過去の文章

2002/6/15作成
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冷蔵庫の巻

「今夜の夕食は何にしようかな…あ、あすたろー君じゃない。何しているの、人ん家の冷蔵庫をのぞきこんで」
「あ…オネーサン。え…っと…あ、あのね、なくした角を探しているんだよ。ここにはないみたいだね…」
「何言ってるのよ。角ならちゃんと頭の上にあるじゃない。まぬけね、あすたろー君って」
「あ、ホントだ。あはははははは…それじゃぁねー」
「待たんかい!勝手に冷蔵庫のぞきおって、おのれはドロボーか?あ?」
「そういえばオネーサン、冷蔵庫ってどうやって冷やしているか知っている?」
「話しそらそうとしてもアカン!今日こそはカンベンならねー」
「それじゃ冷蔵庫のルーツを知りに…」
「この前無くなったヨーグルトもお前が食ったんやろ」
「出発だ―」
「あのヨーグルト、楽しみにしていたのに…」

「あすたろー君。ここはどこ、私は誰・・・ってここは砂漠よね」
「正確には砂漠じゃないんだけどね。ここは紀元前600年ごろの古代バビロニアだよ、オネーサン」
「バビロニアって確かバベルの塔があったところよね。ロデムとかがいて…」
「ロデムが何かは知らないけど、バビロニアの王ネブカドネザル二世が作ったのがバベルの塔だよ。ほらあそこにあるでしょ」
「ホントだ、大きい宮殿の近くに高い塔がそびえているわ、でもあれじゃ東京タワーより小さいような気がするけど」
「まだ建設中だからね、まだ200mぐらいしかないんだけど、完成時には4000mになったそうだよ」
「ふーん、で、それと冷蔵庫とどういう関係があるの?」
「ネブカドネザル二世はバベルの塔のほかに、空中宮殿でも有名だよね」
「知らない」
「あ、そう。あそこに見える大きな宮殿が空中宮殿さ。空中宮殿は后のために作られたもので、地上100mの高さに作られた大庭園なんだよ。庭園には噴水や花畑があったそうだよ」
「冷蔵庫はいずこ?」
「后がここに雪山を築いてほしいと王におねだりしたために、バベルの塔が建設されたのさ」
「なんで?」
「この地から雪を探しに行くと、キリマンジャロやネパールまで行かないと無いんだ。でも高い塔を築けば、塔の頂上部は高山と同じ条件になるから、雪が降るだろう。そうやって雪を得ようとしてこの塔は建設されたんだ」
「ふーん、じゃぁ上手くいったんだ」
「それがそうでもないんだよ」
「雪は取れなかったの?」
「雪は取れたんだけどね、宮殿に運ぶために一度地上まで降ろさないといけないだろう。そうすると雪が解けるんだよ。大量に運べばある程度は雪が確保できたんだけど。塔の中で溶けた水が流れ出して、塔が崩壊してしまったんだ」
「どうして水ごときで塔がこわれるの?」
「バベルの塔はレンガと漆喰で出来ていたんだ。当時の漆喰は水がかかると流れでてしまうんだ。この地方はあまり雨が降らないから、そういう技術は発展していなかったんだ」
「思わぬ落とし穴ってやつね」
「そうだね、このバベルの塔の崩壊からこの国の崩壊も始まったんだ」

「ねえ、あすたろー君。バベルの塔と冷蔵庫の関係がいまいち理解できないんだけど」
「相変わらず鈍いねー、オネーサンは」
「そんな可愛いいこと言うと、抱きしめて頚骨折っちゃうぞ」
「ネブカドネザル二世は、バベルの塔を使って雪を手に入れた。つまり、砂漠地帯でも気温を下げる方法があるということさ」
「つまり気温が低くなるためには、ある程度の条件がそろえばいいということね」
「そうさ」
「で、どうすればいいの。あすたろー君」
「…だからー、はっきり言うと気圧だよ気圧」
「気圧…って台風の低気圧とか高気圧ガールとか?」 「そう、その気圧。高い山の上は気圧が低くて寒いだろう。つまり、気圧が低いと気温が下がるのさ。ぶっちゃけて言うと冷蔵庫は内部の気圧を下げて、温度を低くしているんだ」
「じゃあ、あの低いうなり声は?」
「空気を抜く音。ちなみに冷房も同じ原理なんだよ」
「冷房すると水が出るのはなぜ?」
「あれは、空気の飽和水蒸気量が変わるからだよ。飽和水蒸気量ってのは空気が持つことの出来る水蒸気の最大量さ。これを超えた水蒸気は水として現れるんだ。空気の気圧が下がると気温が下がり、飽和水蒸気量が下がる。するとあぶれた水蒸気が水として出て来るんだ。わかったかい?」
「ぜんぜんわからない」
「世の中がそうなっているって思えばいいよ」
「そっか、なるほど」

「冷蔵庫って何気に存在しているようで、実は結構深い歴史があったんだ」
「そうだよ、オネーサン。人類は食料保存のために、長い間苦労してきたんだ。今の便利さに感謝しなくちゃ」 「よくわかったわ」
「ところで今日の夕食は?」
「冷蔵庫の中から発掘したカレーだよ。あすたろー君」
「カレー?最近カレー作ったっけ?」
「ほら、正月に『おせちもいいけど、カレーもねぇ』って言って食べ残したでしょう。あれよ、アレ」
「それってもう半年経ってんじゃん。ヤバいって、あ、ダメだよ開けちゃ!」
「ほら、大丈…うっ…うげーっ!」
「何じゃこりゃ―!!」

カラフルにカビの生えたカレーには気をつけようね See you!!

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2002/6/28作成
現在位置: 表紙 > なぜなに始めて物語 > 過去の物語 >寿命

寿命の巻

「ただいま、あれ、真っ暗だ。あすたろー君?いないのかな」
「わっ!!オネーサン、驚い…うっ」
「…なんだ、あすたろー君かビックリしたなーもう」
「ごめん、ごめん。ほんの冗談だから…だからこの首に突きつけてるナイフとか、しまってくれないかな」
「いたずらもたいがいにしなさいよ、ヘタしたら頚動脈切っちゃうわよ」
「うん、気をつけるよ(小声で)一瞬で背後を取られた、まるでデューク東郷だ」
「なんか言った?」
「ううん、なんでもない。だからその青龍刀も収めてね」
「はいはい、あすたろー君は怖がりなんだから、でも本当にビックリしたわよ。寿命が十年縮まったかと思ったわ」
「オネーサンなら120は生きられるよ」
「あまり長生きしたいとも思わないわ、この美貌が色あせないうちに何とかしなきゃ」
「美貌…でもね、人間って本当は1千年近く生きられるんだよ、知ってた?」
「え、そんなはずはないわ。誰だって年を取れば死んじゃうものよ」
「それじゃあ、見せてあげるよ。用意はいいかい?」
「いいけど、この44マグナムはどうしようかしら」
「そんな物まで…」

「あすたろー君ここはどこ、私は誰?」
「ここはアララテ山麓、洪水直後だから、だいたい3億年から4千年位昔かな」
「ずいぶん幅が広いのね、草木も生えてないわこの辺、生き物もいないし」
「まあ、諸説様々なんでね。オネーサンあそこを見てごらん」
「あら、中年のオッサンが真っ裸で昼寝しているわ、丸見え」
「あの人何歳ぐらいだと思う?」
「だいたい70位かしら、昔の人にしては長生きよね」
「実はあの人、現在で600歳なんだよ」
「うそー!なんかおかしいんじゃないの?」
「でもそうなんだよ、昔の書物を調べると、みんな長生きしていることが分かったんだ。彼は950歳まで生きるし、彼の父親のレメクも777歳まで生きたんだ」
「信じられない…あれ、あの真っ裸のオッサンに近づく男がいるわ、きょろきょろしてなんだか変ね」
「!それじゃあ次に行くよ」
「え、もうちょっと見ていこうよ」
「いいから!」

「ちょっと、ここは無人島じゃないの、誰もいないところに連れ込んで、どうするつもり?」
「…色目使ってないで、アレを見てごらん」
「あそこで…泳いでるのは…海亀?よね」
「そう海亀だよ。昔から亀は長生きの象徴だったよね。実際亀って結構長生きなんだ」
「それで?さっきのオッサンとどういう関係があるの?」
「さっきの時代は、まだ人類がほとんどいない世界なんだよ。その頃はまだ、寿命っていう言葉はなかったんだ。人間が何歳で死ぬかの平均値を計ってなかったからね」
「それで?」
「海亀ってさ、生まれた時から死ぬまで、ほとんど孤独に生きていく生き物なんだ。普段から群れを作らないから、他の仲間の生態はほとんど知らないらしいよ」
「…うーん、まだ良く分かんないな」
「つまり、寿命ってのは思い込みなんだよ。平均寿命って、早く死んだ人も長生きした人も、全部ひっくるめて平均を取っているんだよね。その平均寿命を聞くと、みんな「自分はその年齢で死ぬんだな」って思い込んじゃうんだ」
「つまり、知らないほうがいいってこと?」
「そうとも言えるかな。昔から病は気からって言うじゃない、実は寿命も気からなんだ。平均寿命を知ると、思い込みでその年齢くらいでみんな死んでしまうんだ。逆にいうと寿命ってものを知らなければ、いつまでも長生きできるって事さ。さっきのオッサンや亀みたいに」
「でも、中世の頃は40くらいで死んでいたらしいわよ、今のほうが寿命が延びてるっておかしいじゃない」
「紀元前3世紀ごろ、すでに寿命は30から40くらいだったんだ。その頃は戦争が多くてたくさんの戦死者を出したんだ、そのせいで平均寿命が短くなっていて、みんな40くらいで死ぬと思い込んだんだ。それが最近まで続いていたのさ」
「じゃあ寿命を気にしなければいいのね」
「そうなんだけど、実際はそうはいかないんだ。平均寿命あたりで周囲の人が死んでいくのを見ていると、無意識に体が死へのカウントダウンをはじめてしまうんだ」
「それじゃあ、どうすれば長生きできるの?」
「死を忘れるのが一番なんだけど…ムリだよねぇ」
「ムリね、死なない人が出てくれば別だけど。そのためには死を忘れないといけないし…「鶏と卵」みたいな話しになっちゃっう」

「あすたろー君、それじゃあさ、寿命が縮まったって思うのも、やっぱり良くないのかな?」
「そうだね、寿命が縮まったって思うことで、本当に寿命が縮まっちゃうだろうね」
「でも、寿命が縮まったから、寿命が縮まったって思うんじゃないのかな?」
「オネーサン、ボクもうわけわからん」

「あすたろー君、こんどあんなイタズラしたら、許さないわよ。こいつでお仕置きしちゃうから」
「許す許さない以前に、殺されているんじゃないかな…火炎放射器でお仕置きなんて…」

…生きていたらまた会おうね See You!!

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2002/8/9作成
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ことわざ・格言の巻

「…暑っつ〜い…溶けるぅ…」
「いったいどうしたのあすたろー君?床の上で水溜りみたいになっちゃって」
「あ、オネーサンか…あまりの暑さに…」
「溶けちゃったんだ」
「…沸騰しそう…」
「何を腑抜けたこと言ってるの、たかが気温が38度になったくらいで」
「でも、この部屋西日が強くて…冷房もないし…」
「ちゃんと団扇があるじゃない、シャキッとしなさい!」
「団扇はオネーサンが使ってるから…」
「ほら、そんな腑抜けた状態じゃ夏は乗り切れないよ、精神も腐ってしまうぞぅ。『健全な精神は健全な肉体に宿る』って昔の人も言ってたでしょうが」
「今、なんつった!!」
「な、なによ突然復活しちゃって、頭から湯気が出てるわよ…そんなの別に怖くないしー」
「今の言葉は間違ってるよ、オネーサン!勘違いも甚だしい。…よし、今から真実を求めに出発だー!」
「ちょっと、私の何が間違っているのよー!」

「ここはどこ?私は誰…って明らかにここはローマよね、あれパルテノン神殿かしら?」
「オネーサン、パルテノン神殿じゃないけど、ここはローマだよ」
「で、ここに何があるの?あすたろー君」
「あそこを見てご覧よ」
「ひげ面のオッサンが広場を眺めているね、あの汚さから考えると、まともな仕事をしてないみたいだけど」
「あのオッ…、あの人がさっきの『健全な精神は…』っていう言葉を吐いた人さ、職業は…詩人とか風刺家とか…」
「自由業ってやつね。で、さっきの言葉がどーだって言うのよ」
「さっきの言葉、正確には『mens sana in corpore sano』って言うんだよ」
「正確すぎてわかんない」
「日本語にすると『健全な身体の中に健全な精神があるよう祈ろう』となるんだ、肉体が健全でないと精神が健全にならないというのは、大きな間違いなんだよ」
「ふーん、そうだったんだ、じゃぁ運動会で校長先生が言ってたのはウソなわけ?」
「勘違いして覚えてしまったんだよね。それにあの年になると間違いを認めようともしないから…」
「で、その間違いがまた生徒達に広まって、悪循環になるってことだ」
「そういうこと」

「ここは日本よね」
「今がいつかオネーサンに判るかな?」
「バカにしないでよ、判るわよそれくらい…ほら、あの太陽の位置と、影の長さから…間違いなく午後3時。誤差は前後1時間」
「いや…あの…その『いつ』じゃなくて…。西暦何年とか時代とか…」
「あ、誰か来た。あの格好から見ると、江戸時代かな?」
「そう、江戸時代さ。ここは普通の農村、あれはただの農民。でもこれからあの人が言った言葉が、僕達のいる未来では意味が変わって伝わっているんだよ」
「なんて言葉?」
「『実るほど 頭を垂れる 稲穂かな』聞いたことあるでしょ」
「たしか、実をつけた稲穂が垂れるように、偉い人も謙虚になって頭を下げるべきだ…みたいな格言だったっけ。道徳の時間に読んだような…『笑う犬の生活』で聞いたような気もするし…」
「…とにかく、本来の意味は違うんだ」
「ふ〜ん、もしかして、垂れるのが別の部分だとか…」
「どこ!どこのことよ!!…まったく。オネーサンは浅学だからね…グギッ!」
「おっと、ごめんなさーい。よろけちゃって、ついあすたろー君の耳掴んじゃった…。ごめーん」
「ガガガ…、掴んだついでにひねったのはどーしてかな?しかも結びやがって…」
「じゃあ切っちゃおうか?」
「あ、いいよ、うん。平気だから…その虎鉄も収めてちょうだい…うん。怒ってないから」
「で、本当の意味ってなーに?」
「本当は『実無るども 頭を垂れる 稲穂かな』なんだ。オネーサン、その稲穂を触ってごらん」
「これ?もう刈り入れてもいい頃よね…。あれ?中身がない、カスカスだ」
「そう、稲穂は出来ても中身の米が入っていないんだ。昔はあまり農業技術が高くなかったから、ちょっとした冷夏でこうなってしまうんだ」
「そうか、それで『実無るども 頭を垂れる』って言うんだ」
「そう、それにね。この時代、年貢は刈り入れ前に稲穂の出来具合だけを見て決めていたから、こういう時お百姓さんは本当に困ったんだよ。それで皆で年貢を軽くするように直訴したりした事も少なくないんだ。その時に沢山のお百姓さんが頭を下げている風景を稲穂にダブらせてもいるそうだよ」
「そうなんだ、本当は道徳ではなく、厳しい生活を表現していたんだね」

「オネーサン。今は沢山の格言とかことわざとかあるけど、それらの中には、本来の意味とかけ離れている場合が少なくないんだ」
「どうしてそうなっちゃうの?」
「こういう言葉には流行りすたりがあってね。時代によっては意味が忘れられて伝わらない場合があったんだ。それが現代になって言葉のみが発見されて、学者さんたちが意味を想像してつけるんだけど。言葉が作られた時代の背景を考えずに、今の生活や環境から考えるから意味が違ってしまうんだ。他にも単純に翻訳間違いも少なくないね」
「翻訳間違いって、そんなことってあるの?」
「『帝王切開』とか『火星の運河』なんてのはその代表だね」
「へー、そうだったんだ」
「後ね『食べてすぐ横になると牛になる』ってのも…」
「もういいよ、帰ろう」
「オネーサン、モー帰っちゃうの?」
「モーおなか一杯だよ」

「オネーサンわかったかい?健全な肉体だからって精神が健全とは限りないんだよ」
「判ったわよ。それじゃあすたろー君は精神が健全なのかしらね」
「…それって、見た目が変ってこと?それを言うならオネーサンなんか○×□△%*じゃんか」
「それを言っちゃお終いじゃない、ねぇ?」
「あっ…ごめん言い過ぎたね…あの、お菓子買ってくるから…じゃ、じゃーねー See You!! 」

「先週買ったこのウィンチェスターM73ライフル、『ワン・オブ・ワン・サウザンド』…骨董品だけどちょっと試して見ようかしら、あそこにいい的が逃げていくし…」

BANG!



2002/10/2作成
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顔文字

「…では、お・や・す・み…っと」
「オネーサン何やってんの?ああ、何だ。携帯でメール打ってたんだ」
「そうよあすたろー君。最近の携帯は便利よね、メール打てたり写真が撮れたり」
「…でも、このメール、何て書いてあるの?なんだか絵が沢山混じっているけど」
「あすたろー君は顔文字って知らないの?ずいぶん昔からあるんだけどねぇ」
「うん、ボクは携帯持ってないからね。持っててもかける相手もいないし…」
「銀行口座も持ってないしね。…顔文字って言うのは記号で気持ちを表現する方法のこと。絵文字とも言うわね。昔から『!』とか『♪』とかはよく使われているわよね、今は括弧とか記号を組み合わせて顔を作るの『(^o^)』とか『m(_ _)m』とかね。見た感じで喜んでいるとか謝っているとか解るでしょ」
「ふーん、これって流行っているの?」
「すごく流行っているわよ。他にも『(ノ-_-)ノ ~┻━┻』や『(〜^^)〜』などの面白いものもあるし、何行にもわたって記号を書いて一つの絵を作る人もいるらしいわよ。PCや携帯などの文字情報を使う機器が増えたから、新しくこういう表現方法が生まれたわけよ。わかった?」
「ふーん、でもさぁ…」
「何よあすたろー君。言いたいことがあるならはっきり言ったら」
「文明が進歩すると、楽をするから人間はだんだん退化していくっていう説があるけど、この絵文字も人間が退化している現象だよね」
「どうしてよ、記号を応用するのは賢いことだと思うけどね…」
「じゃあ見に行こうか、果たして顔文字が新しいかどうかを」
「いいわよ、いつでも来い!」

「あすたろー君ここは…エジプトよね、あれピラミッドだもの。でも結構緑が多いのね、TVで見るのと偉い違いだわ」
「確かにここはエジプトだけど、今は紀元前3千年ごろさ。この頃はまださほど砂漠化が進んでいなかったんだ。」
「ふーん、で。それと顔文字とどーいう関係があるの?」
「オネーサン、この壁を見てご覧」
「あ、これ見たことある。古代エジプト文字で…えーっと確か…」
「ヒエログリフって言うんだ。鳥とか人の絵が彫ってあるよね」
「うん、…確かにこれは象形文字かもしれないけどさ、でもこれって結構高度な文字だって聞いたことあるよ」
「現代ではそう言われているけどね、本当はそうでもないんだよね」
「どういうこと?」
「古代文字ってさ、本当の読み方は誰も知らないんだよね。考古学者が『こういうふうに読める』って言っているだけでさ」
「でも、こういうのってすごく調査研究して解読するんでしょう?」
「そうでもないんだ。こういう研究ってデータを集めてその結果を発表しているって皆思っているみたいだけど、本当は違うんだ。まず始めに新説を思いついて、それを裏付けるデータを集めて発表する。その新説にイチャモンが付かなければ、その説が定着する。集め損ねたデータとか、現代まで残っていないデータは完全に無視されるのが実際なんだよ」
「だからこの古代文字も違うってこと?本当かしら」
「見てご覧、この壁を見ている人がどんな人か」
「どんな人って…そういえば…この壁の文字を見ている人って女性ばかりだわ。男性はほとんど素通りしている。どうしてかしら?」
「それは壁の文字を読めば解ることさ」
「何て書いてあるの?」
「この鳥の記号はそのまま鳥を表しているんだ。この羽根ペンみたいなのは葦、鍋・包丁・腕・パン…この波線は火を表しているんだよ」
「あすたろー君…それじゃあ…まるで…料理の説明みたいじゃない」
「そうさ、これはレシピなんだよ。太陽神を崇めているこの民族は、天文学にも通じていてカレンダーも持っていたらしいんだ。そして神殿では毎日何かの儀式が行われていた。その時に神にささげる料理のレシピがこの壁の絵なんだ。そして各地の大小の神殿の供物を担当する女性がこれを見て料理の勉強をしていたんだ」
「そうだったんだ、じゃあ現代に伝わる翻訳って…」
「まあ、実際にこの光景を見たわけじゃないから、責めることは出来ないけどね」

「オネーサン、この頃の文字は完全に象形文字だよね」
「うん、そうよね。見た目で内容がわかるもの。でもさ、これって世界共通でいいわよね」
「そうだね、でも現在世界で使われている文字ってさ、言語が違うとほとんど意味が伝わらないよね」
「うん、それって文明が発達したのと何か関係があるのかしら」
「それがあるんだよね。文明の発展の歴史は戦争の歴史でもあるんだよ。新しい武器の発明がそのまま文明の発展につながっているのはオネーサンもわかるよね」
「そうね、武器の製造が工業の元だし、爆弾がダイナマイトを作り出したのよね」
「そう、そして見えない戦争として情報戦があったんだ。敵に情報を漏らさないために暗号を使うようになって、それが元で世界の言語が分かれてしまったんだ。言語の分裂はバビロニアのバベルの塔の話が有名だけど、実際はシュメールの時代から戦争の耐えなかったバビロニア地方での暗号の発明から、世界の言語は分裂したんだ」
「そうだったんだ、それで世界中の人は全然違う言葉を使うんだ。そして共通文字だった象形文字もなくなったんだ」
「そうだよ、だから今オネーサンが使っている顔文字は、象形文字の復活だと言えるよね」
「戦争時ならともかく、これから世界が平和になり一つになるのならこういう形で言葉が伝わるのも悪くないわね」
「そうだね」

「あすたろー君。顔文字って新しい事だと思っていたけど、昔からある表現方法だったんだね」
「そうだよ、オネーサン。歴史は繰り返すって言うから」
「あすたろー君もこれで顔文字の見方がわかったよね」
「うん、完璧さ。始めのこれは喜んでて、次のが謝ってる。その次のが怒ってちゃぶ台ひっくり返していて、最後のが踊っているんだよね」
「正解!さすがあすたろー君。飲み込みが速いねー」
「うん、まあね。…でもさ、まだ解らない部分があるんだけど…」
「え、どこかしら?ほぼ完璧だと思うけど」
「この絵文字の間にある文字が何て読むのか全くわからないんだよね。教えてくれる?」
「…アンタ日本語読めへんのかい!!」

それじゃあまたね See You!!

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Copyright (C) 2002 by 杜川月史