Summertime in Italy

 Repubblica di San Marino

山の上に城砦の見張り塔のような物が見えてきた。バスは山腹を舐めるように坂道を上っていく。頭上をロープウェイのゴンドラが上がっていった。車好きの人ならサン・マリノGPを知っていると思うが、あれは原則として一つの国では一回しか開催できないため、イタリアがサン・マリノの名を借りているだけで、ここではなくイタリア領内で行われているのだそうだ。こんな所でレースをしたらコースアウトした車は谷底に真っ逆さまだ。バスが停まったのはサン・フランチェスコ門のすぐ下だった。急な石段を登ると旧市街地をぐるっと取り囲むように続く城壁の前に出た。

サン・マリノ共和国は、イタリア領内にありながら、自前の軍隊を持つ歴とした独立国である。総面積61平方キロメートルは世界で国としては小さい方から5番目。310年に聖マリノがローマ帝国の迫害を逃れて、この地で伝導をはじめたのを国家の起源とする世界最古の共和国である。国家財源は専ら観光収入である。その所為かどうか国境の検問はなかった。

 サン・フランチェスコ門

サン・フランチェスコ門城壁の中程がアーチ状に刳られて市街地に入るための城門になっていた。厚い壁が作り出す陰に観光客が日差しを避けて休んでいた。サン・フランチェスコ門のすぐ前がサン・フランチェスコ教会。その前から左の方に坂道がのびていた。

狭い通りの両側には観光客相手の商店が所狭しと商品を並べ、その一部は通りに面した壁に吊されている。道はあまり歩かないうちに小さな踊り場に出る、そこで折れて、また坂道を上がっていく。脇道というものはなく、折れ曲がってはいるが基本的には一本道で、これがメインストリートというわけだ。しばらく行くと、立派な手摺りの着いた眺めのいい広場に出た。

 リベルタ広場

リベルタ広場山に張りつくようにしてできたサン・マリノのような国で広い平地を確保するのは難しかろう。谷側に張り出したバルコニーのようなこの広場が市の中心になる。ネオ・ゴシックの共和国宮殿(タイトルバックの写真)には共和国政庁が入っており、一時間毎に衛兵の交替が見られる。

1253年からとられている共和国体制は、年2回、60人からなる評議委員の中から二人の執政を選ぶというものだが、半年ごとに行われる執政の任命式もここで行われる。眺めは抜群で、晴れた日にはアペニン山脈が見えるというが、上天気のこんな日でも下界はぼんやりと霞んで見えた。

 入国ビザ

サント教会堂リベルタ広場から少し行った坂道の途中にある事務所で、パスポートに共和国の入国ビザを押印してくれるという。これも観光収入のうちで、何とスタンプを押してもらうのに2000リラ払わねばならない。以前にチェコで押してもらった入国ビザはいい記念になっている。滅多に来ることのない国だから押してもらうことにした。

ひんやりした事務所の窓口で紙幣とパスポートを係の女の人に出すと、印紙を貼ったその上にスタンプが押されて返ってきた。切手で有名なサン・マリノらしく国家の紋章になっている三本の塔を描いた印紙がきれいだった。

そのまま上に進むと、妙に人気のない開けた広場のような場所に出た。中世の街並みには不似合いな気のするギリシア神殿のようなファサードを持つネオクラシック調の建物は1826年から10年がかりで建てられたサント教会堂である。デ・キリコの絵のような風景を後に、また細い小路をたどると、第一の塔に出る。

 ロッカ

ロッカ(第一の塔)信教の自由を守るために他からの干渉を避けて独立を試みたのがこの国の起源である。自由と独立を獲得するためには戦わなければならない。サン・マリノは、歴史上何度もの戦いにおいて防衛に成功している。イタリア最古の塔を持つ三つの城塞はその役割をよく果たした。

断崖の上に建てられた城塞や中世の面影を濃く残す石の街並みを見て、この国を訪れる人は先ずロマンティックな雰囲気に誘われることだろう。しかし、険峻な山頂に造られた城塞もそうだが、塔の下にある武器博物館や、野外に展示されている兵器類、土産物と、武具や武器がやたら眼に着くことにやがて気づくことになる。国家が自由と独立を維持するために払わねばならない代価とはどういうものであるかを、これらはよく物語っている。

その一方で、迫害を身をもって知る集団が作り上げたこの国は難民を手厚くもてなすことでも有名である。ガリバルディも戦いに敗れたとき、ここに逃れたことがあった。また、先の大戦においても、イタリアの参戦にも拘わらず中立を守り、戦火を避けるイタリア国民を受け入れたという。小さくともきらりと光る国というのは、サン・マリノのような国のことをいうのではないだろうか。

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last update 2001.8.23. since 2000.9.10