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 2009/4/5 イチローと零戦

イチローが胃潰瘍で故障者リスト入りしたことが新聞に出ていた。
野球ファンではないが、先のWBC騒ぎの渦中にいたのがイチローであったことは知っている。
打てないと、もう歳だと酷評され、勝利に貢献をすると今度は掌をかえしたように持ち上げられる。これでは、さすがのメジャーリーガーでも胃に潰瘍ができて当たり前だ。

この前読んだ『丸山眞男話文集3』に載っていた話を思い出した。
零戦のことである。零戦は日本海軍の誇る戦闘機だが、その開発は困難を極めた。戦闘機には三つの要素がある。速度、航続距離、戦闘能力がそれだ。ところが、これらの要素はそれぞれが矛盾するので、完全なバランスをとるのが難しい。

日本軍はそれをどう解決したか。熟練操縦士の腕に頼ったのだ。はじめのうちはそれでよかった。ただ、相手も戦法を研究してくる。その上ミッドウェイの敗北で、多くの熟練パイロットを失うとやっていけなくなった。

資本や設備投資、研究、経営理念といったものの不備を一人一人の個人のがんばりに頼るというやり方は、戦後何年たっても変わらないものらしい。WBCの監督を巡るドタバタはいかにもこの国らしい因循姑息さを感じさせた。イチローの一言が事態に影響を与えたこともあり、彼の感じるプレッシャーは相当なものがあったろう。

もとはといえば、オフに仕事をさせることに無理がある。それも国の名誉を賭けて。政治も経済も冷え切ったこの国に、久しぶりに明るい希望を感じさせたというのが、マスコミのWBC評だが、大本営発表でもあるまいに。その蔭で調整に苦しむ選手が大勢いるのが実情だ。

現にチーム事情を優先し、休養していた松井秀喜は新球場でホームランを打っているではないか。休むときは休む。当たり前のことを選手にさせるのが本当だろう。メジャーの経営戦略に乗って大騒ぎをした挙げ句が、主軸選手の故障ではやりきれない。

ノーベル賞でもそうだが、4人の受賞者のうち2人はアメリカで研究を行っている。日本人を強調するのもいいが、その日本人がなぜ野球といい、科学といいアメリカに出て行かねばならないのか。その点こそが問題だろう。

イチローに限らず、メジャーで力を発揮する日本人選手が多く出てきたことは日本人にとってうれしいことにちがいない。その選手たちが心も体も患わされず、プレイに専念できる環境を整えることこそが求められているのだ。国威発揚のために選手生命にかかわる負担を選手個人に求めるようなことはやめた方がいい。

WBCが真にワールドを名のるなら、メジャーの選手が何の心配もせずにプレイできる環境を整えてからやればいいのだ。今度の大会でもジャパン・マネーは大量にメジャーに流れたはず。ほくほくしているのは多くの自国選手に休養を与え、外国のプレイヤーに金を稼がせたメジャー・リーグばかりである。

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