濃厚な表情をつけながらも、全体をよく見据えて設計 

〜西井葉子ピアノリサイタル〜 諌山隆美

『ショパン』((株)ショパン)2月号

 

慶応義塾大学仏文学科を卒業後クロアチアの音楽学校に全額奨学生として留学し、修士課程まで5年*(注)で終えたという、かなり異色のピアニスト西井葉子の帰国記念リサイタルが開かれた。日本の音楽大学は卒業していないが4歳からピアノを始め、全日本学生コンクールは小学校、中学校、高校と入賞歴があり、他に国際コンクール入賞歴がプログラムに7つも記され、アマチュアの延長ではない立派なリサイタルであった。

クロアチア時代にはザラフィアンツの助手も務めていたとあるが、なるほど濃厚で説得力の強い、じっくり聴かせるタイプの演奏が展開された。中でも冒頭のJ.S.バッハ『半音階的幻想曲とフーガ』はふくよかな呼吸をもってやや瞑想的ながらも、強く思考し訴えかけるとても優れた出来映えを聴かせた。続くブラームスの第2ソナタにおいても一音一音に思い切り意識をこめて濃厚に表情づけがされていくが、全体をよく見据えて設計してあるため、ブラームスのメッセージが実に手際よく示されることとなる。大いに感心させられた。

(中略)

最近の若手のピアニストでは、とても印象深い存在となった。

                                         (11月1日 トッパンホール)    

*(注)3年