 自分とこうして過ごす一方で、イルカが里に通って、自分に掛けられた術の解呪方法を探しているのは知っていた。 それが里の総意だというのも。
里が必要としているのは、今の自分ではないことも。
では一体今の自分は何なのだろう?何のためにこうして存在しているのか。
解呪方法がわかれば、消えてなくなる存在なのに。
 こんな考え方を自分がするというのも、ある意味驚きだった。 他人の思惑を気にしたことなどなかったから。
イルカのせいだろうか?
このお人好しの中忍と、離れたくないと、いつの間にか思っている。
(だって、俺にはこの人が必要だから・・・!)

 「カカシさん。俺今日はちょっと里の方に行って来ます。ちゃんと留守番していて下さいね」
そう声を掛けてイルカは出掛けていった。
留守番なんて必要ないでショ。誰がこんなとこに来るっていうんだ。
要するにそれは、出歩くなという意味なのだ。
つまんなーい。
ここに来て以来、里のことは一切聞かされていない。イルカも気を遣って何も話さないし、自分もわざわざ聞こうとは思わなかった。
だから返って気になる時もある。
カカシは立ち上がると、音もなく姿を消した。里へ。とりあえず、行かなくては。
 小屋を後にして里に向かうイルカの足取りは重かった。
何度も文献を調べに行ったが、その行為がどんどん辛くなる。今のカカシに心を傾ければ傾けるだけ。
それでもイルカはやるしかなかった。このまま本来のカカシの人生を、奪われたままにしておくのも嫌だった。 ナルトやサスケ、サクラ達のこともある。いきなり担当上忍をなくした子供達が不憫だった。

 そうして曖昧な心を抱えたまま、イルカは禁呪の研究書を見つけたのだった。




 「血継限界だってのか?あの術が・・・っ!そんな話は聞いたことがねえぞ」
アスマが慌てた様子で食ってかかるのを、イルカは呆然と見ていた。もしあれが血継限界だったら、どうなるんだろう?
「慌てるなっての、髭。そんな話は俺も聞いたことないよ。この冥魂香に必要な血がね、血継限界を宿す一族のものだって言うんだよ」
 そもそも冥魂の術を編み出したのは、すでに滅んだ隠れ里の長だった。小さな隠れ里だった。 近隣の大国にある里の力に圧倒され続けたその里は、なんとか生き残りをかけて新たな術を編み出したのだ。 けれど、その術を発動させるための血を繋ぐ事が出来なかった。
やがて里は滅び、術は歴史に埋もれていくだけの存在になった。
「じゃあ、あいつの掛かったのは何だってんだ?あいつは紛れもなく時間を奪われてんだろうが」
「どこかに正当な血継限界を受け継ぐ人物がいたか、でなかったら出来合の似非禁呪だな」
・・・出来合の似非禁呪とは、ひどい言い様である。
「その場合は、ほっといたっていずれ元に戻る。効き目がどのくらいかは、わからないけどね」
そりゃあ、そうだろう。今までそんな術にお目に掛かったことがないのだから、効き目がどのくらいのものなのかも不明で当たり前だった。 1ヶ月程度の物なら、騒ぎ立てる必要もないがそれが1年2年も効果があるとしたら、問題ではある。
だが、本物なら効き目は永遠なわけだ。
「つまり、カカシに術を掛けおった敵を探すことが、先決だということか」
火影の言葉にカグラが頷く。
「・・・暗部を出すかの・・・」
「どちらかというと情報部の分野でしょう」
「わかった」
火影の意を受けて、イビキは音もなく部屋を出ていった。
「さて。奴らがその敵を見つけてきたら・・・どうする?やっぱり自分で片をつけるかい、カカシ?」
その、あまりにものほほんとした声に一瞬反応が遅れた。
「!」
「・・・っカカシさんっ?」
「おめえ・・・っ」
「ばれちゃった?上手く気配を隠したつもりだったんだけどなあ」
最近になって良く見るカカシの笑顔だった。
「へえ、笑えるようになったんだね」
「・・・うるさいよ、カグラ」
カグラはやれやれという顔で、軽く頭を振ってカカシを促した。
「カカシさん、どうして・・・」
「だって、退屈だったんだもん」
「退屈って・・・っ」
「とにかくさ。俺、自分で行くから。その俺の敵って奴、見つけたら俺に教えて」
イルカの不満を聞き流しながら、カカシはカグラに向かってそう告げた。
「了解」
「おい、カグラ・・・」
「いいから、お前は黙ってな、髭」
火影からは制止の言葉はなかった。それが、火影の承認を意味していた。
「んじゃ、帰りましょ。イルカせんせ」
「え、でも・・・」
「かまわん、イルカ。もう帰ってよいぞ」
いろいろと聞きたいこともあったが、素直にカカシと共に帰ることにした。
 横を通り過ぎる際に、カグラがカカシに見つけたのかな、と囁いた。何のことかイルカには分からなかったが、 カカシが睨む相手は妙に嬉しそうだった。


 情報部は、暗部と共に木の葉の里が誇るエリート集団の一つである。実戦を主とした暗部とは違い、 情報収集やそれらに伴う戦略の組み立てや解析などを主にする頭脳集団である。 とは言え、もちろん忍としても一流であることが必要とされる部署だ。カグラはここの出身だった。

 程なくカカシは、ここからもたらされる情報に従い、敵を見つけるだろう。
その後カカシがどうするのか、イルカには想像がつかなかった。

 「情報部は優秀だからね、多分すぐ敵は見つかるよ」
小屋に戻ってすぐに、カカシは口を開いた。それはイルカにも分かっていた。
「カカシさん、俺も連れて行って下さい」
「何言ってんの。イルカせんせ。アンタなんか連れていったって足手まといでショ」
「はっきりきついこと言いますね」
「言うよ?だって本当のことでショ。それにアンタを死なせたくなんかないしね」
カカシの言葉にイルカの心が震えた。
「でも、一緒に行きたいんです」
「だめ。俺はアンタが好きだから、例え守る自信があったって、危ない場所には連れて行きません」
「え・・・・・・」
イルカを見つめるカカシの目は恐ろしいくらい真剣だった。
「アンタが好きだって言ってんの。ねえ、イルカせんせは?俺のこと、好き?」
「・・・・好き、です。すごく、大事だから・・・」
だから一緒に行きたかったのだ。足手まといにしかならなくても。
「ずっと、俺には何か足りないものがあったんだ。俺にはそれがわからなくて、特に必要とも思わなかった。 だけど四代目はずっとそれを気に病んでた・・・」
「それが、わかったんですか?」
「わかったよ。アンタが教えてくれた」
 誰かを好きになること。自分よりも何よりも大事なものを作ること。
アンタを嫌っていた前の俺のことを考える。きっとそいつは、本能で知っていたんだ。 アンタを知れば、いつかこんな風になるって。それが怖かった。ただ闇雲に怖かったんだよ。
だから、理由を見つけようとした。アンタを嫌う理由を。
アンタはずっとそれに傷ついていたけど。でも、そんなことは教えてやらない。
アンタが好きになったのは、いまの俺でショ。アンタを好きになったのも、いまの俺だから。

「キスしていい?」
上目遣いにイルカを見る。あっという間に茹でだこみたいに真っ赤になる、愛しい人にゆっくりと近づく。
「ちょっ・・・カカシさんっ!」
「なに?いやなの?」
「いやじゃ・・・。でも・・・っ」
「言っておくけど、俺、もうとっくに経験済みだからね?」
だから、子供だって理由で拒まないで。
 「・・・んっ・・・ふ、う・・・ん」
軽く啄むようだった口づけは、いつの間にか深いものに変わっていた。唇をこじ開けて入ってくる舌はイルカを翻弄した。 何度も角度を変えては、口内を掻き混ぜられて喘がされた。
「・・・・こっ、子供の、くせに、どこでこんな・・・」
ようやく唇を解放された後で、目を潤ませながらイルカは文句を言った。
「言ったでショ、経験済みだって。もう子供じゃアリマセン」
ずっと年下のカカシのキスに翻弄されて、ちょっと悔しいイルカだった。 まあ、自分が経験が少ない方だとは分かっていたから仕方ないとも思うのだが。何しろ相手は「女性関係にだらしない」 とまで言われていた上忍だ。
でも、待てよ、とイルカは思う。だって、あれは26のカカシの噂だ。いくら何でも14で、これはないだろう・・・。
「カカシさん・・・。正直に言ってください。一体どこで・・・」
「そんなことより、これ、どうにかしてよイルカせんせ」
これ、と言ってカカシが指したのは、つまりキスによって触発された欲望で。
ぎゃ――――っと声にならない悲鳴を上げて、イルカは思いっきりその手を振り上げた。

 カカシの顔にしばらく消えない痣がついたのは言うまでもない。
すっかりへそを曲げた上忍をなだめすかして機嫌を取るのに、イルカはかなりの苦労を要した。
 そして2日後。
里からの使者がやって来たのだった。


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