『音楽の友』((株)音楽之友社発行)20092月号

 

慶應義塾大学仏文科、クロアチアのミルコヴィッチ・アカデミー、ザグレブ・アカデミーで学び、ピアニストのザラフィアンツの助手も務めていた西井によるオール・ロシア作品。

大曲・難曲3曲で、先ずチャイコフスキー「グランド・ソナタ」。30分を優に超える曲だが、各楽章とも実に緻密に詩的に練ってあるので短いフレーズすらも愉しい。第2楽章の3部形式などは、テーマや対するフレーズへの音色の選び方に感心。なので現れ出でる音楽は、ロシアの童話のページを捲っているよう。

後半はプロコフィエフ「ソナタ第8番」とラフマニノフ「ソナタ第2番<改訂版>」。チャイコフスキー同様、後半の2曲も熟考されている。過度に熱くなったり分厚く構成もしていない。どんなフレーズや和音も隙がないほど理性的に知的に奏されるのだが、奏者と作品との距離感が広くはないか。技巧も確かなのだから、1+1=2と纏めなくても破綻はしない。1+1=無限大では?

                              

 20081110日 浜離宮朝日ホール)    

                                        上田弘子