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やきものの話
 磁器と陶器の違いって何? セトモノってどんな焼き物? 買ったばかりの器はお湯で
煮るといいってほんと? など、焼き物についての素朴な疑問からちょっと専門的な話ま
で思いつくままに綴って見ます。質問もお待ちしてます。

◆磁器と陶器
 焼き物の話をしていると、実に良く聞かれるのが「磁器と陶器はどこが違うの?」と言う質問。
結論から言えば、それは「原料」の違いである。磁器は「陶石」と呼ばれる石を粉砕したもの、
あるいは「さば」という花崗岩の風化物に粘土分を加えたものが原料で、これを1280℃〜
1300℃で還元焼成(燃焼のための酸素を減らし強制的に不完全燃焼させる焼き方)する。焼
きあがった素地は純白で透光性があり、指先ではじくとチンと澄んだ音がする。
 一方、陶器と呼ばれるものは、山から掘り出した原土を稀にそのまま、一般的には篩(ふる
い)にかけて精製して使う。場合によっては産地の違う土をブレンドしたり、鉄分や他の原料を
加えこともある。焼成温度は磁器より低い場合が多く、1100℃〜1250℃である。陶器には普通
吸水性があるため、釉薬に貫入(細かいひび)があるものでは長時間水を入れたままにしてお
くと、器の裏側に滲みだしてしまうことがある。
  以上のような事から、磁器を「石もの」、陶器を「土もの」と呼ぶこともあり、強さと衛生面、
手入れの楽なことから家庭では磁器の器が使われる事が多いが、味わいや温かみでは陶器
も捨てがたいのである。(2002.10.28)



◆器を買ったら
 私の個展でも、お客さんから「新しい器を買ったら、まずなべに入れて煮ると丈夫になるんで
すよね」と聞かれる事が良くあるが、いつも説明に苦労する。1300度近い高温で焼かれたもの
がたった100度のお湯で強度が増すとは考えにくい。しかし陶器についてはあながち間違いで
はない。前述の「貫入」が関係しているのだ。
 貫入とは陶器の表面を覆う釉薬のひびで、青磁のようによくわかる貫入もあれば、一見ひび
などないようなわかりにくいものもある。当然、水、油などの液体はこの貫入の間から器の中
へと滲みこんでしまう。「気に入って買った陶器の鉢に煮物を入れて食べたが、しばらくしまって
おいたらカビが生えていた。」とか、「何度洗っても醤油のにおいが取れない。」などのトラブル
はこの貫入にはいった煮汁や油が原因である。
 これを防ぐには、陶器の器は使う前(料理を盛り付ける前)ごとにお湯や水につけて、貫入に
先に水を入れてしまうことである。買った最初だけお湯で煮ても意味はない。
 ただし、新しい器を最初に米のとぎ汁で煮ると、目止めの効果があることは、私も実験で確
認したが、効果は一定期間だけであるため、時々行うのが良い。
  また、カビが入り込んでしまった器を低温(700度前後)で焼きなおしてきれいにすることもで
きるが、場合によっては割れたり色が変わってしまうこともあるため、最後の手段と考えた方が
良い。(2002.10.28)









◆青磁について
 青磁は中国で作り出された焼き物で、窯や焼成技法の発達により、約千年前の宋の時代に
はほぼ完璧とまで言われた作品が作られている。
 その魅力はなんといっても深く美しい釉調にある。一口に「青」と言ってもその色調は様々で、
時代や産地により、天竜寺青磁、砧青磁など、70種類以上に分類されている。ちなみに私の
好みは南宋の可窯で作られた青磁で、口辺の釉の薄い部分と胴部分の深い青とのバランス
がなんとも言えず美しいものである。

   


  青磁の青は、ガラス状の釉に溶け込んだ微量の鉄分(酸化第2鉄)によるもので、しかも還
元焼成と言う、窯内の酸素供給を抑えた特殊な焼成方法によってのみ、生まれるのである。唐
の時代の青磁はまだこの還元焼成が完全ではないため、黄色がかったオリーブ色をしている
が、宋代に入ると、天青や粉青と呼ばれる美しい青緑色の作品が作り出されるようになった。
 先日訪れた台湾の故宮博物院の展示物を見ると、「玉」(ぎょく)と呼ばれる翡翠の宝飾品や
装身具が、青磁が焼かれるはるか以前から驚くべき細密な技術で加工され、身分の高い人た
ちに愛されてたことがよくわかった。青磁は人工の「玉」として、当時の国力を挙げて作り出さ
れてきたであろうことは想像に難くない。
 
 写真からもわかるように、青磁には「貫入」と呼ばれる釉薬のひびがある。そのひびの大きさ
や形は千差万別であるが、作品の表情を左右する大切な要素を持っている。氷裂紋(ひょうれ
つもん)、蟹爪紋(かいそうもん)、亀甲紋など、形によっていろいろな名前がつけられて、好み
も様々ではあるが、全て土と釉薬の熱膨張、収縮率の差により生まれるものである。土と釉薬
の膨張が同じなら貫入は出ないが、土よりも釉薬の膨張が大きいと貫入が入る。逆に土の膨
張が大きければ釉薬が土からはがれたり、シバリングと呼ばれる「割れ」をおこす。薄い素地
に厚い釉薬を施す青磁では、釉薬の調合と同じかそれ以上に素地となる土には神経を使う。
 青磁以外のやきものでも、よく見るとこの貫入は見られることが多い。陶器の湯飲みなど、長
く使ううちに貫入に茶渋が入り込む事でよくわかる。   (2002.10.24)

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