□■□ しっぽのきもち 5 □■□



 久しぶりにパートナー付きの任務が入った。
 暗部に入ってから―――つまりは写輪眼を手に入れてから、カカシはほぼ全ての任務を単独でこなしてきた。親友を亡くしてからのカカシは、 誰かと組む事が出来なくなったのだ。その為の火影の配慮とも言える。

 それが近頃カカシの様子に変化があったと、火影に報告があった。
 実際火影もカカシと会って、随分落ち着いたものだと感じた。この調子なら再び誰かと共に任務に就く事も可能なのでは、と。
 任務内容にもよるが、やはり単独よりはパートナーと組む方が生還率は格段に違うものだ。
 火影はカカシのリハビリも兼ねて、それほど難しくないけれど人手のいる任務をカカシに回した。パートナーには気心の知れた上忍。
 「至れり尽くせりだね、まったく」
 カカシは苦く笑った。

 待ち合わせは火影の執務室だった。いつもの如く時間に遅れて、カカシはドアを開けた。



 詐欺だと思った。目の前の男に対してだ。

 猿飛アスマは知己の上忍だ。オビトを通じて知り合ったのは、もう3年ほど前になるか。オビトの友らしく、 実力はあるのに奢る事のない気さくな性格が気に入っていた。案外お節介な性格だと分ったのは、オビトが死んだ後の事だ。
 カカシが暗部に転属されてからは、ほとんど会う事もなくなったが。
 しかし、と思う。
 2年くらいだ、最後に会ってから。
 それでなんでここまで変わるのだろうと、少し呆れ気味に男を見上げた。
 2年前にはそれ程差のなかった体格は、縦も横も軽くカカシを上回っている。別に体格がイコール忍びの実力と言うわけではないから、 多少の差など気にもしないが。とは言えかつての同輩から見下ろされるのは、あまり良い気分ではなかった。
 「それ、反則…」
 ムスっとしながら、ぼそりとカカシは口を開いた。
 「よお、相変わらず細っこいな、おめえは」
 「ちゃんと筋肉はつけてるよ。ただ細いだけじゃな〜いよ。そっちこそ、何を食べたらそんなデブるわけ?」
 「誰がデブだ、このやろ!こっちも筋肉だ、筋肉!」
 「…それにその髭…」
 「ん?いいだろ、コレ。かっこいいじゃねえか、髭!」
 「げーっ!やめてよね。似合わないよ、そんなの」
 「何だ、羨ましいのか?薄いからって気にするなよ」
 ガハハハと笑うアスマの足をカカシは思いっきり踏みつけた。
 「てっ!てめえ、何しやがるっ!」
 「ちょっと育ったからって威張るんじゃな〜いよ。アスマのくせに髭なんか生意気なんだよ!」
 「お主ら、ここを何処じゃと思っておるか!いい加減にせんと怒るぞ!!」
 ゴンゴンと二人に拳骨をくれてから、火影は怒鳴る。
 「久し振りに会って懐かしいのは分るが、まずは任務の説明を聞け!」
 「「すみません…」」
 声を揃えて恐縮する、まだ年の若い上忍達を火影は慈しむように眺めた。

 カカシとアスマは揃って夕暮れの中を歩いていた。目的地はカカシの家だ。
 「しかし、噂もたまには当てになるもんだなあ」
 「噂って何の?」
 顔を向けずに質問する。
 「何のって、おめえの。最近丸くなったって…」
 「…はあ?」
 「で、丸くなったのはなんでだ?コレでも出来たか?」
 小指を立ててみせるアスマに冷たい視線を向けながら「アホらし…」と呟く。
 「そんなんじゃな〜いよ。でも同居人が出来た…からかな」
 「ああ?なんだ、やっぱり女か。そうか、おめえも案外やるじゃねえか!」
 ばんばんと大きな手で背中を叩く。その振動に顔をしかめながらこっそり溜息を吐いた。一体どんな噂が流れているのやら…。 どうせその噂の元は、この大男とかその周囲の奴らに違いない。




 「ただいま〜」
 カカシがのんびりとした声で帰宅を告げる。
 「んな〜う!」
 ぴょんと黒い影がカカシに向かって飛びついた。
 「遅くなってごめ〜んね。すぐにご飯あげるからね」
 コキコキコキ…とネコ缶のふたを開ける音が響く。アスマはそれを呆然と見守った。
 「お…、おめえ…。なんだ、それは」
 「あ?見て分かんないの?俺の同居人」
 「猫だろうが…」
 「猫だけど?」
 「…おめえな」
 がっくりと項垂れるアスマを余所に猫はカカシにご飯を催促する。
 「ああ、ほら。お待たせ」
 いただきます、と言ったつもりか一言みゃうーと鳴いてから、がつがつと美味しそうにネコ缶を食べ始めた。
 「慰霊碑でね、こいつに会ったんだよ。丁度オビトの命日でさ。なーんか放っておけなくて連れて帰ったらそのまま居着いちゃったの」
 「ふうん…」
 放っておけなかったのはお前じゃなくて、恐らく猫の方だったろうよ。
 何気なさを装いながらアスマは心の中で思った。
 きっと、この猫でなくとも。その日、その場所でお前を見たなら。
 もちろん声になんか出さなかったし、表情にさえも出さなかったが、そうアスマは思った。


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