歴史
延宝4年(1676)
初代中村清久(せいきゅう)は、医道を志していたとき泉州堺(大阪府堺市)の小西家より製薬の秘方を譲り受けた。
家名を小西に改め、伊勢山田の八日市場に薬舗を構えて万金丹を販売した。
元禄年間(1688〜1704)
2代目清勝は京都・四日市日永に出店
正徳年間(1711〜1716)
3代目清聿(きよのぶ)は江戸・近江草津・伊賀名張に出店を増設。
薬事に精通しているため江戸の医学者と交流をもち新薬の研究に努め、
冶公圓・千金聖遺丸の2種を創案し、販売している。
当時冶公圓は万金丹より良く売れたそうです。
享保8年(1723)
3代目清聿は、宮家より職人の最高位である「大和大掾」(だいじょう)
の名を賜り明治維新に至る8代の間、小西大和大掾と称し名声を高めた。
*「三重県薬業史」には、「故實郷談」と云う書物に「小西大和大掾万金丹は朝熊岳より古し
享保年中に大和大掾を受領す」とあり、その歴史の深さが伺えます。
明治以降、小西清香の商標で冶公圓・万金丹を商い、現在は、
16代目が当主を継ぐ。健康維持食品として販売され愛用する人も多いという。
重厚な建築物―小西万金丹本舗
小西万金丹の薬舗は外宮にほど近い旧参宮街道沿いにあり、明治初期に建設された間口10間の堂々とした切妻造りの2階建、述べ500平方メートルの建築物の中には黒漆塗り金文字看板が置かれていて、「お伊勢さんの霊薬」として親しまれてきた頃の雰囲気を今に残している。
野間万金と小西万金丹の商法の違い
野間万金丹は朝熊岳の金剛證寺を本拠地とし、朝熊参りの信仰客を主力にしていた一方で、妙見町にも支店を設け参宮客相手にも販売していた。これに対し小西万金丹は外宮の参詣人を対象にするだけでなく、江戸、近江など県外にも出店を設けて拡充している。
万金丹の原材料と製造法
原材料
アセンヤク末(阿仙薬の木を煮詰めた液の粉末)
カンゾウ末(甘草の根の粉末)
ケイヒ末(桂皮の粉末)
チョウジ末(丁字の花蕾の粉末)
モッコウ末(木香の根の粉末)
チンピ末(陳皮。ミカンの成熟した果皮)
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結合剤として寒梅粉(かんばいこ)
を用いる。仕上げに衣として丸薬に
銀箔を微量まぶしてある。
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製造法
① | 原材料の製薬を薬研(やげん)をつかって粉末にして、篩通(ふるいとおし)にかけて粒子をそろえ、計量する。 |
② | 乳鉢で混合する。乳鉢は目の無いものを使用する。これは高価な生薬が乳鉢の目に詰まり、目減りすることを防ぎ、他の生薬と混合するのを防ぐため。 |
③ | 出来上がった粉末状の生薬に寒梅粉を加え、寒の間に用意した水を加え、コネ鉢でねる。 |
④ | 練り上がった生薬をヘラで下升(したます)にいれ、型をおこし、鍋の蓋状のもので丸めると丸薬ができる。 |
⑤ | これを陰干しして、銀の糖衣をつけて製品とする。
小西家は1から2月の寒中を中心に製丸師に来てもらって昔ながらの伝統的製法で製造していた。 |
万金丹の効能
効能は腹痛、下痢、食あたり、水あたりなどの胃腸病はじめ食欲不振、胃腸腹部膨満感、消化不良、食べ過ぎ、飲み過ぎ、胸やけ、吐き気、嘔吐等。
風邪の引き初めに万金丹を服む年配者は多い。これは以前の万金丹の用法書に、風邪には万金丹20錠、生姜2〜3切れを水一合にて煎じて服用せしむ、という記述があったからである。今日の効能は胃腸関係に限られているが、生姜との生薬複合効果で風邪を治すあたり、伝承妙薬の発想が脈々として存在しているといえる。
万金丹は江戸時代、道中薬として万能薬視されていたが、今日では薬事法のもと、「万能」は許されていない。
特徴
万金丹は幾つもの系統があって、しかも多くは夢想を得て調合を知るという、超科学的というか、信仰と結びついた形で始まり発展している点が特徴的である。
陀羅尼助(だらにすけ)も万金丹同様、夢想で調合を知ったという伝説がある。
略して陀羅助(だらすけ)と呼び、主に奈良の当麻寺(たいまでら)で売られていた。
「野間万金丹、小西万金丹、伊勢ノ国万金丹(現在は小西万金丹と伊勢ノ国万金丹の2社となっています)の原料は、阿仙薬・肉桂・丁字・甘草・木香・麝香(じゃこう)など成分比率に微妙な違いがあるも同じ主原料であり、また江戸期の中嶋文庫に記載されている万金丹の漢方原料を比べても、主原料は同じでありました。」
「伊勢の薬万金丹」 飯田良樹著より
参考文献
「伊勢の薬万金丹」 | 飯田良樹著 |
「ふるさとの風万金丹」 | 石倉真美著 |
「万金丹」 | 19年度皇学館大学卒論 |
「伊勢探訪記」 | 秋田耕司著 |
「伊勢市の民族」 | 伊勢市民族調査会/編著 |
「三重県薬業史」 | 伊勢長次郎編 |
「伊勢山田散策ふるさと再発見」 | 濱口主一著 |
「日本の名薬」 | 山崎光夫著 |
「伊勢の古市夜話」 | 野村可通著 |
「くすりの博物誌」 | 青木充夫・吉田恵子著 |