□■□ しっぽのきもち 3 □■□



 毎朝カカシを起こすのは拾ってきた子猫の仕事だ。
 と言っても別段カカシは寝ぼすけなわけではない。毎日朝早くに家を出て行く。小一時間ほど経った頃、のそりと帰ってきて、 そして二度寝を決め込むのだ。
 そのまま昼まで眠り込んで、ようやく起き出してくる頃世間ではお昼ご飯の時間だ。朝昼兼用で適当にあるものを食べて、 その後入ってくる任務に就く。カカシの毎日はずっとそんなだった。
 暗部に配属されてからは、時間などあってないようなものだ。昼だろうが深夜だろうが、見境なく任務は入る。 暗部という部署の性格からして、闇夜に乗じる任務も多かった。おかげで人間らしいまともな生活などきっぱり営めなくなった。 尤もそんな事を気に懸けるカカシでもなかったのだが。
 人間としてはどうかという生活も、忍びとしてならそんなものだろうと思う。
 上忍で暗部で写輪眼なのだ。
 まともな人生など、とっくに放棄した。
 なのに子猫を拾った。
 誰かと一緒にいる事の居心地の良さと悪さを、一気に思い出してしまった。
 

 気まぐれで拾った猫は、毎朝カカシを起こす。二度寝の微睡みの中にいるカカシを、これでもかという程しつこく舐め回して起こすのだ。
 自分が起きているのに寝ているとは何事だと言わんばかりに。
 「ちょっと、お前ね〜。俺はさっき戻って寝直したばっかりなんだよー?もう少し寝かせてよー。眠いの、わかる?」
 「にゃああ〜」
 「ホラホラ、寝ないのならお前は外に出ておいで。俺は寝るんだから」
 「にゃにゃにゃ〜」
 「……なんか恨みでもある?」
 猫はしつこくカカシを舐める。
 そこで、はたとカカシは思い当たる。
 「そうか。腹が減ってたんだな、お前」
 考えてみれば夜の食事のあとは、次の日の昼まで、つまりカカシが起き出すまでオアズケ状態なのだ。 一度に沢山食べられない子猫に、一日二食はさすがにひもじいだろう。
 「ごめ〜んね。俺があんまり食べないもんだから、うっかりしてたよ」
 そうしてカカシは、毎朝慰霊碑から戻ると子猫のために食事を用意するようになった。子猫は起きて、その朝ご飯を食べる。 がつがつと綺麗に平らげると、そのままカカシの眠る布団に潜り込む。そうやって一人と一匹はゆったりと昼まで眠るのである。

 「…似てきたねえ、お前。そうやってどこでも眠るトコなんかそっくり。ああ、やだやだ。猫が眠るのなんか当たり前だってのに」
 言葉ほどカカシは嫌がっていない。
 それどころか、くすぐったい気持ちになっている。
 そしてどうやら子猫もそれを分っている節がある。
 子猫は恐ろしく頭が良かった。拾ってきた当初から、カカシが言いつけた事は一度で覚えたし、必ず守った。
 「お前って、もしかして頭いいの?」
 「にゃあ〜」
 「なにそれ?当然って言ってんのかな?もしかして。ま、俺の言うコトちゃんと分ってるみたいだしねえ…」
 案外ちゃんと育てればいいところまで行くかも知れない。
 けれど、ちょっと考えてからカカシはその計画を放棄した。
 「頭は良いけど、お前ちょっと運が悪そうだもんねー」
 呟いてくっくっく、と笑う。
 と、ばりっという音が真横から聞こえてきた。何事かと見ると、子猫が畳で爪を研いでいるではないか。
 ばりばりばりっ!
 それを呆然と見やりながら、子猫の八つ当たりの犠牲になった畳に心の中で手を合わせた。
 「…ったく、お前ね〜」
 ひょいっと子猫を掴み上げる。子猫はにゃうう〜と抗議のうなり声を上げたが、これ以上畳で爪を研がれては困るのだ。 いくら古い家とはいえ。
 そうやってカカシと子猫は、まんざらでもない共同生活を満喫していた。



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