なぜなに始めて物語

2005/11/29作成
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乗り物の巻

「あすたろー君。ドライブは楽しいね、紅葉も綺麗だけど枯れ落ちる葉っぱもいいよね」
「オネーサンにしては似合わないことを言うね…ギャー!」
「秋はセンチメンタルになるよね」
「センチメンタルだとカーブでドリフトするものなの?ウワー!」
「この前地球博行ってきたのよ」
「今のやばかったよ!かなりやばいって!!聞いてる?」
「万博のテーマが自然を守ろうみたいなだったのよ、私の車も環境に優しいハイブリッドにしようかしら」
「ハァハァ・・・でもねオネーサン、そんな程度で環境問題が解決するなんて思ったら大間違いだよ」
「そりゃ私一人が頑張ったってたかが知れてるわよ、でもこういう小さい事を重ねて行けばきっと・・・」
「違うんだよオネーサン、こういう乗り物は根本から間違えているんだよ、数百年の未来では今の時代は『間違った方向に進んでいた』事になっちゃってるんだよ」
「間違ってるって・・・バブルみたいな?」
「うーん、ちょっと違うかな。それじゃあ乗り物の正しい歴史を見に出発だー」
「チョット待って!車止めないと・・・」

「あすたろー君、ここはどこ?って言うか、車!車はどーなったのよ!?停めてないから走りっぱなしじゃないの?ねー!?」
「大丈夫だよオネーサン。あの車が谷底に落ちるのは今から千年以上も未来のことだからさ」
「あ・・・、そうなんだ」
「そうさ、今は車のくの字もないんだから大丈夫だよ」
「そうねー・・・・でココは?」
「ココはギリシャのとある島。今は紀元前2千年あたりさ」
「こんな昔に車の原点が?」
「車じゃないよオネーサン、乗り物だよ」
「どう違うのよ?」
「まあまあ、あわてないでゆっくり見ていこうよ。あれを見てごらん」
「あすたろー君、なにあれ?・・牛?・・剥製かしら」
「チョットちがうかな、あれは牛の着ぐるみだよ」
「えーでも牛そのままって感じね、全然可愛くないわ」
「そうだね、実はあれは本当の牛を騙すために作られたんだ。ある人が牛と仲良くなりたくて、あの中に入って、牛に近づいたんだ」
「へー、でも、よくあんなにそっくりに作れたわね」
「そりゃそうさ、オネーサン。この時代の最高の技術者ダイダロスが作ったんだから当然だよ」
「へーそんなにすごい人なんだ。でこれが乗り物の始まりなの?牛だけど」
「まあね、人工の乗り物はコレが始めてじゃないかな。それじゃあ次は未来に行ってみようか」

「ここは・・・ずいぶん臭いけど・・・あすたろー君、ここはどこ?」
「ここは見てのとおりの森の中、時代はオネーサンが暮らしている時代より100年ほど未来さ」
「ふーん、未来になってもまだこんなに自然が残っているんだ。良かった」
「良くはないよ。この臭いすごいでしょ?」
「うん、刺激が強くて目もしぱしぱする。何でなの?」
「ある時期から、環境保護として森林には絶対手を出さないって世界中の国々が決めたんだけど、もう遅かったんだ。森の奥まで見えない煙が広がってしまって・・・都会では酸性雨であらゆる建物が黄色く変色してしまってるし、一部の内海は紅く染まってしまっているんだ」
「本当なの?でも人類は滅ばないよね?あすたろー君さっき『数百年未では』って言ってたもんね」
「うん、そう、この時期が最悪だったんだ」
「そうなんだ」
「自動車は平らなところしか走れないし、急な坂道も登れない、本当はとても不便な乗り物なんだ。でも、勘違いしていた当時の人たちは地面を車に合わせて改造してしまった。道は山を削り、谷を埋め、森を分断して地面にフタをしてしまったんだ」
「フタ?」
「そう、フタをしてしまったんだ。雨が降っても水がしみこまないから、雨水の全てが川に流れ込んでしまう。それが洪水を生みさらに自然を大きく狂わしてしまった」
「今やっている自然保護とかは役に立たなかったの?」
「そうなんだ、いくら木を植えてもハイブリッド車・燃料電池車で二酸化炭素を減らしても、自然はなかなか元には戻らないんだよ。しかもそれらの車を作るためにはさらに沢山の資源とエネルギーが必要だし、破棄するのはそれよりはるかに面倒な事だったんだよ。でも人間が間違いに気が付づくのはさらに百年後のことなんだ」
「うーん、重い話よね。これ」
「ちょっと難しかったかな?ゴメンね。でも、その時まで人類は自然保護を言いながら、タイヤの乗り物を作り続けたんだ。車をより速くそして乗り心地よくするために、さらに地面にフタをし続けてね。オネーサン知ってる?都会では建物と同じくらいの面積の道路があるんだよ。」
「つまり、都会の半分は道路で出来ているってことよね。あすたろー君」
「そう。で、百年後になって人はやっとそのことに気づいたんだ。『道を土に戻せばその分自然が戻る。都会でも半分は道なんだから』ってね」
「それはそうかもしれないわね。・・・でも、道が土になったら車はどうなるの?がたがた揺れるじゃない。そんなのイヤよ」
「そう、で昔の乗り物たちが復活したのさ。ロボットだけどね」
「・・・あそうか。それってやっぱ牛型?」
「まー、牛というよりは馬型だね。馬型ならでこぼこの道も、険しい山道も歩いていける。なんせ四足だからね。地面が土に戻ってからは自動車のような使えない乗り物はほすぐになくなってしまったんだ」
「でもあすたろー君、エネルギーはどうなったのよ?その頃には石油なんて無くなってんじゃないの?」
「うん、オネーサンの言うとおり石油はもうほとんど取れなくなっていたんだよね。でも太陽光発電ってのが今よりも格段に性能がよくなって、ロボット馬が動く程度には使えるようになってたんだ。太陽光発電なら大気を汚さないし、他の部分でも車よりははるかにマシだったんだ」
「そうか、だから今が『間違った方向に進んでいた』って言われるのね」

「ふーん、自然保護ってTVで言うほど簡単なの事じゃないのね」
「そうだねオネーサン、今のやり方では小さな穴をふさぐために大きな穴を開けるようなものだからね。でも避けては通れない問題さ」
「でさ、環境や自然は数百年単位の重要な問題だけど、今、目の前にある問題もかなり大切よね」
「ん?それはもしかして、ぼろぎれのように引きちぎられたガードレールの事かな?」
「そうやって現実から目をそらすのがいけないんじゃなかったけ?あすたろー君」
「あはは・・・で、でもさオネーサン、あの車弱いよねー。ちょっと脇の斜面にぶつかったくらいで粉々なんだからさー」
「まあねー、多分あれは榴弾が爆発したのね。爆発して周囲数十メートルに破片を飛び散らせるってやつ。別名『ざくろ弾』」
「え・・・そんなヤバイ物が乗ってたの?あの車に?」
「うん、そうよ。さっきまで助手席にあったやつよ。あの上であすたろー君が跳ね回るから『大丈夫かなー?』とは思ってたけどね」
「ひえぇぇ〜」

ミサイル型の置物には気をつけようね。See you!



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