Summertime in Italy

 COMO

コモ湖は、古くから貴族や芸術家達の別荘地として知られていた。ミラノから車で一時間足らずで、アルプスの雪解け水が集まる湖に着く。さすがミラノは北イタリアである。暑い暑いと言ってばかりいた今回のイタリアだったが、暑いときにはイタリア人も避暑地に来ていたのだ。湖について船着き場に立つと、湖面を渡る風の涼しさに人心地がついた。何だかやっと、旅行に来たという妙にくつろいだ気分になった。

考えてみると、これまでの文章で分かってもらえると思うが、やたら見るものが多く、つい真剣に見入ったり、考え込んでしまったりして、旅行気分に浸れなかった。英国貴族の子弟なんかが、勉学を終えた締めくくりとして、古典芸術の本場であるイタリアを周遊するグランド・ツァーなるものがあると物の本で読んだことがあるが、今回の旅行はなんとなくそれに似ている。ちがうのは、金と暇の無い分、駆け足になるので余裕が持てないということだ。

 湖上遊覧

専用エレヴェーターを持つ別荘湖上遊覧と聞いて、風に吹かれてのんびりするのか、いいなあなんて思ったのだったが。
「右手の正面に見える大きなお屋敷、あれが、歌手のミルバの別荘だったところです。今は売りに出ていますが。」と、説明が入った。「へえ、ミルバの別荘があるんだ。じゃあ話の種に」と、また見入るはめに。その後、ヴェルサーチやらヴィスコンティやら、チャーチル、ソフィア・ローレンと、出てくる出てくる。次々と、人名辞典でもめくっているのかというくらい説明が入った。

結局、湖の岸辺に建つ超豪華な邸宅の見学会となってしまった。どの家も多くは緑の鎧戸を閉めて、人影がなかった。たまにボートが止まっていたり、二階の窓が開いていたりすると、ああ、今日は来ているんだな、と分かるらしい。もっとも、本人とは限らない。有名人にはお友達も多いので、お忍びでそういった人が使うことも多いらしい。かつては、貴族が所有していた別荘も、今はデザイナーや映画俳優などの手に移っていた。そういう時代なのだろう。

 カブール広場

カブール広場前のドゥオモ
船を下りると、目の前にある少し開けたところがローマ広場。スポーツ用品店やブティックなんかがあるちょっとしたショッピング街になっている。妻は、またジェラッテリアを見つけた。今度のジェラートはミント味だそうだ。

桟橋からローマ広場を抜けて、少し歩くと、ネオ・ゴシック様式のわりと新しいドゥオモが見えた。その前に少し入り隅の空間ができていて、カフェの赤い椅子が並んでいた。カブール広場である。小さな広場なんだが、町の中心はここだぞ、とはっきり自己主張しているようだった。

ヨーロッパでは、たしかに、どんな小さな町に行っても高い建物を見つければ、その下に人が集まることができる空き地がある。そこを中心にして町が作られているのだ。その高い建物が、ある時は教会の鐘楼であったり、王宮の塔、議会の時計塔であったりするのは、権力の在処のちがいを示している。権力が誰の手にあろうと、町の中心に広場があるのは変わらない。道は広場から伸びているから、旅人は、いつも広場を目指して集まってくる。広場を見つけるとほっとするのは訳があるのだ

コモはシルクの産地として有名で、一流ブランドの製品もほとんどはコモで生産されている。有名ブランドのスカーフなどを安く売る直販店もコモの名物になっているらしい。色や柄の種類が多いので、欲しい物さえはっきりしていればお気に入りの一枚が見つかるにちがいない。ブランド品かどうかは知らないが、妻も一枚手頃な大きさのスカーフを買った。一緒に旅をしていて分かったが、スカーフというのは便利な物である。暑ければ帽子代わりに、寒ければ肩掛け、膝掛けになる。教会のように肌の露出が制限されているところでは必須アイテムである。そういえば、ミラノのドゥオモの前では、スカーフを売る中国人が多かった。いつも鞄に入れている妻が出して見せたら、向こうに行ってしまったが、うまいところに目をつけるものだ。夜はまたミラノに戻った。
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last update 2001.8.30. since 2000.9.10