古市

国の登録有形文化財「麻吉旅館」と
一級建築士「松月久和の世界」展
令和5年度 第24回特別企画展
2023/7/4 ~ 8/6

令和5年度 第24回特別企画展
国の登録有形文化財「麻吉旅館」と一級建築士「松月久和の世界」展

目的

 「日本人の心のふるさと」といわれる伊勢神宮が鎮座する伊勢地方には、後世に伝えるべき歴史的建造物が数多くあります。その価値は、技術や意匠、地方的特色など多方面に見出されています。
 一方、老朽化が進み維持管理が難しいことや、再開発など土地の効率的利用が求められることから、取壊しや改変が行われる建物も少なくありません。
 そんな中、文化財として価値ある建物を保護するべく、力を尽くされたのが伊勢市在住の一級建築士・松月久和氏です。
 松月氏は1995年、「三重県の近代化遺産」の調査を初とし、翌1996年に制定された国・登録有形文化財建造物制度により、2004年の「三重県近代和風建築総合調査」に携わり、伊勢市とその周辺地域の歴史的建造物の有形文化財登録に深く関わられました。
 今回の企画展では、内宮と外宮を結ぶ参宮道沿いで創業200年以上の暖簾を守る麻吉旅館を中心に、近鉄宇治山田駅、伊勢河崎商人館、中山寺など、氏が登録に関わられた建物をご紹介します。松月氏の熱い思いと、ふるさと伊勢の歴史を彩った建物の魅力に触れ、郷土愛を育んで頂ければと思います。


場所

 伊勢古市参宮街道資料館 [ 地図 ]
 〒516-0034 三重県伊勢市中之町69
 TEL/FAX 0596-22-8410 TEL


期間及び開館時間

 令和5年7月4日(火)~8月6日(日)
 9:00〜16:30 最終日は14:00まで
 休館日:月曜日及び月曜日が祝日の時はその翌日


主な展示物

 パネル・調度品など


「麻吉旅館本館」

国登録有形文化財(建造物)2005年2月9日
所 在 地:伊勢市中之町(参宮街道沿い)
建 築 年:江戸時代後期
建築概要:木造3階一部2階建、 瓦葺

現在の建物は以前の建物が天保9年に消失した翌年の天保10年(1839)に再建されたもの。
内部は所々改装されているが昔を偲ぶ面影は十分残っている。
建物はかなり急斜面に建てられており、「懸造り」又は「懸崖造り」と呼ばれる独特な建築様式である。
一番下から数えると6層5階建てになっている。




「伊勢地域の特徴的歴史を持つ建物を
 市民の尊い遺産として常に調査をすすめる専門家」

 松月久和氏は現在、伊勢郷土会の会長であり、その立場は無論のこと傍ら一級建築士の資格を持ち積極的に地域の為に、その知識と人生を存分に費してくれている。私が彼の存在を知ったのは三十年も四十年も前のことであるが、彼もまた建築家としてそれなりの学習を望んでいた頃であったかと思う。現在の彼は私にとっては建築歴史を知るうえで欠かせない知識の源泉となっているのである。
 伊勢市とその周辺の歴史を知るうえで私は、私の高校の恩師であって私が公務として当てられた市の文化財審議会会長の前任者でもあった。間宮忠夫先生の学習指導に基づくことを自分なりに承知している。間宮先生が伊勢市の文化財調査会会長の役を永年に亘って尽くされてきたのも当然のこととして理解するのであるが、先生がその立場を退かれた後に私が会長の職を依頼されることとなり当然ながら一層の学習をわが身に施さねばならない結果を迎えた。然し傍ら私は指導者にめぐまれていた。特に建築関係の分野にあって急いで対策を施さねばならない事態が多くあり、ここにあって松月先生の問題点対する指導は大変に貴重で、地域にとっては重要な問題を抱えていたのであるがそれなりに各々対処してきた。
 建築関係のみならず文化財の維持対策は数多く求められるが建築関係の文化財にあっては対策が遅れる事態を憂えることも多く、私もその立場にあって対処の方策に腐心したものであるが、私の識る限り松月先生がご自身の学問の立場から早急な措置を提起されたものは多くあり、松月先生の提唱によって管理者の措置を得たものが多くあることを承知している。それらのうちから私の知る範囲において対処された事柄を少しあげてみよう。

「伊勢河崎商人館」

 河崎の小川商店(小川三左衛門家)の元禄時代から大正時代に至る酒問屋としての建築物を伊勢市が購入して、伊勢河崎商人館と銘打ち歴史文化の展示をおこなっており、国指定の有形文化財として平成十三年に登録された。

「近鉄宇治山田駅の駅舎」

 近畿日本鉄道の前身である参宮急行電鉄の終着駅として昭和六年(一九三一)正月に大阪からの初詣を可能とした。鉄筋コンクリート三階建で間口一二八mのたてものである。平成十三年に国の有形文化財に登録された。

「麻吉旅館」

 天明二年(一七八二)の「古市街並図」に「麻吉」の表示があり、当主の麻屋吉兵衛の世襲は大正時代まで記録されている。天保九年に焼失しているが翌十年には再建されており、内部は随所に改装されて今日に至っている。建物は「懸崖造り」と云われる独特の構えとなっている。平成十七年に国の有形文化財に登録された。
 さらに勢田町に存在する臨済宗の「中山寺」の建築様式や、河崎の八間道路沿いにて営業を続けている旅館の「星出旅館」は伊勢地域特有の様式を施している。また現在山田で唯一残されている伊勢御師「丸岡邸」。同様に伊勢であることによりその存在が納得される四日市場町の「小西万金丹」。これらは市民の誰しもがその建物の存在を承知している筈の文化財と云えよう。
 これらの得難い貴重な文化財の維持については直接関係する立場の方にとっては大変なご苦労が伴っていることは申すまでもないが、いずれも伊勢市の市民としては立派に残されて欲しい建築であり、伊勢の姿を見せる文化財であって積極的にその存在を意図せねばならない。同時に文化財に対する知識が必要であることも当然であり、そんな立場にある学識者の存在こそ得難いことであると云えよう。松月先生はその知識を持つ建築学者であり、同時に文化人であることを今日までの彼の活動を見て知るものである。

2023年6月22日  伊勢郷土会顧問(元会長)  濱口主一