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 2010/8/7 湯泉地温泉

あまりに暑い日が続き、外出したら熱中症になるんじゃないかという心配からずっと遠出を避けてきたんだけれど、やはりたまにはどこかに出かけたくて。天気予報じゃ、この日は一日中晴れマーク。こちらは朝からすっかりお出かけモードに入ってるのに、相方の方は久しぶりの休日モード。ふだんはめったに見ないテレビの前に座って動かない。番組が終わったのをきっかけに温泉グッズの用意をしはじめた。

用意が悪いのはこちらも同じ。遠出するにはガソリンが足らず、高速道の入り口にあるGSで給油していたら出発は11時前になっていた。この日の予定は奈良県にある湯泉地温泉。十津川峡にある源泉かけ流しの小さな温泉である。問題は、どの道を通ってそこまで行くかということにある。十津川峡は紀伊山地の山の中、歴史に名を残す秘境である。

先に南に下りて尾鷲か新宮から北上するか、西に走り五條から南下するか。いずれにせよ、片道四時間はかかる距離だ。あまり役に立たないナビだが、試しに検索をかけると五條からのルートしか出てこない。あまのじゃくの虫が動き出し、無料化実験中の高速に最後までのっていくことにした。

大内山インターで出て、紀伊長島の道の駅で早い目の昼食。絶品で、このサイトでも何度も紹介したことのある真鯛のあぶり丼だが、前回来たときメニューから消えており、今回もそれは変わらなかった。仕方がないので海鮮丼を食べた。刺身は新鮮だが、白飯の上に刺身をのせただけでは料理の「料」はあっても「理」がない。すし飯に胡麻を散らしたあぶり丼が懐かしい。それでも、ここでお昼にするのは、ここを逃すともはや食べる店がないからだ。沿線にも一応食事するところはあるが、一昔前から変わらないような店構えに入る気が失せる。

42号線は走り慣れているので、尾鷲まではすぐに着いた。小阪で右折して309号に乗る。いよいよ三桁国道である。桃崎あたりで「十津川」の標識に導かれるようにして左折したら、七色ダムに出てしまった。この近くにあるのは湯の口温泉。せっかく西に進んでいたのに、南下して新宮方面に来てしまっていた。今思えば、そのまま川湯経由で168号を北上すればよかったのだが。

たしかにこちらからでも十津川に行ける。道も広いしひょっとしたら早いかもしれない。血液型のせいでもないだろうが融通がきかない。もとの169号にもどり、そのまま425号に。国道の番号はできた順かと思っていたが、この前聞いたところでは重要(需要)度の高い順から番号が若いのだそうだ。ということは425番目というのは、かなり需要がない道なんだろう。なぞと考えていると、道はだんだん険しさを増し、断崖絶壁の下に申し訳程度切り開かれた細道が延々続く九十九折の山道に。

ラリー気分でステアリングを右左に切り返し、次々とカーブを抜けていく。どれだけ走っても対向車が来ない。はじめは気にしていたが、そのうち対向車のことを忘れてしまっていた。それほど交通量が少ない。それよりも、足元に転がっている大小さまざまな落石が気になった。大きな石でも落ちてきたら、直接当たらずとも、山中で通行止めになる。30キロくらいしかないはずなのに、なかなか距離がはかどらない。

前方にめずらしく車が目に止まった。きっと、この山道に入り込んだことを後悔しているんだろうなと思わせる慎重な運転ぶりだった。後続車に気づいてすぐに道を譲ってくれたけど、あの調子では広い道に出るのは日暮れ時になるだろう。十津川にでも泊まるのだろうか。こちらは日帰りの予定だ。峠も下りに入ると速度が増す。先を急がねば。

ようやく十津川温泉の看板が出てきた。人家もちらほら見えはじめ、山道を抜けたことがわかった。道の駅で一休みしたら、湯泉地温泉はすぐそこだ。川に架かる橋を渡ったら左側の道沿いに目指す「滝の湯」が見えた。駐車場はすでにいっぱいだったが、どうにか端の方に車をとめるスペースを見つけた。

受付を済ませ、貴重品をコインロッカーに入れてさあ入浴。改装したばかりらしく、木の香が漂う。こぢんまりとした脱衣場には昔懐かしい脱衣籠。これでは貴重品用のロッカーが要るのも道理だ。内風呂は小さめだが、客も少ないのでゆったり入れる。いかにも温泉らしい硫黄臭の強いお湯の泉質は単純硫黄泉。湧出温度は60度。檜の木組みが高い屋根まで何段も続いている。洗い場はシャワーつきだが四、五人も並べばいいところだ。共同浴場というふれこみだが、これで商売になるのだろうか心配になる。ちなみに入浴料は600円と良心的。

内湯のドアから露天に続く階段があり、そこからサンダルに履き替えてまったくの野外に出る。塀に遮られて目隠しはされているが、真っ昼間タオル一枚で中庭を横切るのは無防備過ぎて落ち着かない。急な石段を三十段くらい降りると脱衣場があり、その下に露天風呂が見えた。花崗岩を板状に敷き詰め、これも新しい露天風呂ができていた。手すりの向こうはそのまま滝で、滝見の露天風呂に偽りなし。

真っ黒なアゲハ蝶が水でも飲んでいるのか、いつまでもひらひらとたゆたうようにその辺りにとどまってどこにも飛んでいかない。渓谷の斜面に張り付いたような露天風呂に客はまばらで、滝の水音をのぞけばささやき声のひとつしない。青葉を透いた木漏れ日を浴びて蝶の舞をながめていると、亡くなった人の魂でも宿っているような気がしてくるから不思議だ。

上の内風呂で洗髪して、また露天までサンダル履きで降りた。まったくの一人きりで渓谷の露天風呂を独占していると、贅沢な気分になる。これで源泉掛け流しというのだから申し分がない。脱衣場に掃除に来た人と世間話をした。やはり昨年改装したそうで昔のままがよかったという人と改装後のほうがいいという人と客の評判は半々だそうだ。昔風を残したい気もあるのだが、お年寄り客が多いのが温泉。手摺りやスロープといったバリアフリーの設備が求められているのだという。

伊勢から425号線で来たと話すとあきれられた。雨が降ると落石で通行止めになるのはしょっちゅうだそうだ。いい温泉ですねと言ったら、私らは温泉よりうまい魚がいいと返された。たしかに、ここで魚といったら川魚ばかりだろうなあ。山女も尼子も鮎も大好きだが、そればかりではさみしいだろう。

帰りは、五條に出て吉野から、これも走りなれた道を走って帰途に着いた。まだ暮れなずむ高速道を降りたのは午後7時半。360キロのドライブであった。

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