綺羅星 [2]
後ろに戸惑うイルカの気配を感じながら、カカシは家に向かって歩いていた。
普段なら誰であろうと家に連れ込むことはしない。けれども明日から任務が入っている。この男を誘ったのは突然思い立った事だから、
相手の家にのこのこ着いていくのは憚られた。
イルカは何も言わずに、素直に着いてくる。
何されるかわかってんのかね、この人…。
呆れ気味にそんな事を思うが、もちろんわかってなかったとしても止めるつもりは微塵もなかった。
寝室に入って、乱暴にイルカをベッドの方に押しやる。
戸惑いや混乱の感情は大きくなったが、カカシに対する反発はイルカからは感じられなかった。
「ねえ、アンタ。なんて名前?」
イルカの態度にイライラしながらカカシは問う。初めてイルカが口を開いた。
「イルカ…、うみのイルカです」
「ふうん。どういう状況か、わかってるよね?」
仮にも中忍、戦場に出たこともあるだろう。その時に男相手の夜伽くらい、誰でも一度は体験しているはずだ。
イルカは顔をさっと朱に染め上げて、小さく肯くことで答えた。
「そ?わかってるんなら、いいよ」
それなら遠慮は要らない。
「バスルームはあっち。シャワーを浴びるんなら、さっさとして」
イルカはベッドから身体を起すと、慌ててバスルームに駆け込んだ。
その間にカカシは明日の準備を整えることにした。護衛任務とはいえ、何が起こるかわからない。不測の事態にも柔軟に対応出来るよう、
整えておかなくてはならない。クナイや千本などの武器に、数種の丸薬、巻物などなど。特別に調合して貰った薬もある。
それらを簡単に纏めていると、しばらく続いていた水音が止みドアの開く音がした。ふと先程のすれ違いざまに見た、
イルカの目が思い出された。黒曜石のようなあの目…。任務前の処理のために連れてきただけなのに、何を気にしているというのか。
大きく頭を振って、あの吸い込まれそうな黒い目を追いやった。
「あ、あの…」
火照った肌が淡く色づいて、カカシを誘う。カカシはベッドに上がって、イルカを手招いた。
…まあ、一々脱がさなくていい分楽だね。
おずおずと近付くイルカを跪かせて、その鼻先にまだ力のない自身を突きつける。
「舐めてくれる?どうせアンタの中に入るもんだし、準備しとかないと痛いのはアンタだからね」
イルカは一瞬顔を強ばらせたが、すぐにそれに手を添えて舌で触れた。
ねっとりとした舌の感触がカカシを包む。カカシは息を詰めて、それを楽しんだ。
完全に勃起すると、イルカの唇から引き抜いた。
「そこまで。言ったでショ、これはアンタの中に入る奴だって。このままだとアンタの口に出しちゃうからね」
「…あ…」
尻を持ち上げられ、カカシがそのはざまに顔を埋めると、初めてイルカは抵抗らしいものを示した。
「やっ…、やめて、下さいっ…!あっあっ、そんなこと…っ!」
イルカは身を捩って、カカシの舌から逃げようとする。
カカシはそれを許さず、さらに奥に舌を差し込んで愛撫を加えた。イルカの放っておかれたモノからは、
しとどに蜜がこぼれ落ちている。カカシはようやく顔を上げると、熱くたぎる自身を唾液と舌で解されたイルカの蕾に押し当てた。
「……ひっ…!」
耐えられない質量が、イルカの中に入ってくるのを感じた。痛い…っ!と心と身体が悲鳴を上げている。
「あ……、ぁう…っ」
思ったよりずっと、イルカは男を受け入れるのに慣れ
ている。苦痛を何とか和らげようと、力を抜こうとする様子を見てカカシはそう思った。恋人が男なのか、
それとも任務で仕方なく慣れるしかなかったのか…。
チリ…と微かな痛みが胸を焼く。
それに気付かない振りをして、カカシはことさら乱暴にイルカを抱いた。
「気持ちいい?」
揺さぶり続けながら、耳元でささやく。
「……っ」
必死に声を押し殺そうとしているイルカには、答えるすべがない。
「アンタのココ。さっきからぎゅうぎゅう締め付けてくるんだけど…感じてるの?」
言葉と同時にぐいっと腰を突き入れる。
「…っ!ひっ…あ、あ…っ」
ずるりと引き出されては、再び突き立てられて、敏感な内部を苛むように擦っていく。ビクビクと四肢を痙攣させてイルカは吐精した。
それを追うように、カカシもイルカの中に吐き出した。
結局三度ほどイルカの中に放った後、カカシはバスルームに向かった。汗とこびりついた精液を洗い流しながら、寝場所の算段を付けていた。
イルカはぐったりとベッドに伏して動かない。かなり乱暴に抱いたから、このまま朝まで目を覚まさないだろう。
シーツは二人分の精液でドロドロだから、あそこで寝る気はちょっとおきなかった。
「ソファーベッドかな…」
上掛けを取りに寝室に入ると、そこにはすでにイルカの姿はなかった。
「………」
見るとドロドロだったシーツが、パリッとした新しい物に取り替えられていた。脱ぎ捨ててあったカカシの服も、きちんと折りたたまれている。
「まさか帰ったのか…。あの状態で?」
と言うより動けたのか?
気配を探っても、もうこの近くからは感じられない。
カカシは、新品のシーツに飾られたベッドに腰を下ろした。そうして、そのまま眠ることにした。
一晩くらい寝なくても体力的に何の支障もないが、シーツを買えてくれたイルカの心遣いを無駄にする気にもなれなかった。
任務は二週間。
それから戻ったら、また会いに行くのもいいかもね、と思いながら目を閉じた。
人気のない未明の大通りを、イルカは足早に家に向かっていた。歩幅が狭いのは、カカシがイルカの中に放ったもののせいだ。
気を抜くと、蕾からトロリとそれが流れてきそうでどうにも気になる。早く帰って、それを掻き出したい衝動に駆られた。
いつの間にか足下に影が出来ている。見上げると、雲の隙間から月が顔を覗かせていた。冴え冴えとした銀の月は、
どこかカカシを思い起こさせた。
色素が薄いからだろうか、なんとなく体温の低いイメージがあった。けれども先程まで感じていた腕は、とても力強くて熱かった。
そりゃあセックスをしていたわけだから、当然と言えば当然なのだが。
カカシが何を考えて自分を抱いたのかはわからない。
それでもずっと憧れていた人だったから…。
はたけカカシと言えば、エリート中のエリートだ。6歳で中忍になり、その後異例の早さで上忍まで駆け上がり、
暗部としても数々の任務を成し遂げていた。額当てで隠された左目は写輪眼で、初めて見たマスクの下のその顔は
見たこともなくらい綺麗だった。
あんな人もいるんだなあ。何も持たないイルカとは、あまりに対照的な人だとずっと思っていた。遠くて、遙かに遠くて手の届かない、
そんな人だと。
イルカはかつての九尾の災厄で、両親を失った子供だった。両親を亡くした子供は他にもたくさんいたが、
親戚を一人も持たない子供はイルカだけだった。
父も母も、肉親の縁に薄い人だったらしい。
火影が遠い親戚を、それでも見つけてくれたときは自分が一人ではなかったと知って嬉しかった。
けれども、その気持ちはあっさり裏切られる結果となった。
「忍びの子供なんて、引き取れないわ。だって普通じゃないでしょう?要らないわよ、そんな子供」
遠縁の人間は、忍び社会とは隔絶された所で生きてきた人達だった。忍びという物を理解出来なかったのだ。
子供は両親から無償の愛を受け取って大きくなる。無条件で愛してくれる人間がいると言う事を、親から学ぶ生き物だ。
けれどもイルカはそれを学ぶ前に、無理矢理奪い取られてしまった。もちろん両親と共に過ごした十年は、何物にも代え難い記憶だ。
けれどもそれを、九尾と遠縁の人間達が粉々に壊した。
拒まれた自分は一体何処に行けばいいのか。
身の置き所はある。火影様が作ってくれた。
けれども、心はずっと迷子のままなのだ。
だから差し伸べられた手を取った。好きだと、必要だと言うその言葉に縋り付いた。
その時からずっと、イルカは言葉に縛られている。一人になるのが怖かったから、例え一時の慰めだろうとその温もりを欲したのだ。
自分のような人間を欲しいと言ってくれる事を、有り難いとさえ思っていた。「要らない子供」というトラウマを忘れるために、
イルカはそれに縋り付くしかなかった。
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